「デジタル教材の教育学」2010年 山内祐平編
○2011年夏学期授業「学習環境のデザイン」の教科書。
歴史的経緯、背景理論、設計評価、事例が勉強になる。
(・引用/要約 ○関根の独り言)
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●序章 デジタル教材と教育学
・デジタル教材=教育目標の実現のためにデジタル化された学習素材と
学習過程を管理する情報システムを統合したもの
・教材制作に必要な教育学的知識はほとんど流通していないのが現状である。
その結果、過去に研究された問題点が指摘されているにも関わらず同じ
失敗を繰り返したり、適切な評価方法を知らないために過剰な効果を
主張する教材も見受けられる。
○これは耳に痛いなー。研修業界への厳しい言葉。
・教育工学で取り上げられてきたデジタル教材の3つの流れと背景にある原理
1)CAI 1975-1985 スキナーの行動主義
2)マルチメディア教材 1985-1995 ピアジェの認知主義
3)CSCL 1995-2005 ヴィゴツキーの社会構成主義
・デジタル教材の背景には「学習とはそもそもどのような行為であり、
どうすれば支援できるのか」という思想が隠されている
●第1章 個人差に対応する CAI
・1920年代 S.S.プレッシー 「ティーチングマシン」の考案
・1950年代 B.F.スキナー オペラント条件づけによる「プログラム学習」の提唱
・CAIの原型 Socrates → Plato(教材作成を支援) Buggy
・CAIの背後には、行動主義をベースとした学習理論がある
行動主義では、客観的に観察可能な行動を重視した
・CAIの学習プログラムは、学習目標に向かい小刻みに累積することで、
学習効果をあげようとする直線型プログラムであり、学習者の学習速度
という個人差のみに応ずるものだった
●第2章 学びの文脈を作る マルチメディア教材
・マルチメディア教材=テキスト、音声、静止画、動画などの多様な表現形式
(マルチメディア)の情報を統合した形態をとる教材
・ハイパーメディアに収められた情報は無構造であり、利用者が各々の関心
をもった情報を飛び回ることができる
マルチメディアが「学習者の主体的な学習」を可能にするとは、このような
特性に寄せられた期待でもあった
・「ミミ号の航海」映像ドラマ、対となる発展番組、関連ソフト、読本
・背景にある学習理論
1)多元的な情報からの学習
複数種類の情報が組み合わされることの学習効果 メイヤーの研究
人が言葉だけからよりも、言葉と絵の組み合わせからの方がよく学べる
2)能動的な学習
人間は基本的に能動的であるという人間観
スイスの発達心理学者ピアジェの「構成主義」Constructivism 認知革命
○2010年夏合宿で、ピアジェを担当してよかった
まだまだ理解不足だから、もっと勉強しないと。
●第3章 議論の中で学ぶ CSCL
・協調学習=複数の学習者がグループになって、一つの問題を調査したり、
議論したりしながら学習する形態
・協調学習の実践に、CSCLを取り入れるメリット
1)コンピューターを使った議論や共同作業を通じて、自分の考えを頭の外に
表現する外化を促進できる点
2)ネットワークが学習者共同体を形成する基盤となる点
・事例 CSILE/Knowledge Forum WISE LeTUS
・協調学習は、学習科学と呼ばれる最近勃興した学問領域の中で
集中的に扱われている
・1990年代以降 「社会構成主義」「状況論的学習論」
行動主義や構成主義:学習=個人の内的な変化
社会構成主義: 学習=社会的関係の変化
・「社会構成主義」「状況論的学習論」に基づく、CSCLのデザイン原則
1)真正性 2)リフレクション 3)足場かけ
●第4章 第2言語習得での活用 CALL
・第2言語教育アプローチ
1)1940~50年代 構造的 母語と第2言語との構造の違いに着目
2)1980年代 認知的 気づきを強調
3)1990年代 社会認知的 相互作用 ヴィゴツキーの発達の最近接領域
○背景理論 パラダイムの変化
内観(中)→行動(外)→認知(中)→社会(外)→ ?(中?)
●第5章 企業内教育での活用 eラーニング
・2000年を過ぎた頃から「eラーニング」ブームが始まる
・eラーニングの時代となり、これまで理論に関心の低かった企業内教育関係者
がコンテンツ開発の拠り所としてIDの手法を取り入れ、学習を科学的に捉え
直す動きが出始めている
・産能大学では、紙と郵便ではなく、パソコンとネットを用いてこそ出来ること
は何かを問い続け、Arrange、Achieve、Assistの特徴をもつeラーニングを開発
・GBS理論(Goal Based Scenario)Schankら に基づくTara-Reba eラーニング
・企業内教育業界全体でも、eラーニングの普及を疑問視する声が多い
今までは公式の学習機会(集合研修)の代替手段としてeラーニングを
捉えてきた
・eラーニングの可能性の全てを引き出せてはいない
●第6章 学びと遊びの融合 シリアスゲーム
・ヴィゴツキーは、幼児のごっこ遊びに着目して、子どもたちは遊びを通して
現実の事象を抽象的に捉える認知的スキルを身につけ、社会的な役割や
振る舞いを学んでいると考察。
○長女(8歳)、次女(5歳)も「お母さんごっこ」遊びをよくしている。
次女は4歳ぐらいから姉とケンカしたときに、言葉で言い返すことができる
ようになってきた。その頃ぐらいからごっこ遊びが増えてきた気がする
・ゲームが想起させる不真面目さを避けるために、シミュレーションという
名称があえて使われることも珍しくない。
・シリアスゲーム=教育や社会における問題解決のためにデジタルゲームを
開発、利用する取組みをまとめた概念
・シリアスゲームの開発では、ゲームを利用する側の学習だけでなく、開発する
側の学習にも着目しており、ゲームの開発とゲーム開発者人材の育成を
組み合わせた取組も良く見られる
・ゲームの「コミュニケーションメディア」としての側面
●第7章 デジタル教材を設計する
・教材開発はもとより、教育システム全般の開発に広く利用され、成果を
あげているインストラクショナルデザインの考え方
・IDのプロセスの中で最も基本的なものは、ADDIEモデルに従うものである
・プロセスを進行させることによって「よい教育活動」が生み出されるだけでなく
プロセス自体もより洗練されたものになっていく所が、IDの考え方の魅力
・デジタル教材を開発するにあたって、最初にすべきことは、学習者の現状と
学習目標を明らかにすることである。つまりどんな状態の学習者(入口)に
どんなことができるようになってもらいたいのか(出口)を決定する
・学習課題の3分類 認知、運動、情意領域
・どのように教えるかについて利用できる概念がガニェの9教育事象である
【導入】1.学習者の注意を喚起する
2.授業の目標を知らせる
3.前提条件を思い出させる
【展開】4.新しい事項を提示する
5.学習の指針を与える
6.練習の機会を作る
7.フィードバックを与える
【まとめ】8.学習の成果を評価する
9.保持と転移を高める
○これに対して、Engestromは「内的要因」として、教育事象の結果、
参加者に何が起こるのかを重視せよと主張したのかも。
・動機づけ理論の中では、KellerによるARCSモデルが良く利用される
・教材だけで全ての知識を身につけられるわけではない。現実場面での問題解決の
方法は同僚や先輩とのコミュニケーションがなければ身につけるのは難しい
こうした教材作成者にとって難しい現実と折り合いをつけるのに役立つ概念と
して「実践共同体」がある
・実践共同体の3要素
領域(Domain)コミュニティ(Community) 実践(Practice)
●第8章 デジタル教材を評価する
・新しく開発した教材が本当に現状を改善するものであったのか、それまでに
なしえなかった新しい教育や学習を可能にしたのかを検証する重要性
・教育評価においては大きく「形成的 formative」と「総括的 Summative」
評価 Evaluationに分けられる
・教材開発における評価は、その教材が素晴らしいものであることを示すものと
して重要なのではなく、よりよい教材を開発するための手段として重要
○これも耳が痛い。「研修」評価は、その研修をよりよくしていこうというより
も「その研修が素晴らしいから受講してちょうだいよ」という側面が強いかも。
・学習成果を測定する方法としては、学力検査、テストがある
テスト結果の数値化に対して合理的、客観的な基礎を与える理論がテスト理論
であり、よく知られたものとして「項目反応理論Item Response Theory」がある
・テストの性能は、信頼性 reliability と妥当性 validity について検討される
・学習成果を測定するテスト以外の方法:質問紙法、観察法
・教材評価の手法として広く援用されているのが、実験心理学の研究手法である
実験によって教材が学習効果をもたらしたという因果関係を推定する
・この内的妥当性を高めるための手法が、実験計画法であり、その基本は
無作為配分にある
・現実的な制約との折り合いをつけるのが「準実験」である
様々な工夫によって「ある程度」に確からしく因果関係を推定する方法
・教材評価は仮説検証型研究の枠組みの中で行うだけでなく、仮説生成型研究の
立場からも行っていく必要がある
・デジタル教材の場合、教材使用履歴データを容易に記録することができる
●第9章 デジタル教材の開発1 「親子deサイエンス」
・学校は子供にとって数ある学習環境の一つ
○確かにそうだよなー。長女(小3)の1日を見ても、
家庭、地域、学校、家庭 みたいな流れだもんなー。やっぱり家は大事。
家事や仕事を手伝うこと、妹弟の面倒をみることも大事な学習。
・科学教育の成否を握る場として最も研究者に注目されているのが家庭
・親子deサイエンスは、参加者全員が集まるワークショップと家庭において
各親子が個別に実施する家庭学習の2つの学習形態から構成されている
・自分の身の回りのことと関連付けて科学を学ぶことができる学習環境、
科学とは自分を含めた人々の考えが関与するものとして科学を学ぶことが
できる学習環境を家庭の内側に実現できた
○家で科学と接する機会をどう作っていくか?
次女は虫を捕まえるのが好きだから、外遊びが生物の学習になるかも
長女は畑仕事の手伝いとか、工作を通してかなー。
なるべく色々な体験はさせてあげたい。外遊び、アウトドア系を通して。
あとは「科学」的な考え方、ものの見方を身につける支援かな。
これは俺自身が今学習している途中だけど。
・子どもと親の双方に対して教育支援を行うことを目指した
・真正な科学の活動とは表面的に類似しているが、理論や法則、理論体系とは
無関係の活動を「ネオ科学」と呼び、日本にネオ科学の実験、観察が蔓延して
いると警告を発している(小川1998)
・家庭教育における科学教育のKFSは親の知識や態度を過信せず、彼らが子どもの
学習に積極的に関与することができるよう「リソース」や「機会」を提供する
ことが重要
○このプロジェクトがあったら参加したいなー。
●第10章 デジタル教材の開発2 「なりきりEnglish!」
・「なりきりEnglish!」では、学習者が日々直面する仕事を英語使用文脈として
設定した教材を志向することにした
・第2言語不安:不安によって第2言語の使用や学習が阻害される
●終章 デジタル教材と学びの未来
・今後も社会構成主義が支配的学習観でありつづけるかは分からない
・近い内に第4の学習観が登場する可能性があると考えている。
学習と創発を連続したものと捉え、新しい課題を発見し、解決の方法を
編み出すことを学習と考える学習観である。
○キーワードになりそうなのは、拡張的学習、ワークショップ かなー。
・学習観の転換がデジタル教材の流れに影響を与えている
・デジタル教材の設計において最も困難な点は、対面型の授業とちがって
学習者が見えないことである。
・人の一生の大半は、正規の教育によらない自発的な学習である
・学習者の間違いの多様さに感嘆する
・ネットで大量の情報が流通するようになっても、それが学びを通じた人間の
成長につながっていないのではないか、その問題意識がこの企画の出発点
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