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「学校から仕事へ」の変容と若者たち〜個人化・アイデンティティ・コミュニティ

「学校から仕事へ」の変容と若者たち〜個人化・アイデンティティ・コミュニティ

  乾 彰夫 


○移行過程の変容は、若者たちの意識より、社会構造の変化によるもの

(・引用/要約 ○関根の独り言)

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●序

・若者の「学校から仕事へ」の移行をめぐる不安定化と困難が急速に広がっている

・秋葉原事件 若者のしんどさが改めて浮き彫りに

・派遣労働、非正規雇用という雇用の不安定さとそれがもたらす不安 それに
 何よりも職場や社会において1人の人格として承認を得られていないという孤立感
 が大きいことが背景にある

・不安定化する若者たちの移行過程に何が起きているのか、そしてその問題をどう
 捉え、何を社会の課題として引き受けなければならないのかが、本書の課題。

・日本では学校を除けば、若者の自立を支える公的制度がほとんど存在せず、
 もっぱら家族と企業にゆだねられた


■1部 「戦後日本型青年期」の形成とその解体・再編

●1章 戦後日本における「学校から仕事へ」の移行過程〜その今日的意味

・バブル経済の崩壊した1990年代半ば以降、若者たちの「学校から仕事へ」の移行
 は急速に変容した。

・1990年代半ばから2000年代前半にかけてのいわゆる「就職氷河期」

・最終学校を卒業するまでに就職が内定し、4月1日に一斉に入社するという
 1960年代以降の日本社会に定着していた若者たちの「学校から仕事へ」の移行
 形態が大きく変容

・こうした状況は、1980年代に西ヨーロッパ、北アメリカ諸国の若年層に中に
 生じた変化と基本的に共通する

・社会構造的課題として把握されなければならない問題を、若者たち本人とその
 家族の責任に転嫁させるのは、もちろん新自由主義特有のレトリックである

・社会的中位水準を形成する大企業ブルーカラーについては、主に一般的学力を
 基準に一括採用され、職業技能形成については、もっぱら採用後の企業内教育
 を通じて行われることとなった

・西ヨーロッパ各国での中高等教育の拡張が、基本的には授業料無償化に加え
 ユニバーサルな奨学金制度などにより実現し、特に高等教育段階では若者の
 家族からの経済的自立を可能にしていたのとは、(日本は)大きく異なる

・若者たちは、成人年齢を超えても、就学期間中は基本的に社会的、経済的に
 家族の保護のもとにおかれ続けることになった

・高度成長期に成立する「戦後型青年期」は「新規学卒就職」という制度に
 枠づけられながら大衆社会段階の市民へと移行していくルートとして形成された

・「戦後型青年期」は、90年代移行の10年あまりを通して、急速に解体しはじめて
 いる。象徴するのが、新規学卒就職率の急速な低下と、その裏側でのフリーター、
 学卒無業者の増大である。

・その背景には、正規雇用の削減と非正規雇用の増大を中心とした雇用構造変化
 がある

・偏差値の低い学校ほど、また校内成績が下位の者ほど、フリーター予定や進路
 未定者の割合が高くなっている

・フリーター、学卒無業者の増大は、若者たちの意識変容の結果という以上に、
 社会の構造的変化が若者たちにそれを強いたものであり、社会的、学校経歴的に
 不利な条件にある者ほどその影響を強く受けている

・この「強いられた延長」を受け止める社会的枠組みは未成熟で、その負担の多くが
 家族によって担われ、またそのような家族や若者たちが「非難」される状況が
 依然として続いている

・問題の大きな背景が、若年労働市場を含む大きな社会構造変容にあることを
 認識すれば、個々の困難に個別に対応する以前に、若者が「学校から仕事へ」
 安定的に移行することを可能にするような社会的枠組みそのものの構築が
 何よりもまず必要であろう。

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■2部 ヨーロッパにおける移行過程の変容とその性格

●2章 後期近代と個人化

・A.ギデンズ、U.べックらの「後期近代(Late modern)」と「個人化(Individualization)」などをめぐる理論は、ヨーロッパにおいて若者の
 移行過程変容の今日的性格を理解する上で、しばしば参照されてきた。

・20世紀末以降の移行過程変容の基本的性格の一つとして、ほぼ共通の認識と
 されていることは「個人化」の進行である

・後期近代=近代化の第二段階(べック)

 国民国家的産業社会から多国籍的な混乱の世界、すなわちリスク社会への移行

・予測不能なあるいは個人がコントロールしようもない失敗すらも、個人の責任に
 帰せられる

・個人化のもとで自分固有の人生を生きるということは、常に自己の行った行為や
 過去を振り返りながら意味づけし直すことを通して、自分の人生経歴を
 コントロールするということなのである


●3章 自己再帰性と行為主体

・1990年代以降のヨーロッパにおける若者の移行過程研究では、社会構造と
 行為主体(Structure and agency)をめぐる議論が一つの焦点となった

・M.デュボア=レーモンは「トレンド創造的学習者」という概念で、自分の趣味
 などを活かしながら起業する若者たちの中に見られる新たな学習スタイルを
 描いている

・後期近代における行為主体の位置と性格に着目してその理論化を試みてきた
 1人が、A.ギデンズである

・ギデンズの議論において一つのキーとなるのが「再帰性(reflexivity)」という
 概念である。再帰性とは、行為主体が自己の行為の結果をモニタリングしながら、
 それを通じて自己のその次の行為をコントロールしていくことを指す

・コーテらは「アイデンティティ資本」という概念を新たに導入している
 彼らによれば、アイデンティティは取引可能なものである。

 アイデンティティ資本には、有形と無形のものがある。
 無形のものは「自我の力量」である

・C.メイらは、ギデンズの議論に対して、アイデンティティ形成において個人の
 主観性が果たす役割を過大評価し、個人が利用することのできる物質的資源や
 物理的環境が課している制約を過小評価していると批判している


●4章 アイデンティティと共同性・コミュニティ

・行為主体をめぐる理論の一つの軸は、アイデンティティに焦点づけられる

・アイデンティティをはじめに本格的に理論化したのは、E.H.エリクソンである。

・コーテらは、青年期のアイデンティティ形成にとってカギになるものとして
 「再帰的引き離し Reflexive distancing」をあげている

・人々が不安に取りつかれることなく日常を生きられるのは、ギデンズによれば
 「存在論的安心感」という保護皮膜によって守られているからである。

 このような保護皮膜は、幼児期に子供が養育者との関係で最初に作りあげる
 「基本的信頼」(エリクソン)に基づいているという

 子供が通常の環境の中で養育者にかける信頼は、実存的不安への
 情緒的予防接種なのである。

・人が時として出会う「運命決定的な時」にはこの保護皮膜が脅かされる。
 その時に、人は「専門家の援助」と「親密な関係性」によって安心=安定を
 回復させることができる


●5章 後期近代の理論と若者たちの現実

・M.デュボア=レーモンは「トレンド創造的学習者」は従来の階級的制約を超える
 可能性を大きくもっているという。彼女が着目しているのは
 「若者文化資本 youth cultural capital」である。

○これ面白い考え方だなー。

 今学生さん達を見ていると、この資本を意識的、無意識的に作っている人たち
 は確かにいるなー。

・ロバーツらは「構造化された個人化 structured individualization」という
 捉え方を示している 

 若者達の移行過程は現象としては個人化され、それに伴い若者たちの意識も
 個人の選択という主観的感覚を強めている。しかし依然として個々人の前に
 開かれた選択肢には明らかに社会構造的制約が強く働いており、その意味では
 移行過程は依然として構造化されているのである。

・この議論を更に発展させたのが、ファーロングらの提起する「認識論的誤謬」
 という概念である。彼らは客観的に見れば依然として1人1人の移行が社会的
 構造によって強く制約されているにも関わらず、1人1人の若者の主観においては
 それがもっぱら個人の選択や努力の結果であるとのみ意識されてしまう。

 このような主観と客観とのかい離こそが、後期近代に根差した認識論的誤謬である

・移行過程は、大きく3つのパターンに分岐していると言えよう

 1)選択的人生経歴
   ‐恵まれた資本を基に、比較的自由な選択を積み重ねる

 2)危機的人生経歴
   ‐資源に恵まれず限られた選択肢しかなく、不安定な状況にとどまる

 3)標準的人生経歴
   −比較的スムーズで直線的な移行を依然としてたどる

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■3部 日本の若者たちの移行過程変容

●6章 二つの移行過程調査

・1)高校卒業者の質的追跡調査 5年間 面接
 2)20歳を対象とした量的調査 4回実施 

・若者の大規模な移行過程変容の始まりが、多くの先進諸国では1980年代からで 
 あったのに対して、日本ではその顕在化が90年代半ば頃からと、10年あまり
 遅れた。

●7章 量的調査での移行のパターン

●8章 質的調査での移行過程概要


●9章 移行過程と学歴・階層

・(2つの調査での)半数に近い若者たちが不安定な移行過程をたどるという状況

・高卒未満の学歴の者たちに不安定な移行パターンをたどっている者が非常に多い

・本人学歴は移行過程の安定度に一定の影響を与えている

・ジェンダー間に明らかな差が認められる


●10章 移行の不安定化・個人化と困難

・安定類型に比べ、不安定類型の若者たちは、職場の中で同僚などと安定した
 関係をもつことができている割合が低い

・不安定類型の若者たちの方が、親との関係においても良好ではない傾向が見られる

・危機的経歴とした若者たちのほとんどが、移行過程の初期の段階で何らかの
 困難に直面している

 1)学校を離れる際 2)就職後初期の段階で職場で

・入職初期の離職

 1年以内に離職 強い自責感情
 1年以上経ってからの離職 職場の問題に強く憤慨

・入職3〜4か月で離職した3人に共通しているのは、はいった職場に話ができる 
 ような歳の近い同僚がおらず、しんどい状態を1人で抱え込んでいたこと

 まさに存在論的安心を脅かされた危機的状況といえる

・存在論的安心まで脅かすアイデンティティの危機に行きつくのは、彼らの中に
 それを過重、不当と判断できるような「常識」(ギデンズ)の枠組みが成立して
 いないからである。

 何が普通で何が普通でないかを判断できる常識がない中で、彼らは要求された
 ことの異常さを判断できないままに、できない自分を責めることになる。

○これはあるだろうなー。俺も1社目がそうだった。

 残業代なし、ガソリン代自分持ち、365日体制・・・

 今思えばおかしいとわかることも当時は「これが普通なんだろう」と思っていた。

 それを分からせるためには、家族や外の人間がいっても聞き入れないケースも
 多いのかも。会社に属し、そこのメンバーが違和感を感じていなければ、一種の
 集団催眠みたいな状態になってしまっているのかも。俺はそうだったなー。

・一方、入職初期の困難を乗り越え働き続けている若者たちに多く見られる特徴は
 一定規模の職場で同期入社の同僚が複数いることや、一定の研修期間が入社時に
 あることだった。

・同僚、同輩関係の支えは、1年程度以上継続就業した上での離職者にも共通する

・入職初期の孤立化が広がっている。こうした孤立化は、自信や自尊感情、
 存在論的安心を脅かすことさえある

 
●11章 ネットワークと社会関係資本

・若者の移行過程の変容と支援のあり方を探る議論において、近年、ネットワーク
 と社会関係資本の役割が注目されている

・社会関係資本に関する理論的起源としては、J.コールマン、R.パットナム、
 P.ブルデューの3人がほぼ共通してあげられる

・社会関係資本は、複数の他者との間に共有された資源であり、関係性そのものが
 生み出す資源であること、そしてその資源は個人が何らかの経済的あるいは
 象徴的な価値を獲得する為の手段となるということ

・ネットワークの表出的機能にかかわっては、N.リンの議論が参考になる

・ネットワークの同質性と異質性にかかわっては、M.グラノヴェターの議論がある

・ポルテスは、社会関係資本のネガティブな機能についても指摘している
 
 下方化圧力的な規範にのる上昇移動や脱出の制限

 若者たちのもつ仲間関係は最低限「なんとかやっていく getting by」資源は
 提供するものの、その緊密なネットワークに閉じ込めることで、ともすると
 「困難から抜け出す getting ahead」ネットワークへの接近を難しくする

・家族以外の年上の大人など、多様で異質な関係を複数持つ 弱い絆の強さ

・高校時代からのつながり「地元ネットワーク」は、道具的機能から見れば
 有力ではないが、表出的機能としては大きな役割を果たしている

・同質の者同士の間に結ばれる強い絆のもつ表出的機能
 
 同輩(Peer)同士の関係 


●12章 行為主体(agency)とアイデンティティ

・A.ファーロングらは、若者たちの主体性の指標として、動機(motivation)
 意欲(drive)戦略的思考(strategic)を用いている

・自己物語の一貫性 強い個人的自我というよりは、それを支えるコミュニティ、
 共同性が見えてくる

・専門学校における疑似職業集団的なコミュニティ

 職場の規模と年齢構成 同期の仲間も含めて一定の人数規模があり、しかも
 歳の近い先輩も多い。

 職場、仕事での自分の成長の目標が見えやすい

・アイデンティティを支えるコミュニティの存在


●まとめ

・移行過程の個人化の進行が、一定部分の若者たちに新たな困難を生んでいる

・1人1人のアイデンティティを支えるという点では、ネットワークではなく、 
 コミュニティが基盤になるということ

・個ではなく、場を強化するという支援モデル


・90年代半ば以降の日本の若者たちの異変も、意識変容よりは、先進諸国共通
 の社会構造変容にある

・移行変容の時代を後期近代と捉え、そのもとで進行する個人化という状況が、
 若者達の直面する客観的かつ主観的な困難の背後にあるという認識は、
 ヨーロッパの研究者の間で共有されている

・構造、主体(structure and agency)論争が日本ではいまのところヨーロッパほど
 に大きなインパクトを与えていないように見える

・日本の若者たちがおかれた状況をグローバルな文脈の中でとらえることは
 今後いっそう重要になる


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