若年者就業の経済学

お薦めの本

若年者就業の経済学
太田 聰一 2010年

○内部育成重視が若年者雇用に及ぼす影響

(・引用/要約 ○関根の独り言)
===
●1章 若年雇用問題とは何か
・若年者の雇用環境の悪化は、日本社会に様々な問題をもたらす
 1)人的資本レベルが長期的に低迷する
   (技能や技術を最も効率的に吸収できる時期の無業状態)
 2)貧困の連鎖
 3)少年犯罪発生率の上昇
 4)自殺リスクの上昇
 5)年金制度の維持困難
 6)晩婚化、未婚化、少子化を促進
・若年者=15歳~29歳
・若年正社員の仕事で失われたのは「よい仕事」(大企業の
 事務職、専門技術職、販売職)であり、増えたのは中小企業
 におけるサービス職という最も給与水準が低く、労働時間も
 長いものであった。
・フリーター数は、2003年をピークに減少傾向にあったが、
 2009年には再び増えた。
 フリーターは「不本意就職」の側面が強いので、景気が良くなる
 と減少し、景気が悪化すると増加する関係がある。
・1992年から2002年の若年無業者数の増加は、若年者が直面した
 雇用環境の悪化によってもたらされたと考えられる。
 しかし若い人の「就業意識」がそれらを悪化させているという
 意見も根強い。
 例えば「就業意欲が衰えたため」「こらえ性がなくなった為」等
・若年期が職業能力の開花にとって大事な時期であることを
 考えると、ニート期間が将来の獲得能力を低下させる可能性が
 高い。
・若年者が仕事をしたくなくなったから、フリーターやニートが
 増えたという見方は妥当しない。
●2章 若年失業のダイナミクス
・若年失業の特徴
 1)適職探しの期間であるため、自発的失業が多い
 2)入りやすく、出やすい
 3)中高年に比べて、高い失業率
●3章 「就職氷河期」がもたらしたもの-世代効果
・1990年代の不況期に学校を卒業した世代は、就職の間口が狭い
 時期にあたった為「氷河期世代」「ロストジェネレーション」
 と呼ばれ、その後も経済的に不利な状況におかれている
・高卒では不況時に就職した世代ほど、規模の小さい企業に
 勤めている可能性が高くなる
・一度の転職だけでは、世代効果が解消しにくい
・不況期に学校を卒業した世代は、不本意就職に陥りやすく、
 それゆえに離職傾向が高まると言える
・仕事の世界での自己研さんの機会すら与えられていない若者が
 「生まれ年」(これが卒業年をかなりの程度きめる)という
 本人の動かし難い要素によって人生を左右される理不尽さ
・賃金水準、就業形態、転職行動に世代効果があることが明らか
●4章 企業による若年の採用-なぜ新卒者が好まれるのか
・1990年代初頭はほぼ60%であった若年採用比率は、
 2008年には50%にまで落ち込んでいる
・規模の大きな企業では、自前で人材育成を行う傾向が強いため
 採用のうち若年の占める割合が高い
・新卒一括採用をおこなう理由
 1)社員の年齢構成を維持できる
 2)他社の風習などに染まっていないフレッシュな人材を
   確保できる
 3)定期的に一定数の人材を確保できる
 4)面接や選考を短時間で効率的に行いえる
 5)能力の高い人材を確保できる
・日本企業は、新卒正社員を自社内における長期的な人材育成の
 対象とみなしている
・自社内での人材育成を目指す企業は、若年層の採用を重視する
 傾向がある
 ベッカー(1962)「人的資本の理論」
 自社内での人材育成→企業内で形成されるスキル=他企業では
 通用しにくい「企業特殊性」の高いもの
・OJTによって企業特殊的なスキルのウェートが高まる
 若い方が訓練内容をよりスムーズに吸収できるとするならば
 新卒採用は極めて魅力的となる
・自社で訓練を行うことを前提とした労働者に対しては
 「自社の色に容易に染めることができるかどうか」と言う点も
 考慮材料になる。
・人材育成を重視する企業にとって、正社員として採用したいのは
 真面目で、教えたことを吸収するスピードが速く、定着性の高い
 労働者にほかならない。
○自社内人材育成を行えるのは、教えたい「正解」がある場合
 (例:T社)
・日本企業が雇用削減を行う場合には、その大きな部分を若年者
 の採用抑制に頼っている
・バブル崩壊後、多くの日本企業は自社の長期的な存続にすら
 自信を失ってしまい、将来への投資であるはずの若年正社員
 採用まで大幅に削減するようになった。
 将来の不確実性の増大に対して、雇用調整の柔軟性を確保する
 ために、非正社員のシェアを増やしていった。
 そのため、新卒者で正社員になれなかったものが、大量に
 フリーターになるという現象が生じたと言える
・不況期に若年採用が抑制されるのは、「それが最も容易に実行
 可能な人員削減策」であるから
・「内部育成のジレンマ」
 企業は内部で育成した人材が途切れないよう、従業員の年齢構成
 を最適なものに保ちたい。そのためには好不況にかかわらず、
 若年層の安定的な補充が求められる。
 その一方で、自社人材の育成が効果を上げるためには、長期雇用
 の維持が必要となり、不況期における人員調整の際には採用抑制
 をせざるを得なくなる。
・若年採用比率が高い
 1)雇用成長が高い(成長産業)
 2)企業規模が大きい(自社内人材育成を重視)
 3)臨時・日雇い労働者の割合が低い
・大企業では業務の分業化が進むとともに、スキルの企業特殊性
 が高まるので、自社人材の育成が重要となる。
・新卒採用数に影響を及ぼしているのは、企業規模。
 (規模が大きくなるほど、新卒採用が増える)
・中途採用数に影響を及ぼしているのは、業績変化と売上高。
 (業績好調な企業では、中途採用が増える)
・幹部社員(=新卒社員)の人数は、企業規模に依存
○企業規模が大きくなるほど、幹部社員の人数が多くなるので、
 新卒採用数が増える
 企業規模が大きくなるほど、分業化が高まり、スキルの企業内
 特殊性が高まるので、自社内人材育成重視となる。
 そのため若い新卒社員を採用し、長期雇用を前提に、OJTを行う
・1990年代以降の成長の停滞と成長期待の終えんこそ、現在の
 若年雇用問題の根源。
○企業側の不安
 右肩上がりの成長の終えん、将来の不確実性の増大
 既存社員を辞めさせることはできない
 →新卒社員の採用抑制
・日本企業が新卒者を重視する背景には、自社内人材育成により
 企業内特殊スキルを身につけさせることを重視する特性を反映
・不況期の日本企業は、若年者の採用を抑制するという雇用調整
 方法をとることが多くなる。
 長期不況の場合には、企業は「投資人材」としての若年正社員
 の人数を減少させる。
 これが「就職氷河期」を生み出した主因
●5章 労働者間の代替関係と若年雇用
・労働市場における割り当て現象 Rationing の発生
 =椅子取り合戦
・企業が特定の労働者のタイプを優先的に雇用すると、別のタイプ
 の労働者の就業機会が狭まる可能性が生じる
・世代間で職業分布の類似性が高まってきている
 
・従来は若年中心であった仕事に、中高年が進出してきている
・世代間の職業の垣根が低くなることで、仕事をめぐる競争が
 激化することも考えられる
・「置き換え効果」
 若年と中高年が雇用において代替関係にあり、何らかの理由で
 中高年の雇用が優先されることがあれば、若年雇用にマイナス
 の影響が生じる可能性
・「パラサイトシングル説」への反論(玄田2001、2004)
 若年層の就業機会は中高年の雇用保障の犠牲になっていると主張
 若者がかじることができるぐらい中高年の脛が太いのは、若者の
 犠牲のもとに、中高年の雇用が保障されてきたから
・中高年(45~59歳)の過剰感が強い企業は、新規正規採用比率
 が低くなっている(川口2005)
・置き換え効果の頑健性を示す研究が多い
・「インサイダー・アウトサイダー理論」
  (Lindbeck & Snower 1988)
 長期不況等で、インサイダー(既存労働者)の枠が小さくなる
 時は、そのしわ寄せがアウトサイダー(失業者、新卒者、転職
 希望者)に集中する
・置き換え効果の存在と存立背景を理解した上で、緩和策を模索
 していくという姿勢。
 もうひとつ可能なとりくみは、企業内のスキル継承の効率性を
 高めて、若年と中高年が「学び手」と「教え手」としてより
 補完的な関係を形成するよう 促進すること。
○M社での「教え合う風土作り」の取組みも参考になる
●6章 地域の若年労働市場
・若年の就業機会が地域によってかなり異なる
・地方では十分な量の仕事が無いことが、最も深刻な問題。
 全国一律の若年雇用対策は、各地域のニーズにマッチしない
 可能性あり。
●7章 教育と訓練-日本の雇用システムと若年者の育成
・日本企業における訓練の基軸は
 「仕事をしながらの訓練 OJT」である
・日本ではOJTのウェートが他の先進国よりも高く、
 そこで培われたスキルが企業特殊性が高いことから、
 労働者の定着性が高くなっていると理解されている
・2009年度「能力開発基本調査」によれば、正社員の訓練に関して
 OJTを重視する企業の割合は、7割。
・OJTがどのように遂行されているかについては、小池が詳しい
 効率的な訓練方法は、ベテランによるマンツーマン教育である。
 一つの作業ができるようになると、関連する他の作業に
 取り組ませる
 幅広いローテーションによるスキル形成が重要
 このような教育を進めるにあたって必要なのは、人的・時間的
 余裕である。
・実地方式によるOJTは、製造現場だけでなく、ホワイトカラー職 
 でも広く行われている普遍的な方法
 職場で生じている問題を解決するためには、実際に職場で働いて、
 上司や先輩のアドバイスに従いつつ、身につけることが重要
・スキル継承がスムーズになるよう報酬制度や人事制度を組み立てる
 必要性
・スキル継承のモデル分析 p220
 スキル継承、企業業績、若年作用は、深く結び付きあっている
・スキル水準の向上効果は「費用低下」と「補完」効果を通じて、
 若年採用にプラスの影響を及ぼす半面、「労働節約」効果という
 マイナスの効果も生じる
・効率的にスキル形成ができる企業ほど、訓練対象の若年者を多く
 採用するのでは
・新卒採用数の増加は、若年1人当たりの教育訓練投資料を引き上げる
・新卒大学生が、中小企業を敬遠する理由
 1)賃金が低い、福利厚生の格差(企業の大きさが報酬の高さを規定)
 2)大企業への就職の最大のチャンスが新卒時であり、
   中小企業に就職してから大企業に転職するチャンスが小さいため
 3)キャリアパスが不明確
・訓練受容性を巡っての競争
 労働者にとっては、自らの訓練コストが低い、あるいは訓練受容性が
 高いことをアピールする必要が生じる
 銘柄大学出身で、協調性と積極性を兼ね備えている人材こそが、
 最も企業が求めるタイプとなる
・2006年調査 半数弱の企業で若年正社員の退職に困っている
・転職希望が生じやすいのは
 1)十分に情報を得ずに入社してしまった場合
 2)会社の初期教育が十分ではなかったと判断している場合
 3)会社で相談相手がいない場合
 4)頻繁に休日出勤などがあって労働条件が厳しかったりする場合
・小池(1999)現代の生産職場で求められている技能は
 「匠の技」よりも「推理の技」
・学校で蓄積される基礎学力は、その上に企業内訓練による能力向上を
 開花させるための土台
・早期離職に対応するには、若年者が働きやすい環境を整える努力が必要
・新卒者の資質が低下したと判断する企業は、新卒採用ではなく、
 即戦力重視の中途採用や非正規従業員の活用への代替を模索する傾向
・大学が就職の「避難所」として機能している
●8章 若年雇用政策の展開-そのロジックと留意点
・企業で十分にスキルを身につけるチャンスの少なかった「就職氷河期」
 の若年層に効果的な職業訓練を行う環境を整備する必要がある
===

投稿者:関根雅泰

コメントフォーム

ページトップに戻る