「研修転移」本_200128

企業内教育担当者向け

『What Makes Training Really Work: 12 Levers of Transfer Effectiveness』
(Weinbauer-Heidel 2018)
ブリンカーホフ先生のおすすめ本。
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○良書。読んでいて面白く、どんどん読み進められた。
 先行研究や引用文献もしっかりしていて、かつ、現場で使えそうな事例も多い。
 これまで読んできた「研修転移」本だと、今のところベストかも。

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・12 Levers of Transfer Effectiveness
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・Transfer effectiveness効果的な転移に向けての、最初の一歩は、
 ゴール設定である。
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・Levers 1,2,3 for Trainees.  受講生
 I want, I can, I will 最終的に、転移は受講生の決断。
・1. Transfer motivation 転移意欲 I want! したい!
・Training fatigue 研修疲れを起こさせないためにも、
 研修の数を減らし、転移の質を上げる。
・Transfer-level training 転移レベルの研修という
 ブランド化をはかる。

・2. Self-efficacy 自己効力感 I can! できる!
・A.Banduraが唱えた 自己効力感の4つの情報源
 1)達成経験 2)代理経験 3)言語説得 4)情動喚起
・成功事例を話させたり、映像を見せたりする。

・3. Transfer Volition 転移意志 I will! やる!
・モチベーションだけでは弱い。Will Power 意志力が必要。
 意志力は、筋肉のようなもの。疲れるし、鍛えられる。
・ストレスが、Will Powerの敵。十分な睡眠と定期的な運動が
 ストレスを減らし、意志力を増やす。
・「我々は、知識の巨人だが、実行の小人だ。」
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・Levers 4,5,6,7 for Training Design 研修設計
・4. Clarity of Expectations 明確な期待 
・研修前に、研修を通じて達成できることが何かを明確に伝える。
・積極的に、研修を、マーケティングする。
 Training description 研修紹介を魅力的にする。
・研修開始時に「研修への期待」を聞くのは、時間の無駄。
・キックオフミーティングを通じて、期待の共有を行う。

・5. Content Relevance 内容の関連性
・E.Thorndike & R.Woodworth(1901)の「同一要素説」は、限定的。
 C. Judd(1939)は、一般化できる抽象概念の重要性を説いた。
・Case-based or Problem-based learning 事例や問題を元にした学習。
・受講生のリアルで真に迫る事例を集める。
・転移志向の講師と、プログラム売りの講師の違い。p.122-125

・6. Active Practice 活動的な練習
・受講生は、研修時間の内、30%~50%を、活動的な練習に費やすべき。
・「知識や理論は、smarter 利口にしてくれる。
  練習は、wiser 賢くしてくれる。
  継続的な成功には、その両方が必要である。」
・D.Kolbのラーニングサイクル
・Active learning と Active practiceは違う。
・infotainment では、講師が、受講生を楽しませる。
 講師がやることはできるだけ少なくして、受講生に活動してもらう。

・7. Transfer Plannning 転移の計画
・Rubicon Model「ルビコン川を渡る」と決めると、
 Deliberating から Plannning 状態に、気持ちが切り替わる。
・Goal intention(中長期目標) と 
 implementation intention(短い計画) を分ける。
・SMARTゴールは、論理的だが、腹にガツンと落ちる感じではない。
 Positive gut feelings を重視した Mottoゴールが、力になる。
・研修時間の10%を、転移計画を立てるために使う。その前に休憩をとる。
 (2日間の研修なら、1.5時間ぐらい)
 
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・Lever 8,9,10,11,12 for the Organization
・8. Opportunities for Application 適用機会
・最初の頃は忘れるスピードが速いが、後には遅くなる。
 意味ある概念や規則は、忘れにくい。
・Declarative knowledge宣言的知識のほうが、
 Procedual knowledge手続き的知識より、速く忘れられる。
・研修は、よく知られた介入方法なので、組織開発、リストラ、文化開発等
 よりも、現場の抵抗を受けにくい。
 そのため、研修のインフレが起こっている。
・Rosenstielのモデル「行動の状況」
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・研修が、正しい問題解決方法なのか? 個人のスキルの問題なら、そう。
 3つのチェックポイント:
 1)そもそも研修が正しいツールなのか?(個人のスキルの問題?)
 2)転移目標は、達成可能なのか?
 3)転移目標が、達成されたときに、問題は解決されているのか?

・9. Personal Transfer Capacity 個人の転移能力
・時間の問題の多くは、計画の問題。
 Plannning Fallacy 計画が楽観的過ぎて、現実的ではない。
・Long sessions 長時間の研修は、
 Spaced Training 短時間の複数研修よりも、効果が低い。
・Eラーニング等での、反転学習を行う。
・研修の場は、練習準備の場として使う。

・10. Support from Supervisors 上司の支援
・HRと現場上司は、同じ船に乗っている。
・上司が、転移を支援しない理由:
 1)知識不足 2)責任感の欠如 3)緊急性の欠如
 4)目標の欠如あるいは不明瞭さ 5)恐れと抵抗
・上司が、転移を支援する理由:
 1)責任感と自己イメージ 2)自身の興味と便益
 3)関与とオーナーシップ
・Brinkerhoff & Montesino(1995)の実験:
 研修前後に、15分間ずつのミーティングを上司と行った受講者(実験群)と
 とらなかった受講者(統制群)を比較。実験群は高い転移成功率となった。
・上の階層から、同じ研修を行い、共通言語化を図る。

・11. Support froom Peers 同僚の支援
・集団の同調圧力。
・Consistency 一貫性を求める姿勢、「Walk the Talk 言行一致」は、
 社会的に高い価値を持っている。
 だからこそ、同僚に宣言することで、行動が促される。
・2つのPeer groupがある。「研修での受講者同士」と「職場の同僚」
・専門家は、Unconsciously competent 無意識的に有能なため、
 Novice素人ができない理由がわからない。Peerは、同じ学びの過程なので、
 より分かりやすく教えることができる。

・12. Transfer Expectations in the Organization 組織の転移期待度
・転移に成功すると、会社は評価してくれるのか?
・「測れるものは、実行される」
・Kirkpatrickの「4レベルモデル」
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・一つのレベルの上に、ほかのレベルが乗っていると考えている。
 しかし、満足度(L1)は、転移(L3)につながっていない。
・Smile sheet 研修直後アンケートでは、測りたいものが測れていない。
・研修直後の「満足度」は、転移に関係していないが、
「Utility 実用度」は、転移に、若干(効果量 0.18)関係している。
・満足度を測れば「受講生を幸せにすることが目標」というメッセージになり
 実用度を測るなら「研修で学んだことを現場に活かすことが目標」という
 メッセージになる。
・転移効果を評価する 質問紙の例 p.296-299
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・著者のサイト Transfereffectiveness
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●ブログを読んでくれた講師ビジョン 島村さんからのメール(許可を得て転載)
ブログ拝見させて頂きました。
特に学びになったのは、
>上司が、転移を支援しない理由:
>1)知識不足 2)責任感の欠如 3)緊急性の欠如
>4)目標の欠如あるいは不明瞭さ 5)恐れと抵抗
>上司が、転移を支援する理由:
>1)責任感と自己イメージ 2)自身の興味と便益
>3)関与とオーナーシップ
の部分でした。
そこで、こんな風に考えてみました。
「上司にとって、自然と責任感が湧き、恐れとか知らないとか言っていられない状況ってなんだろう?」また、「上司にとって、部下の転移を支援をすることで自分の便益になる状況ってなんだろう?」と、上司の気持ちになって考えてみました。
私の経験そくの範囲では、
1)上司は、経営課題、組織課題にリンクした部下の研修転移支援には意欲がわきやすい
2)上司は、部下個人の課題に対する研修転移支援には意欲が湧きづらい
と言うのが今の段階での回答です。
たとえば、経営がグローバルに舵を切って、束ねる部下のTOEICの点数平均、組織のTOEICの点数平均全社のTOEICの点数平均を出すぞーとなった場合、上司は、部下の英語関連の研修の転移促進に前向きな支援をしてくれます。上司側の緊急度も責任レベルも上がっているからと思います。
しかし、部下個人の課題、たとえば、部下自身が集計業務に時間がかかっているので、エクセルスキルを上げたいと部下自身で感じて、研修を手挙げで受講するみたいなものは、研修行ってもいいけど、個人で頑張って解決してよ、となりやすいかなと思います。
なので、人材開発担当としては、経営や組織課題に資するものを企画することが
結果的に転移促進を促しやすくなるなと思います。手挙げ式で多くの社員に研修を提供することを否定するわけではありませんがそこに研修転移を求めるのは難しいなというニュアンスです。
また、これは、以下の部分とも関係するかなと思いました。
>12. Transfer Expectations in the Organization 組織の転移期待度
>・転移に成功すると、会社は評価してくれるのか?
上記1)の上司が、経営や組織課題に資する部下の研修転移の支援をすることで結果を出せば、上司も部下も評価されやすくなります。
一方で、上記2)の個人課題に資する研修は、がんばってるね、とか、まっ、勉強して当然だよねという感想になりやすく、集計業務を速く覚えて、その上でどんな成果を出してくれるんだっけ?となりやすく、評価にはつながりづらいということだと思います。
ですので、上司の研修転移促進意欲は、この場合は高まりづらいのかなと思います。
研修転移は、時間とコストもある程度かかると思うので
経営や組織課題に資するもので、上司側のコミットや組織側のコミットが得られやすいものを
企画すると上司も部下も研修を前向きに捉えてられ、良い方向に行くと感じました。
その意味においても、社長インタビューや責任者レベルへのインタビューはやはりキーになるなと感じています。
長文失礼しました。
いつも考える良い機会をいただき、ありがとうございます。
講師ビジョンの島村さん、こちらこそありがとうございます!)
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投稿者:関根雅泰

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