『世界標準の経営理論』

お薦めの本

○最初ぶ厚さにたじろいたけど、読み始めたら、1章1章、読み進めていくのが楽しくなった。最後の章で、この楽しさが終わってしまう寂しさを感じたぐらい良い本。こういうレビュー本があると、後から学ぶ人は、ほんと助かるよな~。

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0.序章

・理論とは、How(X→Y)、When(適用範囲)、Why(なぜそうなるのか)に応えること

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1.経済学ディシプリンの経営理論

・古典的な経済学の前提は「人の合理性」にある。人が与えられた条件の中で、自分にとって一番好ましいものを選べば、それで「合理的」なのである。

・SCP理論 Strucuture構造-Conduct遂行-Performance業績
・この世には、儲かる産業と儲からない産業がある。

・完全競争と完全独占のスペクトラム。自社はどのあたりにいるのか。

・自社のグループの企業数が少ない方が、そのグループが独占状況に近づくから、超過利潤が高まる。
・似せないこと=差別化すること=独占に近づけていること

○ランチェスター戦略も、このSCP理論の考え方を基盤にしているのかも。

・Forceが弱いほど、独占、寡占に近づいて、収益性は高くなる。
・自社製品、サービスが差別化されているほど、競争環境は完全競争から離れていき、その収益性は高まりやすくなる。

・今の時代に勝っている企業は、SCPが前提としていた「持続的な競争優位」ではなく「一時的な競争優位を、連続して獲得している企業」である。

・リソースを組み合わせて、活用する企業の能力=Capabilityケイパビリティ
・ライバルからの模倣を困難にするには、複雑で一貫性のあるアクティビティシステムを築くべき。

・競争の型
1)IO型 Industrial Organization 産業構造 ←SCP
2)チェンバレン型 勝つ差別化 ←RBV
3)シュンペーター型 イノベーション ←DC、両利き
・競争の型が違えば、求められる経営理論も戦略も異なる。

・悪貨が良貨を駆逐する
・情報の非対称性は、チャンスでもある。

・プリンシパル=エージェント関係は、株式会社の本質。
・同族企業を上手く活用して、エージェンシー問題を解消することが、日本のこれからのビジネスの活性化につながるのではないか。
・日本で最も業績が高い企業統治のパターンは「婿養子を迎えた同族企業」なのである。

・TCE 取引費用理論
・企業=市場取引でコストがかかる部分を内部化した範囲
・市場の対極にいるのが、企業。

・市場の取引コストが下がったなら、内部化の必要がなくなってくる。

○会社が無くなる

・ゲーム理論:互いの意思決定を読みあった結果として何が起きるのかを考える。
・ナッシュ均衡こそ、ゲーム理論の基盤。
・「相手の行動の読み合い」に基づいた合理的な意思決定の帰結が、ナッシュ均衡。

・「信頼」は、人の性善的な本質から生まれるのか、それとも無限繰り返しゲームの「計算」なのか。

・リアルオプションの事業計画、評価法では、不確実性を活かし、小さい初期費用で、とりあえず事業を始めることを考える。
・事業を始めなければ、学習も出来ない。
・リーンスタートアップは、コールオプションの発想にきわめて近い。
・起業は不確実性が高いので、その洞察には、リアルオプションとの相性がいい。

・その国の倒産法が「失敗事業をたたみやすい」ようになっているほと、人々の起業を促す。
・日本の倒産法は、比較的事業を畳みやすくなっているが、倒産は起業家に「失敗」のレッテルを貼ることになり、そちらの方が課題。

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2.マクロ心理学ディシプリンの経営理論

・BTF:Behavioral Theory of Firm企業行動理論は、稲森和夫氏など、著名経営者の「教訓」を裏付けする。
・カーネギー学派を特徴づける最重要の前提は「限定された合理性 Bounded rationality」である。
・企業にとって重要なのは、アスピレーション(目線)を高く保てるかにある。
・好業績の時ほど、余裕を持ちつつも、慢心をおさえて、危機感を強めよ。
・BTFのBehavioralとは、企業リーダーのメンタルプロセスに他ならない。

・イノベーションは、広義の「組織学習」の一部。
・組織学習の循環プロセス

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・exploration知の探索、exploitation知の深化
・新しい知とは常に、既存の知と、別の既存の知の新結合でうまれる。
・ambidexterity 両利き
・知の深化に偏るコンピテンシートラップにより、知の探索がなおざりにされると、中長期的にイノベーションが枯渇する。
・源泉となる知は、既に日本の大企業の中で活用されないまま埋もれている人材にある。この大企業内部の人材、技術者を一度社外へ出して「彼らに知の探索をさせるべき」という主張

○これこそ、YHD幹部候補生×比企起業塾でやっていたことなのかも!

・ダイバーシティは、一人でも出来る。Intrapersonal Diversity 個人内多様性。
・起業や転職をしなくても、人を動かす仕掛けを作る。それが知の探索になる。
・可能な限り、広く、遠くの知までを探索する必要がある。

○俺も、もっと、普段行かないような、居心地の悪い場所まで移動し、知の探索する必要があるかも。

・知の探索は続けなければ意味がない。
・両利きを長い間持続させることに成功している企業は、Vacillationを実現している。
・Vacillationとは、ある期間は極端に「知の探索」に振れ、逆にその次の期間は極端に「知の深化」に振れ、また次の期間は極端に「知の探索」に振れるを、繰り返すこと。

○これは、熱しやすく冷めやすいけど、燃えてるときは極端にやり続ける、俺の特性には合ってるかも。Vacillationか~、いい言葉を学んだ。

・日本企業で特に今求められているのは、TMS:Transactive Memory Systemの復活ではないか。
・TMSは「組織内の知の分布」のメタ知であり、「Who knows what」を知っていることである。
・TMSは全員で共有するよりも、個人が独占した方が、パフォーマンスが高かった。
・その個人が「知のブローカー」の役割を担う。

・この世に一つだけ、知の創造プロセスを描き切った理論が「SECIセキ」モデルだ。
・暗黙知の共有に必要なのが、一対一の徹底的な対話「知的コンバット」である。
・デザインとは、暗黙知を形式知化すること。
・SECIモデルで描かれることは、ほぼすべて人工知能ができないこと。
・KBVでは、企業を「暗黙知が移転しやすい土台(コード)を持つ社会システム」と考える。

・ルーティンとは、組織・集団が繰り返す行動パターン。

・Dynamic Capabilityは、企業がたえずリソースを組み合わせ直すプロセス。
・DCは、時に少数個人(すなわち経営者)に宿ると考える説もある。

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3.ミクロ心理学ディシプリンの経営理論

・「未来をつくり出そうとしている経営者」ほど、センスメイキング能力が高い。
・リーダーシップの5大理論

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・LMX理論は、リーダーの心理的なえこひいきを説明する理論。
・全員をひいきできるリーダーこそが最強。
・TSL:Transactional Leadership(取引・交換)アメとムチ
・TFL:Transformational Leadership ビジョンと啓蒙
・一人のリーダーは、TSLとTFLを同時に持ちうる。
・不確実性の高い環境にフィットするには、TFLだ。「将来はこうしたい」というビジョンを掲げ、周囲を啓もうすることが有用たりうる。
・SL:Shared Leadershipは、特に「知識ビジネス産業」において極めて重要。
・最強のパターンは、SL×TFL チームのメンバー全員がビジョンを持って、全員がリーダーシップを執りながら、互いに啓もうしあい、知識、意見を交換する姿。

○これこそ、ときがわカンパニーが目指している姿なのかも!

・現代の心理学の研究では、マズローの欲求5段階説は、ほぼ科学的に当てはまらないという結論になっている。
・自己効力感 Self-efficacyは、自身の能力への自信。
・PSM:Prosocial motivation 他者視点に立つ
・モチベーション×リーダーシップ

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・デモグラフィー型ではなく、タスク型のダイバーシティが、組織にプラスに働く理由は「知の探索」につながるから。
・組織のメンバー構成を上手く組めば、自身の認知バイアスも抑制できるかもしれない。

○これは、今回の比企起業大学設立ミーティングでも感じた。俺だけなら、きっとバイアスがかかって、考えられなかったことが多かった。

・直観は、無意識の知性。玄人の勘の方が望ましい。
・不確実性の高い環境では、ルールをシンプルにすることで、変化に対応できる。

・人の心理には、認知(Cognition)Thinkと、感情(Affect,Emotion)Feelの側面がある。
・非言語表現である感情は遠くに伝播しにくい。
・「相手の立場に立つ」「多角的に物事を見る」ことで、感情を上手くマネジメントすることに、つながり得る。

・Sensemakingとは、納得、腹落ちである。
・環境に行動をもって働きかけることを、Enactmentという。
・Strategy crafting まずは行動することで、大まかな方向性が見えてきて、更に形になっていく。
・ストーリーで、周囲をセンスメイクさせることで、未来をつくり出す。

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4.社会学ディシプリンの経営理論

・Embeddednessエンベデットネス 埋め込み理論
・様々な人が、企業の境界を超えて行き来し、人脈を作り、情報を交換していくようになる。起業の存在意義そのものが薄れていくとさえいえるのかもしれない。

・SWT:Strength of Weak Ties 弱いつながりの強さ
・知の探索に向いているのは、弱いつながりのソーシャルネットワーク
・「弱いつながりを、豊かにもつこと」が、イノベーションを引き起こす上で重要。

○Kさんが、ブリッジかも。

・強いつながりが、イノベーションを実践に落とし込む(資源動員できる)

・SH:Structural Hole 構造的な隙間を活用できるのが、ブローカー。
・SH理論は、商売の基本。
・異なるタイプのプレイヤー(クラスター)間の結節点になることが重要。

○これは、意識してやってきたことかも。Academia、Business、Local Communityの結節点に立つ。

・Boundary Spanner 境界を超える人
・これからの社会を動かす人の多くは、ブローカーの位置にある企業であり、バウンダリースパナ―であり、H型人材だと確信する。

・Bridging型と、Bonding型のSocial Capital(社会資本)
・閉じたネットワークだからこその信頼。仮にノーム(規範)を破るものがいたら、制裁が加えられる必要がある。
・フェイスブックの実名登録制により「希薄なブリッジング型」と「高密度なボンディング型」が混在しうる。
・リアルな人のつながりでは「ブリッジング型」を目指し、デジタルでは「ボンディング型」を取り込む。

・社会学ベースの制度理論は「人は必ずしも合理的に意思決定するとは限らない」という前提に立つ。
・制度理論によると、フィールド内の人、企業は、同質化(isomorphism)する本質がある。
・常識を「制度の論理 institutional logic」と呼ぶ。
・Institutional entrepreneur フィールドを大きく変化させる要因

参考:『制度的企業家』https://learn-well.com/blog/2020/11/post_541.html

・RDT:Resource Dependence Theory 資源依存理論は「小」が「大」を抑え込み、飛躍するための道しるべなのである。

・組織エコロジー理論 長期に時間軸を見る。日本には目がトレンドの視点が足りない。
・企業が、Legitimacy正当性を獲得するには、再生産可能性と、説明責任・透明性が必要である。
・Liability of Newness新しさの重荷、Liability of Aging長寿の重荷
・メガトレンドを、経営陣が考えるべき思考作業として、欧米企業では習慣づけている。

・Homophily 人はそもそも同じタイプの人を好み、同じ人とつながりやすい傾向がある。
・他業界、他分野、他国のダイナミズムをいかに取り入れるか。

・レッドクイーン理論 生存競争による共進化
・企業間の競争こそ、進化の源泉の一つ。
・SCPは静的Staticな理論であり、競争を避けようとする。
レッドクイーンは動的Dynamicな理論であり、進化しうることが前提。
・あえて競合相手を見ずに、知の探索型のサーチで、シュンペーター型の変化を目指す。

○このレッドクイーン理論を、ワークマンの土屋専務が好きと話していたので、この本を読もうと思った。

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5.ビジネス現象と理論のマトリックス

・これからの時代の戦略は、イノベーションが前提でなければならない。
・心理的な期待感を抱かせる、未来を期待させる起業、経営者が求められる。
・魅力的な未来を描き出し、心理的な期待感を高められる企業になるのだ。
・SCPの差別化で独占化に近づけることで、圧倒的な収益を得る。
イノベーションに、大胆に資金を投入する。
・矛盾こそ、強み。

・OB&HRMの各分野を、横方向に貫ける視点が「Big Five」(性格分類)である。
・日本企業と欧米グローバル企業の人事施策

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・BTFとモチベーション理論の融合

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・不定形な世界で必要なのは、周囲に(主観的でいいから)ビジョンを示し、啓蒙するリーダー。

・スタートアップや同族企業では、スチュワードシップ理論が当てはまりやすい。
・2段階の倫理規範:ローカルノームと、ハイパーノーム

・グローバル経営と国内経営には、本質的なメカニズムの差はない。
・特定の都市と都市の間のグローバル化:Spiky globalizationはさらに加速する。

・アントレプレナーの核心は「新結合を通じて、創造的破壊を引き起こす人」
・創業者CEOは、自信過剰な傾向にある。
・事業機会の発見型と創造型

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・ビジネス教育機関になじみやすいのは、発見型。
・起業家のパッションに刺激を受けて、自らアクションを起こした学生もいる。
・起業家は、開放性と誠実性が高く、同調性と神経症が低い。

・中心が無いネットワークで、メンバーが緩やかに価値をシェアしながら、それぞれ自律分散的に動いていく組織、これはティール組織(進化型)そのものだ。
・中心のない自律分散的な組織
・ほぼ全ての仕事が、組織単位ではなく、プロジェクトベースになっていく。
・本来のプロジェクトが終了したのだから死んでいいはずの組織。
・「企業は死んでいい」ことを前提にしない現在の株式資本主義は、再考を迫られる可能性がある。

○ときがわカンパニーがいらなくなる状態を作るには?「ときがわ町に人が集まり、仕事が生まれる」状態になったら、いらなくなるのかも。

・経営理論は、全体像を描けない。
・ビジネスの目的は、幸せを追求することでは。

○ビジネスの目的は、・・・ 考え続けよう。

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6.経営理論の組み立て方・実証の仕方

・コンストラクト(概念)を、計測できるものに変換したのが、ヴァリアブル(変数)
・関係性

・「人は、そもそも、どう考えるものか」 Whyをつきつめる。

・階層別研修などの仕組みは、やるきがある従業員から、むしろ創造性を奪っているのかもしれない。

・経営学とは、人の考えを探求する分野。
・一流の経営者に共通するのが「常に考え続けている」こと。

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○いや~、この本、よかった~。近くの仲間や遠くの人達と、勉強会をやってみよう!

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投稿者:関根雅泰

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