「体験・参加型研修の有効性と効果的な進め方」
人材開発の専門誌「企業と人材」(7月20日号)の巻頭解説記事として、
「体験・参加型研修の有効性と効果的な進め方」を寄稿させて頂きました。 以下は、記事の元となった原稿です。
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「研修講師から見た研修施設の利用について」
社会経済生産性本部さんからのご依頼で
「生産性新聞」に、寄稿させて頂きました。 テーマは
「研修講師から見た研修施設の利用について」です。
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座学から体験型・参加型研修へ
●座学から体験型・参加型研修へ
日経産業新聞の記事です。
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座学から体験型主流に、正社員の応用力重視
再び大量採用時代を迎えた企業の間では、意見を発表させる
「参加型」や「体験型」の新入社員研修が主流になりつつある。
講師が一方的に教える座学形式では効果が測れず、マナーや
知識の定着が期待しにくい。
発表させることでなぜマナーなどが必要なのかを考えさせ、
教えたこと以外にも対応できる応用力を身につけさせるのが狙いだ。
内容面で企業が重視するのは新入社員が「自分で動いてみて、
なるほどそういうことかと気付くこと」
(社会経済生産性本部の黒沢悟キャリア開発センター長)。
グループワークやビジネスゲームで意見を発表し、事業を
疑似体験することでマナーの意味や事業目的などに気づくように
仕向ける研修が増えている。
定着しやすくなるだけではなく、応用力を身につけさせるねらいがある。
「参加型」や「体験型」の研修が主流となる背景には職場で
正社員の位置づけが変わったことがある。
定型業務であれば派遣社員が担うため、パソコンや語学など
「ビジネススキルだけなら派遣社員でも十分」(日本能率協会)。
正社員には想定外の事態への対応や付加価値の創出を求めるため、
新入社員に対しても、自分で動ける人間になることを期待するようになっている。
2007/04/26, 日経産業新聞, 27ページ,
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弊社でお手伝いしている「仕事の学び方研修」も、参加型研修です。
(私自身“参加型セミナーコンサルタント”を標榜していますしね。)
新入社員に、言って聞かせるだけでは、学んでもらえません。
彼ら自身に考えさせ、周囲と意見交換し、実際にやってもらうことで
学んでもらう。
新入社員自身が学び、彼らに「残る」研修を行うためには、
参加型・体験型は、有効ですね。
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教育とは、学習者の創造である。
●教育とは、学習者の創造である。
妹尾堅一郎 東京大学先端科学技術研究センター特任教授 が、
興味深いお話をされています。
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---教育とは一体、何でしょうか?
妹尾:
僕にとっては単純明快で、「学習者の創造」です。
教育とは知識を伝授することだけではなく、むしろ「学ぶ人」、
もっと言えば「学ぶことを楽しめる人」「学び続ける人」を
育てることだと考えています。知識を規格化して教えるのはその
過程の一つに過ぎません。(中略)
---ハイパーなプロの教育はどうしますか?
妹尾:
プロの中でさらに前に進むプロを育てるときに(中略)
やり方は2つあって、一つは実践訓練です。(中略)
もう一つのアプローチが「互学互修」です。先端、専門技術は
教科書がないのだから、それぞれの分野で知恵のある人がお互いに
“教え合い・学び合い”を行うのが手です。(後略)
予測エイジ 2007.2 p6〓7
「ascii 3月号」からの抜粋記事
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「学習者の創造」 & 「学び上手の育成」
「互学互修」 & 「参加型セミナー」
弊社ラーンウェルの考え方と、重なる点がありますね。
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わかりやすく話すコツ
●わかりやすく「話す」コツ
簡潔明瞭で分かりやすい話をするためのコツを
確認しておきましょう。ポイントは、3つです。
(1)話す内容を整理する
相手に話す前に、まず自分の頭の中を整理する必要があります。
自分でもよく分かっていない話を、相手にわかってもらうのは難しいからです。
これは上司への報告、関係者への連絡、先輩への相談、
お客様への説明、会議での発表、プレゼンテーションなど、全てに当てはまります。
分かりやすく話すためには、まず、話す内容を整理することから始めます。
話す内容を整理する際に役立つのが、「サンドイッチ・フォーマット」です。
拙著『教え上手になる!』でもご紹介していますが、このフォーマットを使えば
簡潔明瞭な説明ができるようになります。
詳細は前掲書にゆずりますが、フォーマットの肝は、
自分が伝えたい内容を「3つに絞る」という点です。
「3つに絞る」ということは、それ以外は話さないという選択をする
ということでもあります。話す内容を整理するということは、
「何を話して、何を話さないか」を決めることでもあるのです。
話がダラダラして「何が言いたいのか分からない」という人は、
えてして「何を話さないか」を決めずに喋っています。
頭の中に浮かんだことを全て伝えようとするので、
相手にとっては分かりづらいのです。
まずは、自分の頭の中を整理する。
これが、分かりやすい話をするための最初のポイントです。
(2)口に出して話す練習をする
あなたが本気で、分かりやすい話をしたいと考えているなら
「口に出して話す練習」をすることをおすすめします。
いくら頭の中で整理されていても、紙に書いても、
パワーポイントで資料を作ってみても、
口に出して話すと上手くいかないことはよくあることです。
「話す」というのは、「口」を動かして「音」を出して
「言葉」を伝えるという作業になります。
私達が考えている以上に、高度で複雑な作業をしているんですね。
しかも目の前に相手がいて行うわけですから、緊張感や不安感から、
頭で思っている通りに進まないことも多いものです。
役者がリハーサルをしてから本番に挑むように、
大事な発表、プレゼンテーションの前には、
「口に出して話す練習」をすべきです。
何度も練習しているうちに、
余計な言葉がそぎ落とされ簡潔明瞭な説明ができるようになります。
(3)場慣れする
分かりやすい話ができるようになるためには「場慣れ」も必要です。
人と話すのが苦手だからといって、そういう機会を避けていたら、
ますます出来なくなります。それが更なる苦手意識を作っていきます。
なるべく、自分から「話す」機会を作る。
「アウトプット(発信)」する場を増やせば増やすほど
「インプット(収集)」は増えてきます。
情報は発信した人のところに集まるものです。
怖がらずにどんどん「話す」機会を作っていきましょう!
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東海大学教育研究所での講演内容
企業研修講師による講演「教え上手になる!」の内容
〓第11回東海大学授業研究発表会において〓
株式会社ラーンウェル代表取締役 関根雅泰
概要
大人相手の上手な教え方について、企業研修講師が講演を行った。講演内容は下記の通りである。
〓イントロダクション(導入)
〓「教え上手」と「教え下手」の違い
〓教え上手の「考え方」
〓クロージング(結び)
本稿では、講演内容とその裏側にあった講師の意図について説明する。
1.はじめに
教育研究所の 教授が、拙著「教え上手になる!」(発行:クロスメディアパブリッシング・発売:明日香出版)に興味をもたれたことがきっかけで、本講演の運びとなった。講演は「授業研究発表会」の一環として行われた。講演概要は下記の通りである。
講演名:「教え上手になる!」
講演者:株式会社ラーンウェル代表取締役 関根雅泰
講演時間:13時〓14時30分(90分間)
参加者数:15名程
使用教材:参加者用テキスト
本稿においては、講演内容と共に、その裏側にある講師の意図についても述べていきたい。いわば、講演の裏側を種明かしするような内容になっている。尚、本稿では、主に「研修」という言葉を使用しているが、これを「講義」「授業」と置きかえて頂いて構わない。筆者自身は「研修」「セミナー」「講演」をほぼ同義で使っている。講師1人対参加者複数以上の状況で行われる「集団での学習の場」が「研修」「セミナー」「講演」であると考えている。
2.イントロダクション(導入)
2.1 研修における「イントロダクション(導入)」の重要性
筆者は企業研修つまり成人教育を専門に行っている講師であるが、企業研修における「イントロダクション(導入)」(「オリエンテーション」という呼び方もされる)の重要性を常々感じている。成人を相手にした教育研修の場合、まず参加者の参加意欲を高めなければならない。成人には「参加しない」あるいは「席を立つ」という自由があるからだ。「この講師の言うことに耳を傾けよう」と、参加者に思わせることができないと、その研修は間違いなく失敗する。参加意欲が低いまま、研修を進めても上手くいかないからだ。本論でこちらが伝えたいことを受け入れてもらうためにも、イントロダクション(導入)が重要なのである。
今回の講演の場合、対象者が教育の専門家であるといった点からも、「イントロダクション(導入)」には細心の注意を払った。
2.2 研修における「イントロダクション(導入)」の目的
企業研修におけるイントロダクション(導入)の目的は、3つである。
(1)緊張感の緩和 (2)参加意欲の向上 (3)参加者からの情報収集
(1)緊張感の緩和
多くの場合、講演や研修に参加する参加者は、初対面の講師、初めての会場、未知の内容に対して、緊張感や警戒心を抱いている。まずは、この緊張感や警戒心を和らげることが必要になる。緊張感や警戒心が高いと、安心して学習できる環境ではなくなり、学習効果が低くなる恐れがあるためである。
(2)参加意欲の向上
参加者が「この講師の話を聞いてみよう」「研修に前向きに取り組んでみよう」と思わせることができないと、その研修は失敗する。参加者に「この人の話を聞いても意味がない」と思われたらおしまいだということである。
(3)参加者からの情報収集
後述するが、研修は「参加者の問題解決」のためにある。そのためにも、参加者が「どんな問題を抱えているのか」の情報収集を行わなければならない。
これら「イントロダクションの3つの目的」を成就するために、講師がやるべきことをあげる。
2.3 参加者の緊張感を和らげ、参加意欲を高めるために講師がやること
イントロダクションの目的(1)参加者の緊張感を和らげる (2)参加者の参加意欲を高める この2つの目的を達成するために、講師がやるべきことは以下の通りである。
2.3.1 「参加者がもつであろう疑問」を考える
研修前に参加者が持つであろう「疑問」を列挙してみるのである。今回の講演の場合、参加者である教授、助教授、講師がもつであろう「疑問」には、下記のものが考えられた。
「どんな内容なのか?」「役に立つのか?」「現場で使えるのか?」「学生相手に有効なのか?」「講師はどんな人物か?」「大学教育の現状を理解しているのか?」「実績は?」「何かやらされるのでは?」「人前で恥をかかされるのではないか?」など。
これらの疑問を、講演スライドの2枚目(講演タイトルの次のページ)に入れておき、参加者に示すのである。
これが、どういう効果をもたらすのか?2つの効果がある。一つは、参加者の警戒心を和らげることにつながる。一般的に、講師は「教師然」とした態度で「上からの物言い」をするものだと、参加者は思い込んでいる。それが研修初期の段階で、参加者の立場に立って考えたあとを示すことによって、意外性と共に親近感が生まれるのである。多くの場合、「この講師は、自分達(参加者)の立場にたって物事を考えようとしている」と好意的に参加者に受け止められる。
もう一つは、この後の「イントロダクション(導入)」への移行がスムーズになる点だ。相手の立場にたって、疑問を考える。その上で「まずは、皆さんがお持ちの疑問を解消するために、イントロダクション(導入)というものをしますね。」と告げると、何のためのイントロダクションなのか、目的が明確になり、参加者にとって受け入れやすくなるのである。
2.3.2 「イントロダクション(導入)」でやるべき4つのこと
基本的には前述した「参加者の疑問」に応え、参加者が安心して研修に参加できるようにすることが、イントロダクションでは必要になる。そのために、講師がやるべきことは、4つある。
(1)学習環境への配慮 (2)講師自身の自己紹介
(3)研修内容と進め方の説明 (4)参加者同士の自己紹介
(1)学習環境への配慮
参加者が安心して、研修に参加できる環境を整えることが、講師や事務局には求められる。具体的には、部屋の明るさ、講師の声の聞きやすさ、周囲の雑音、空調、換気、椅子や机の配置、途中退出用出口、休憩の有無、喫煙所、飲み物の持ち込みなど。こういう細かいことが気になると、学習効果が下がる恐れがある。
これらはいわば、A.マズローの「欲求5段階説」の下位の欲求「生理的欲求」や「安全の欲求」にあたる。講演や研修に参加して学習するということは、より上位の欲求「所属と愛の欲求」「承認の欲求」「自己実現の欲求」を満たすことであるとも考えられる。そのために、まずは下位の欲求を満たすことで、上位の欲求を満たす条件を整える。つまり、安心して学習できるようにするのである。
今回の講演の場合、90分という時間のため、休憩はとらなかった。その代わり事務連絡として「途中退出はご自由にどうぞ。お手洗い等はご自身でご対応ください。お飲み物もご自由にどうぞ。」ということを、参加者には伝えた。子供じみた言葉のように感じられるかもしれないが、参加者の学習環境に配慮しているという姿勢を示すためにも重要な物言いなのである。
(2)講師自身の自己紹介
事務連絡の次に、講師が伝えるべきは「講師自身の自己紹介」である。自分は何者で、何故今壇上にたっているのか。講師としての「正当性」を示すためにも、自己紹介は非常に重要である。講師の自己紹介で、示すべきことは2つある。一つは、講師としての「有能さ」もう一つは「親しみやすさ」である。「有能さ」はいわば「この講師の話なら聞く価値がある」と思ってもらうために必要な要素である。「親しみやすさ」は、権威や強権では反発する「大人」という受講者に受け入れてもらうための要素である。
今回の講演においては「有能さ」を示すために、仕事上の側面として「経歴」「企業研修での実績」「著書」「プレゼンテーション能力」の4点を、自己紹介で強調した。筆者の場合、一部上場企業での企業内研修や日本経済新聞社主催の日経ビジネススクールでの実績等があるため、そこをアピールポイントにした。
プレゼンテーション能力の有無は、その場ではっきりわかってしまうものだ。だからこそ、簡潔明瞭でわかりやすい話し方をすることで、参加者に「この講師の話なら聞いてもよいな」と思わせるのである。いくら話す内容が良くても、話し方が下手では、参加者をひきつけることはできない。
「親しみやすさ」を示すために、個人的な側面として「出身」「家族」「趣味」などについて述べた。ここでの狙いは2つである。講師側から「自己開示」することで、参加者からの親近感を得ること。参加者が講師との間に何らかの「共通点」を見つけ出せるようにすること。この2つにより、参加者に「親しみやすさ」を示すのである。
講師の自己開示の度合いによって、参加者がこの後の参加者同士の自己紹介でどの程度、自己開示するのかも決まってくる。講師が自己開示しないのに、参加者に自己開示を期待しても無理な注文だからだ。講師の自己紹介は、いわば参加者自己紹介の見本という位置づけなのである。また「出身」「家族」「趣味」などは比較的「共通点」を見出しやすい項目である。参加者が講師との間に共通点を見出すと、講師に対して親近感を感じるものである。
(3)研修内容と進め方の説明
講師自身の自己紹介が終ったあとは、本論で伝える内容とその進め方を説明する。ここでの狙いは3つある。まずは本論に興味をもってもらうこと。次にどのように参加すればよいか、参加者の「参加姿勢」を理解してもらうこと。更に後述する「研修への期待」をあげてもらいやすくするためである。
2点目の「参加姿勢を理解してもらう」には、補足説明が必要であろう。これはいわば、参加者と講師の間の「約束ごと」とも言える。「講師の話をただ聞くだけではなく、皆さん自身に考え、話し合い、発表してもらいますからね。」積極的、能動的に参加してほしいと告げるわけである。だからといって「どなたかを指名したり、人前に立たせたりなどはしませんからご安心下さい」といった一言も付け加える。
大人の参加者は、講師に何かを強制されたり、やらされたりするのを嫌う。特に、今回のように知的レベルの高い参加者の場合は、その傾向が強い。そのため「参加姿勢」はあくまで自主的・自発的なものであり強制はしないという点を強調した。
上に関連して、企業研修において筆者自身が留意している点を述べる。それは「大人に恥をかかせない」ということである。指名して答えさせられたり、人前で発表して自分の意見を批判されたりすることを、多くの成人は嫌う。
恥をかかされると、その一点だけに思いがいたり、恥をかかせた講師にいらぬ恨みを抱いたり、研修の妨害をするケースも出てくる。K.マイセルらが「おとなの学びを支援する」でまとめているように、「おとなの学習者」は、「笑いものになること」「教え込まれること」「過度の注意」を望まないのである。
今回の講演においては、研修の進め方を説明するために、次のスライドを使用した。「講義型セミナー」と「参加型セミナー」を比較した図だ。
普段の研修においては「今日は参加型セミナーですから、皆さん積極的にご参加くださいね」程度の簡単な説明をするのであるが、今回の講演においては詳しく2つの形態の「メリット」と「デメリット」を補足説明をした。その方が参加者にとって役立つ情報提供になると考えたことと、こちら側の「有能さ」を示すためである。以下に参加者に説明した内容を述べる。
●「講義型セミナー」のメリットとデメリット
「講義型セミナー」は、どちらかというと子供相手の学校教育のスタイルだ。前に立っている講師・先生が受講者・生徒に伝える。いわば情報提供型である。「講義型セミナー」の前提は「答えは一つである」ということであり、その答えを受講者に教えるというものである。
メリットとしては、短時間で多くの情報を大勢に伝えることができるという点がある。デメリットとしては、講師側からの一方的な話になりがちであるということと、受講生の参加姿勢が受動的になりがちであるという点である。そのため講師が伝えた内容が、期待したほど受講者に残らない。つまり学習効果が低い場合も散見される。
●「参加型セミナー」のメリットとデメリット
「参加型セミナー」は、大人相手の自由討議スタイルだ。前に立っている講師あるいは「ファシリテーター(促進役)」と呼ばれる者からも情報提供があるが、参加者からも情報を出す。いわば、双方向の対話型、情報共有型である。「参加型セミナー」の前提は「答えは一つではない」ということであり、講師や参加者それぞれの考える答えを尊重し共有しあうという進め方になる。
参加型セミナーのメリットは、参加者が能動的・積極的に学ぶために学習効果が高いと考えられる点と、お互いに情報共有できる(つまり講師も勉強になる)という点である。デメリットとしては、時間がかかるために、伝えられる情報が減るという点があげられる。例えば、講義型セミナーで、10の情報を伝えられるところを、参加型では、5しか提供できないといった具合に。
今回の講演では、講演の進め方を合意した上で、参加者同士の自己紹介に入った。
(4)参加者同士の自己紹介
参加者同士の自己紹介、つまり参加者に喋らせるというのは、参加者の緊張感を和らげる「アイスブレーク」という観点でも有効である。更に講師自身が一息つけるということと、参加者からの情報収集もできるという点からも有用である。
今回の講演では、同じ大学グループ内とはいえ、見知らぬ先生方も多いということから、近くに座っている3人のグループで自己紹介をしてもらった。自己紹介の中では後述する「今回の講演への期待」も共有してもらった。
以上が参加者の緊張感を和らげ、参加意欲を高めるために、講師がやるべき4つのことである。
2.4. 参加者からの情報収集を行うために講師がやること
イントロダクションの目的(3)参加者からの情報収集 を行うために講師がやることは次のとおりである。
○参加者の「現状」と「目標」を知る。
参加者の「現状」(現在の状況)と「目標」(望んでいる状況)を知るために、講師ができることは2つある。研修前に、企画者や参加者から話を聞いておくことと、研修中の「参加者自己紹介」から情報を得ることである。何故、参加者の「現状」と「目標」を知る必要があるのか、その理由については後述したい。
参加者の「目標」を知るために有効なのが「研修への期待」を書かせることである。今回の研修で参加者から「学びたいこと・得たいこと」が何なのか。それがわかれば、本論もそれに沿った内容で進めることが出来る。つまり的外れな研修にならないのである。
今回の講演において、参加者があげた「研修への期待」は次のようなものであった。
・教え上手になるための秘訣
・教え上手、学ばせ上手になるための教え方、技法など
・学生が学び上手になるような授業のアイデアを得ること
・自ら進んで学生たちが積極的に学びの姿勢をみにつけるにはどうしたらよいか
・教え方について悪いところを改善できるような方向性を示してほしい
(授業内で学生に対しての態度や考え方など)
・「学ぶ」をどうとらえるかによって良いとされる「教える」方策は全く変わるので、「教え上手」の根幹となる「学び」について知りたい
・有効な学びとは何か
・どのような集団に、どのような学びの機会を与えるのが有効か
・教える経験が不足しているので、教え方の知識を得たい
・等しく言える環境をどのように作るか
・どのような方法で皆の話をまとめるか
「研修への期待」を考えることは、参加者にもメリットがある。それは自身の学習目標が明確になるということと「この研修は自分自身のためのものである」という研修への当事者意識が増すということである。
2.5 本論に円滑に移行する為に講師がやること
イントロダクション(導入)の最後は、その後の本論へのスムーズな移行である。そのために講師がやることは「研修の目的・ゴール(目標)の合意」である。自分達は何のためにこの研修に参加し、研修に参加することで最終的に何が得られるのか。この参加者の疑問に答えるのが、研修の目的とゴールなのである。
今回の講演においては、目的を「学び上手な人材を育てる教え方について学習する」とした。この講演が終った時点で、参加者に「こういう状態になってほしい」と講師側が考えるゴール(目標)として、下記4点をあげた。
・「教え上手な講師像」をイメージすることができる。
・参加者が自身の教え方をふり返る。
・「教え上手」の考え方がわかる。
・「試しにやってみよう!」という気になる。
イントロダクション(導入)の最後に、「研修目的・ゴール」を合意しておくことは重要である。これはいわば講師と参加者間の「約束事」になる。講師は、言葉には出さないが、言外に次のような気持ちを抱いている。「今回の研修の目的は〓で、ゴールは〓です。これに合意して頂けるなら、そのまま席に座って本論をお受けください。」と言っているのである。
「研修目的・ゴール」を合意するということは、目的・ゴールに掲げたことについては、本論で網羅するが、それ以外はやらないということでもある。つまり的外れな期待を抱かせたまま本論に入ることを防ぐのである。参加者にあげてもらった「研修への期待」の中には、本論の中では網羅できない内容が含まれることもある。それを、本論に入るまえに参加者に伝えるのである。
的外れな期待を抱かれたまま本論に入ると、期待が満たされなかったときに、参加者は不満感を抱く。参加者に不満感を抱かせないためにも、本論に入る前に「今回の研修で、皆さんの期待に応えられることは〓で、応えられないことは〓です。」と明確に伝えることが重要なのである。それがいわば「研修目的・ゴール」を合意するということなのだ。
3.「教え上手」と「教え下手」の違い
3.1 このパート(講演部分)の目的
今回の講演における本パート(部分)の目的は、次の3つである。(1)教え上手な講師のイメージを描かせる (2)自身の今までの経験を振り返らせる (3)次のパートへの橋渡しを行う
3.2 講演内容
3.2.1 「教え上手」とは?
まず、参加者に次の問いをした。「あなたが出会った教え方の上手い人はどんな人でしたか?その人のことを思い出して、その人がどんな人だったか、特徴を列挙してください。」参加者は、個人でテキストに自分の考えを書き込み、その後自己紹介をしあった3人のグループで意見を共有した。次に、グループで上がった意見をクラス全体で共有するために、数名に発表してもらい、模造紙にその意見を書き出した。参加者からは、教え上手な人として「説明がわかりやすい」「声が大きい」「例え話が上手い」などといった意見がでた。
これは余談だが、参加者の意見を模造紙に書くことにより、講師への信頼感を増すことができる。参加者の発言をしっかりと聞き、それを模造紙に書き留めることにより、講師の傾聴する姿勢や要約する能力を示すことが出来るからである。
3.2.2「教え下手」とは?
次に参加者には「あなたが出会った教えるのが下手な人はどんな人でしたか?」という質問をした。前段の教え上手と同じ要領で、個人作業、グループ討議といった形で進めていった。「教え下手」に関する話し合いの方が、参加者同士の討議は盛り上がる。参加者からは「専門用語を多用する」「高圧的」「こちらを見て話さない(黒板をむいたまま)」などといった意見が出た。
3.2.3「教え上手」の共通項とは?
最後に参加者に次の質問をした。「教え上手と教え下手の特徴を列挙した上で、教え上手に共通することは何かを考えてみてください。教え上手にはあって、教え下手にはないこと、と考えて頂いても結構です。教え上手の共通項について考えてみてください。」参加者は個人作業で自分の考えをテキストに書き始めた。グループでどんな意見が出たかを共有してもらった上で、講師側からの情報提供に入った。
「教え上手の共通項、色々な意見が出たと思います。どれも正解です。ここで、私共ラーンウェル(弊社名)では、教え上手の共通項をこう考えるというのをお伝えします。教え上手の共通項は、次の3つです。学習支援、問題解決、相手本位。」ここまでを伝えた上で、次のパートである「教え上手の考え方」に移行した。
3.3 講演内容の裏側解説
3.3.1 参加者用テキストに白紙が多い理由
参加者用テキストには白紙の部分が多い。今回の設問のように、本人に考えさせ書き込みをさせるのには、いくつかの理由がある。まず、最初から全て書いてあるテキストだと、参加者の興味が減退することがあげられる。白紙になっていれば「ここには何が入るのか?」といった興味を喚起し、少しずつ答えが明らかになる楽しみも見出せる。テキストに全て書いてあると「だったらこれを読めばいいではないか」と、講師の話を聞こうとする意欲が低くなってしまうのだ。
次に、テキストを自分で作り上げていくという楽しみにもつながる。自分自身の研修受講時点での考え、同じグループの他の人の意見、他のグループの意見など。書き込んでいくことで、この研修に参加することでしか得られない、参加者だけの世界で一つだけのテキストが出来上がるのである。これは表紙に自分の名前を書かせることと同じ理由である。
3.3.2 まず参加者に考えさせる理由
「教え上手とは?」「教え下手とは?」「教え上手の共通項とは?」と、3つの質問を参加者に考えてもらった理由は、次の通りである。
(1)自分の経験を振り返ってもらうため
(2)講師側が伝えたいことを受け入れやすくするため
このパートで伝えたかったことを一言で言ってしまえば「教え上手の共通項は、次の3つです」というだけである。ただ、これを最初に言ってしまうと、参加者の納得感が低くなる。「本当にそうなのか?」「他にもあるのでは?」という疑問を抱かせてしまうからだ。
そこで、まずは参加者に自身の経験から考えさせ、意見を出させ、その上で講師が要約整理するといった観点で「教え上手の共通項」を提示する。それにより「納得感」を増そうとしているのが、このパートなのである。ここで納得感が得られないと、次のパート「教え上手の考え方」自体も納得いかないものとなってしまう。講師側の意見を押し付けるのではなく、参加者自身の考えを補強するといった位置づけにするためにも、まず参加者に考えさせるのである。
3.3.3 個人作業→グループ討議→クラス共有という順番にしている理由
まず参加者に個人で考えさせ、グループで意見交換しあい、最後にクラス共有としている理由は、次の通りである。まず、いきなり「グループで話しあえ」といわれても、ある程度自分の考えをまとめる時間をとっておかないと話し合いが効率よく進まない。またグループ討議の場合「強い立場の人」「声が大きい人」「仕切る人」が話し合いの中心になり、その他の人の発言が減る傾向がある。それを防ぐためにも、グループの全員が何らかの意見をもって参加する状態を作るために、まず個人で考えさせるのである。
これはH.ガードナーの「多重知能理論」とも関係する。人の「学習スタイル」には様々あり、人と話すことで自分の考えを整理する人もいれば、一人でじっくり考えることで自分の考えをまとめる人もいる。参加者それぞれの学習スタイルに配慮するという意味でも、個人作業→グループ討議という順番にしているのである。
クラス共有においても、個人とグループである程度意見が出てから行う。同じグループ内だけだと「他のグループではどんな意見がでたのか?」「自分達のグループは的外れな話し合いをしているのでは」という不安がぬぐえない場合もある。そこで、グループ討議が終った段階でクラス共有をし、講師による要約整理に入っていくのである。
筆者が見てきた教え下手な講師の場合、講師がいきなりクラスの中にいる個人を指名して質問に答えさせるケースが多かった。このやり方には、2つの不利益がある。一つは、指名された参加者しか考えようとしないということ。もう一つは「次は自分が指されるのでは?」と参加者が萎縮することである。
参加者に自由に話しあう「参加型セミナー」の雰囲気を作るためにも、クラスの中での個人指名にはデメリットが多いと筆者は感じている。「大人に恥をかかせない」という観点からも、個人指名は避けるべきである。
以上のように、個人作業→グループ討議→クラス共有という順番にしている理由は、参加者にとって考えやすく話し合いやすい雰囲気を作るためである。
4.教え上手の「考え方」
4.1 このパート(講演部分)の目的
このパートでの目的は、教え上手の「考え方」と「やり方」を参加者が理解することである。このパートはどちらかというとこちらからの情報提供という色合いが強い。前のパートで上げた「教え上手の共通項:学習支援・問題解決・相手本位」を更に深堀していくといった位置づけになる。
4.2 講演内容
4.2.1 学習支援
まず「教え上手は、学ばせ上手」である。教えるのが上手い人は、相手に学ばせるのが上手い。教える側の人間は、相手が学ぶことを手助けすることが仕事である。M.ノールズが「アンドラゴジー(成人教育)」で提唱したように「学習が促進されるよう援助する」役割が求められるのである。では、本人が学ぶことを支援するために、教える側ができることは何なのか。今回の講演では、次の3つを伝えた。
(1)考えさせる(2)話し合わせる(3)体験させる
(1)考えさせる
参加者に学んでもらうためには、講師の話を一方的に聞かせるだけでは足りない。もちろん、他人の話を聞くことで学んでいける受講者も多い。そういう受講者は元々「学習能力」が高い場合が多く、自主的・自発的に学んでいけるタイプの人々である。
ただ、受講者全員がそうであるとは限らない。こちらが上手に学びを手助けする必要も出てくる。「学ぶこと」を「本人の中に何かが残ること」と考え、「教えること」を「相手の中に何かを残すこと」と考えると、本人の中に何かを残すために、教える側がやるべきことが見えてくる。
その一つが「考えさせる」である。講師が喋り続けていては、受講者は考える暇がない。受講者に考える時間を与えることも重要なのである。だから話す時の「間」や「沈黙」が大事なのである。立て板に水のごとく喋り続けられると、受講者は話についていくのが精一杯で、自分で考えることが難しくなる。
また受講者本人に考えさせるための「質問」も有効である。企業研修でも主流になってきた「コーチング」のように、相手に問いかけて考えさせることで、相手の学びを促進するというのは有効な手法である。教える側が留意しなければならないのは「良い質問」をすることである。良い質問とは参加者にとって考えやすく気づきが得られるものである。「何でこんなこと聞くのだろう?」と参加者が疑問を感じるような質問は、悪い質問である。
質問に対する答えを書かせたり、本人の考えを文章にさせたりするといった「書く」作業も、受講者に考えさせる有効な手法である。書くためには、まず考えないといけないからだ。
(2)話し合わせる
自分の考えを口に出して言ったり、他人の意見を聞いたりすることによって、学ぶことも多い。「自分はこんなこと考えていたんだ」と人に話すことで再発見をしたり「そういう考え方もあるんだ」と他人の話から新たな気づきを得たりと。本人の中に何かを残す、つまり学ばせるためにも、話し合いは有効な手段である。
J.メジローが言うように、既に一定の価値観「ものの見方」を持っている大人の「ものの見方」に影響を与える意味でも、話し合いや討議は重要である。
(3)体験させる
「やってみないとわからない」ことも世の中にはある。本人に学ばせるためにも「体験させる」ことは重要である。企業研修の世界であれば、現場実習や研修内でのロールプレイ(役割演技)などがある。実際に自分がやってみること、体験することで、参加者の中に残ることは多い。
ただ、体験をやっただけで終らせないようにするために、教える側が手助けすることも必要になる。そこで参考になるのが、D.コルブの経験学習論である。体験しふり返り、法則化し更に試行する。体験から学ぶ手法として参考になる考え方である。
4.2.2 問題解決
大人相手の研修の場合、教える側がもっておかなければいけない考え方の一つが「問題解決」である。大人は何のために、研修に参加するのか?それは自身が抱える何らかの問題の解決につながると期待するからである。つまり「研修」は、参加者の問題解決のためにあるのだ。
研修が自身の問題解決につながると考えれば参加意欲が高まる。参加者の参加意欲、学習意欲を高めるためにも、研修が参加者の問題解決につながるという期待感を持たせることが教える側の責務となる。ここでは、次の3点から研修における問題解決という考え方について述べる。
(1)問題とは (2)講師がやること (3)「つながり」に関する理論
(1)問題とは
一般的にビジネスの世界では、問題を次のように定義することが多い。「問題=現状〓目標」。「現状」とは、参加者の現在の状況、「目標」とは参加者の望んでいる状況。参加者の現状と望んでいる状況の「差」が「問題」であるという考え方である。参加者が、現状から望んでいる状況に近づくために、その間にある問題を解決することを支援するのが、教え上手の考える「研修」なのである。
(2)講師がやること
研修が参加者の問題解決であるならば、教え上手な講師がやるべきことは、参加者の問題が何かをまず把握することである。問題がわからなければ、解決策を提示することもできないからだ。参加者の問題を把握するためには、研修前と研修中に情報収集することが必要になる。研修前の企画段階で企画者から参加者の現状を聞く。参加者には事前課題等を依頼し、現状と目標を聞きだす。研修当日は、参加者自己紹介で、参加者の現状と「研修への期待」を聞きだす。まずは参加者の問題を把握しようと努めること。これが教え上手な講師がやるべきこととなる。
参加者の問題を把握しようと努める講師の姿勢は、参加者には好意的、肯定的に受け止められる。参加者自身の問題解決を支援しようとする講師の意図が見えるからだ。多くの講師は、自分が持っている知識・経験・技術を伝えることに主眼を置くが、それはあくまで手段でしかない。目的は参加者の問題解決なのであるから、講師が何をどう伝えるかよりも、参加者がどのように問題解決をするのか、こちらの方が重要なのである。
参加者にとって最も興味関心があるのは、自分のことである。参加者の興味関心がひけないと感じている講師がいるならば、それは自分の研修内容が、参加者の問題解決につながっているかを自問する必要があるだろう。参加者にとって「自分には関係ない」と思うことが、その研修内容に興味関心を失う最大の要因である。いかに、研修内容が参加者の問題につながるか、ここを常に参加者に意識させるのが、教え上手な講師なのである。
参加者にとっては、学んでいる内容が自分にどう「つながる」のかが参加意欲を高めるために重要な要素となる。研修内容が、参加者の問題解決につながるということが重要な理由もそこにある。「自分には関係ない」と思ってしまったら、研修に参加することも「やらされ感」が増し、当事者意識をもつこともできないであろう。
(3)「つながり」に関する理論
「つながり」に関する理論として活用できると、筆者が感じているものを2つあげる。J.レイブ&E.ウェンガーの「LPP:正統的周辺参加論」と、佐伯胖青山学院大学教授の「学びのドーナッツ論」である。
「正統的周辺参加論」とは、新参者がいずれは十全的参加者となるために、まずは周辺から参加して学んでいくという考え方である。これは「現状=新参者」と「目標=十全的参加」の差(問題)を埋めるために、まずは「周辺参加」をするととらえることもできる。新参者にとっては、参加して学ぶことは、自分が十全的参加をするためという目的意識が明確なため、参加意欲も高いと考えることができる。
「学びのドーナッツ論」においては、学び手である「I(私)」が目指す「They(彼ら)」の世界を結ぶ役割を「You(あなた)」が持っているという考え方である。この場合の「You」が、私たち教える側である。教える側は、学び手と彼らがこれから出て行く社会「They」の世界をつなぐ役割が求められる。言葉をかえれば、学び手が学んでいることが、実社会でどう役立つのか、彼らの今後にどうつながるのかを、教える側は常に意識して伝える必要があるのだ。筆者自身は、高等学校での講演などのときは、この結び付けを重視している。
4.2.3 相手本位
教え上手に共通する考え方の3つ目は「相手本位」である。前段の学習支援、問題解決もつまるところ、この「相手本位」という考えに集約されるといってもよい。相手本位とは、相手の立場で考え行動するということである。
・どうしたら相手が学びやすいか?
・どういう言葉を使ったら、相手がわかりやすいか?
・どういう質問をしたら、相手は考えやすいか?
・どういう風に接したら、相手は受け入れてくれるか?
常に相手中心に考え、研修内容を組立て運営することが教え上手な講師には求められるのである。
ここで、一つの言葉を紹介したい。「伝えることよりも、伝わることを」。多くの講師は、自分が伝えることで精一杯になってしまう。しかし大事なのは、参加者に伝わったかどうか、参加者が学んでくれるかどうか、という点である。伝えることは手段に過ぎない。西林克彦宮城教育大学教育学部教授が言うように「教えるという活動があっても、学習者によって学習されていなければ教育にならない」のである。参加者が学び問題解決できるよう支援する、つまり伝わることが、講師の目的なのだ。
5.クロージング(結び)
研修最後にやるべきことは2つある。一つは、学んだ内容のふり返り。もう一つは、学んだ内容を今後にどう活かすか考えさせることである。
5.1 研修最後のふり返りの重要性
研修を通して、自分が何を学んだのか、何に気づいたのかをふり返る時間をとることは、非常に重要である。理由は2つある。一つは参加者が学習内容を咀嚼し自分のものとする時間的理由が生まれること。もう一つは、研修内容への肯定的反応が生まれることである。
後者について補足説明したい。「今日の研修で学んだこと・気づいたことをふり返ってください」と参加者に投げかけると、多くの場合、肯定的反応が返ってくる。通常人は自分が取った行動(この場合は、教わること)が無駄だったとは思いたがらないので、何を学んだのか、得たことをなるべく出そうとする傾向がある。更に自分以外のメンバーが「あれも学べた、これも学べた」と発表しあってくれると、「そんなに学べるところが多かったのか。やっぱり意義ある内容だったのかも」と、自分の考えが強化されるのである。この振り返りによって、参加者の満足度は高まり、この流れでアンケートを書かせると、満足度の高い結果が生まれやすい。
5.2 今後の活用
「学んだこと」の振り返りが終ったら、最後に「今後の活用」を合意する段階である。学んだことを今後どのように活かしていくのか。これからどういう行動をするのか。そこを合意するのである。
6.参加者の声
今回の講演の直後にとったアンケートから、許可が得られたものだけ掲載する。
●今回の講演で「学んだこと・気づいたこと」
・資料1ページ目に記名欄→記名することにより傍観者から参加者となる。
・関根さんによる講演方法、関根さんの資料からの講演内容
→二重講演 説得力があり有用性が伝わった
・相手本位
・何気なく思っていることが再確認できた
・ある程度「教えること」を経験し、失敗することが必要であること
・教え上手になるコツは身近にあることに気づいた
・日ごろやっていることが整理された
・いくつかの理論を引き合いに出されたので調べてみたい
・学生たちに情報を伝えるのではなく、学生たちに情報が伝わるように教えることが大切であるということ
・自分だけでは知らなかったことや新しい見方を1つの同じ問題の中から発見できたのはプラスになりました。
・同じ分野の人だけでなく、他の立場の人や環境の人の話を聞く機会はこれからも持ちたいです。
・教え上手と教え下手は、裏表と思っていたので、片方を考えることで十分と考えたが、整理するうえでは役立つプロセスとなった。
・ひとつのテーマについて考えて、ディスカッションしたりするケースで、作業を細分化すると、スムーズに進むことに気づいた。
・教え上手の具体的な技法を学べたこと
・学び手側からのアプローチ(相対化)の重要性
・問題は目標と現実のギャップであるということ。したがって目標のないところに問題はない。目標、理想がいかに大切かを再認識した。
●ご意見、ご感想
・細かい心遣いが見えて非常に分かりやすかったです。
・この話で、1日やって頂いてもよいかと思います。
・講義部分について企業の例を踏まえて詳しく知りたい。
・理論についてのリストが欲しい
・授業で活かせる
・新しい方向性が見えた
・学生に対する見方を意識的に変えられそうです。
・関根さんのお人柄によるところが大きいと思います。声の大きさ、トーン、話し方で「この人の話を聞きたい!」「セミナーが役に立ちそうだ!」という印象が変わってくると思いました。
・自分の至らなさの焦点を絞ることができた。
・他の先生方と学びを共有できた。
・疲労感のない気づきを得られることができた。
・講演、レクチャーの手順がよく分かった
・大変、構成が良く、テンポの良いレクチャーで非常に気持ちよく参加できた。
7.むすび
今回の講演に参加された皆様、および企画された 教授に感謝の意を表したい。
8.参考文献
1)関根雅泰,教え上手になる!,明日香出版社(2006)
2)A.H.マズロー,人間性の心理学,pp55〓74,産能大学出版部(1987)
3)K.マイセル他,おとなの学びを支援する〓講座の準備・実践・評価のために,pp33〓35,鳳書房(2000)
4)H.ガードナー,多元的知能の世界〓MI理論の活用と可能性,日本文教出版(2003)
5)H.ガードナー,MI:個性を生かす多重知能の理論,新曜社(2001)
6)P.クライン&B.サンダース,こうすれば組織は変えられる!「学習する組織」をつくる10ステップトレーニング,pp299〓302,フォレスト出版(2002)
7)M.ノールズ,学習者と教育者のための自己主導型学習ガイド〓ともに創る学習のすすめ,明石書店(2005)
8)赤尾勝己,“成人教育学〓M.ノールズの理論をめぐって”,生涯学習理論を学ぶ人のために,pp5〓32,世界思想社(2004)
9)J.Mezirow,Learning as Transformation〓Critical Perspectives on a Theory in Progress,Jossey-Bass(2000)
10)常葉‐布施美穂,“変容的学習‐J.メジローの理論をめぐって”,生涯学習理論を学ぶ人のために,pp87〓114,世界思想社(2004)
11)D.Kolb,Experiential Learning〓Experience as the source of learning and development,Prentice Hall(1984)
12)山川肖美,“経験学習‐D.A.コルブの理論をめぐって”,生涯学習理論を学ぶ人のために,pp141〓169,世界思想社(2004)
13)J.レイブ&E.ウェンガー,状況に埋め込まれた学習‐正統的周辺参加,産業図書(1993)
14)田中俊也,“状況に埋め込まれた学習”,生涯学習理論を学ぶ人のために,pp171〓193,世界思想社(2004)
15)佐伯胖,子供と教育〓「学ぶ」ということの意味,pp65〓78,岩波書店(1995)
16)西林克彦,間違いだらけの学習論〓なぜ勉強が身につかないか,pp142〓153,新曜社(1994)
17)関根雅泰,早く一人前になるための仕事の覚え方,日本能率協会(2006)
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参加型セミナーとは?
○2種類の学習形態
「参加型・対話型」セミナーとは、参加者自身に考えさせ、
周囲と話し合わせることで、学習効果を高める研修方法です。
一方通行の情報提供型、講義形式ではなく、
双方向の情報共有型セミナーのことを、「参加型・対話型」セミナーと呼びます。
一般的に、人間の学習形態には、2種類あると言われています。
●Passive Learning(受動的学習)
●Active Learning(能動的学習)
Passive Learning(受動的学習)は、受身の学習です。
前に立っている先生・講師が、
生徒・受講者に対して、一方的に情報を提供する。
受講者は、先生の話を、ただ「聞くだけ」という状況です。
それに対して、Active Learning(能動的学習)は、
積極的に参加する学習形態です。
前にいる「ファシリテーター」からも、ある程度の情報は提供されるが、
参加者からも意見を出してもらう。 つまり、双方向です。
また、参加者同士が意見交換、情報共有をしあう。
参加者は自ら積極的に、参加し、学習する。
これが「Active Learning(能動的学習)」です。
「参加型・対話型」セミナーは、Active Learning(能動的学習)です。
自らが積極的に参加し、自分自身の内面や周囲と対話することで、学習効果を高めていく。
それが「参加型・対話型」セミナーです。
いい事尽くめに聞こえる「参加型・対話型」セミナー。
当然、メリット・デメリットがあります。
では、そのメリット・デメリットとは何なのでしょうか?
○参加型セミナーのメリット・デメリット
参加型・対話型セミナーには、聞き手・話し手 双方に対する「メリット・デメリット」が
あります。確認していきましょう。
◎参加型・対話型セミナーのメリット
【聞き手】
・講師の話を聞くだけでなく、自分も参加できる。
・自分の考えが整理される。
・周囲の意見を聞くことができる。
・人脈も広がりやすい。
・楽しい。
・学習効果が高い。
・得られることが多い。
【話し手】
・セミナー内容準備にとられていた時間が減る。
(今まで1時間話す内容を準備するところが、
30分話す分だけで済む。)
・ずっと話し続けなくて良い。
・参加者が勝手に考えてくれるので、講演・セミナーが楽になる。
・参加者から更なる情報収集ができる。
・参加者の反応がよくなる。
・参加者の満足度が高くなる。など。
ただ、当然、いいこと尽くめではありません。
参加型・対話型セミナーの「デメリット」もあります。
◎参加型・対話型セミナーの「デメリット」
【聞き手】
(向かない人がいる)
・講師からの「ありがたいお話」を聞きたいと思っている人。
・自分で考えるのが苦手な人。
・全くの初心者。
・知識、経験が無い人。
【話し手】
・最初の頃は、周到な準備が必要。
・「良い質問」を考える能力が求められる。
・ファシリテーション技術が必要。
・人の話をしっかり聞く能力が必要。
・模造紙に書くのが大変。
・時間管理がしづらい。
・慣れるまでが大変。
・大人数の場合、工夫が必要。
・一方的に話すのが好きな講師には向かない。
以上のような「デメリット」あるいは「難しさ」もあるのが、
参加型・対話型セミナーです。
ただ、「コツ」さえ、つかめば楽です。
参加型・対話型セミナー、やる前は、「なんか、難しそう」と感じる方が多いのですが、
ポイントさえおさえれば、簡単にできます。
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参加者の満足度を高めるために
セミナー講師をするからには、参加者全員に満足してもらいたい、と思うのは
当然のことです。
ただ、セミナーによっては、参加者のレベル、目的意識、セミナーへの期待
がバラバラなときもあります。
初心者には満足できても、経験者には満足してもらえない。
経験者に満足してもらおうとすると、初心者には分からなくなる。
参加者全員に満足してもらうには、どうしたらよいのか?
今回は、「参加型・対話型」セミナーの手法により、いかに参加者に満足してもらうのか、
という点について考えていきます。
○参加者の問題解決を第一に
「参加型・対話型」セミナーの基本的な考え方は、「参加者の問題解決」です。
そもそも、セミナーとは何のために行われるのか?
講師が持っている情報を伝えるためではありません。
参加者が解決したい「問題」を抱えていて、その問題に対する「解決策」として
セミナーが行われるのです。
ですから、私達講師も参加者の問題解決につながるように、セミナーを組み立てます。
当然、参加者も、自分達が抱える問題が解決されれば満足します。
では、参加者の問題解決につながるセミナーを行うためには、
どうしたらよいのでしょうか?
まず、そもそも参加者が抱える「問題」とは何なのか?
一般的に、「問題」とは、「現状(現在の状況)」と「目標(望んでいる状況)」の差である、
と定義されます。
ですから、参加者の問題を把握するためには、
●参加者の現状(現在の状況)
●参加者の目標(望んでいる状況)
を把握すればよいということになります。
そのためにどうしたらよいのか?
いくつかのやり方があります。
・事前インタビュー
(セミナー企画者や、セミナー参加者から事前に話を聞いておきます。)
・事前課題
(現在の課題、困っている点、セミナーに期待すること等を、事前に提出してもらいます。)
・セミナー時の発表
(自己紹介時に、セミナーに参加した目的、セミナーへの期待、等を発表してもらいます。)
基本的に、事前に参加者のことが分かっていれば、それに合ったセミナーを
企画することが出来ます。
「参加型・対話型」セミナーの第一歩は、参加者を理解することです。
それが、参加者の問題解決につながり、ひいては、参加者の満足感につながってきます。
○「できること・できないこと」の明確化
参加者が不満に感じるのは、セミナーが自分の「期待」に応えられなかったときです。
「こういう点が学べると思ってきたのに、学べなかった。」
「こういう情報を期待していたのに。」
「自分が知っている話ばかりだった。」など。
つまり、参加者が「セミナーに何を期待しているのか」が分かれば、対策も打てます。
「セミナーへの期待」は、前述したとおり、事前課題や当日発表で把握することが出来ます。
ここで、重要になってくるのが、把握した「セミナーへの期待」に対して、
今回のセミナーがどの程度まで期待に応えられるのかを、参加者に伝えるということです。
これを伝えないと、全ての期待を満たせると考えてしまう参加者が出てきてしまいます。
つまり、今回のセミナーで「できること・できないこと」を明確に伝えるということです。
例えば、
「皆さんが、今回のセミナーに期待しているのは、〓と、〓と、〓ですね。」
「このうち、〓と、〓については、今回のセミナーで何らかのヒントが得られると思います。」
「ただ、〓については、今回のセミナーではカバーしていない分野なので、必要があれば、
後ほど個別にお答えさせて頂きます。」
このように、セミナーで「できること・できないこと」を伝えておくことで、
ヘンな期待感をもったままセミナーに参加し、それが満たされない、ということも起こりません。
「裏切られた!」といった不満感、不信感をもたれずにすみます。
参加者の期待感に、どの程度まで応えられるのかを、
事前に明確にしておくことが、セミナー後の参加者の満足感につながってきます。
○ふり返りの重要性
情報提供型セミナーの場合、「これでもか」というぐらいに情報を提供します。
そうしないと、参加者に満足してもらえない、という講師側の不安感もあるからです。
ただ、そうすると参加者は「情報過多」の状態のまま、セミナー会場を出て、
結局なにを学んだのかあいまいなまま、終わってしまうケースもあります。
それに対して「参加型・対話型」セミナーの場合、
一旦たちどまって、情報を整理する時間をとります。
参加者自身が、セミナー内容をふり返り、
「自分が何を学んだのか? 何を得たのか?」を自問する。
この作業によって、学習効果が高まり、セミナー内容が自分のものとして
落とし込まれていきます。
セミナーで「学んだこと・気づいたこと」は何だったのか?
この「ふり返り」を、セミナーの一番最後に行うのが、
参加者の満足度を高めるために、効果的です。
なぜなら、人は自分のとった行動、この場合はセミナー受講が、無駄であったとは
考えたくないので、この最後のふり返りでは、セミナーに対する肯定的な意見が多く出てきます。
「こんなことが学べた。あんなことも学べた。」
「こんなことに気づいた。あんなことにも気づいた。」
など、参加者自身が、セミナー内容をふり返り、セミナーのよかった点をあげていってくれます。
しかも、これらの内容を、他の参加者と共有すると、更に効果が高まります。
他の参加者も、自分と同じように満足していることを知ると、自分の考えが
更に強化されるからです。
以上のように、参加者の満足度を高めるためには、
1.「参加者の問題解決」につながるセミナーを行う。
2.セミナーで「できること・できないこと」を伝える。
3.セミナー後に「ふり返り」を行う。
という3つが重要であるという点をお話しました。
少しでも皆さんのご参考になれば幸いです。
これからも参加者の為になるセミナーを実施し、
参加者の「問題解決」を支援していきましょう!
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