07年1月23日に、日経ビジネススクールさん主催で
人事・教育担当者の方むけ情報共有セミナーを実施しました。
「なぜ新入社員研修は現場に反映されないのか?」
当日は、20名ほどの参加者が熱心に情報交換をされました。
そのときの様子を、お伝えします。
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●セミナーへの期待
まず、参加者が今回のセミナーに何を期待していたのか、
クラスで出た意見は、次の通りです。
・新入社員研修の現場への反映、定着のさせ方
・反映されない要因は何か
・現場で実践してもらうにはどうしたらよいのか
・新入社員自身にどのように関わっていったらよいのか
・新入社員研修の具体的、実践的プログラム
・他社での具体的な工夫
・研修、サポート、メンター、OJTなどを
どのように進めていけばよいのか
・講義型、参加型研修の効果的、効率的な組み合わせ
・新入社員が毎年100名ほど入る。参加型の研修を行いたいが、
それだけの人数で運営が可能なのかどうか見極めたい。
限られた時間ですが、参加者のこれらの期待に応えたい旨を伝え、
セミナーの本論に入っていきました。
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●各社の導入教育での工夫
こちらから一般的な導入教育(入社直後の研修)について説明した後、
参加者同士で、自社の導入教育の現状について話し合ってもらいました。
・先輩社員とのランチミーティングを強制的に行っている。
・先輩も新人研修を受けるようにしている。
・上司からの手紙を渡している。
・ライフデザイン、キャリアデザインを、まず新人に考えさせている。
・心の病にならないよう、ストレスへの対応法を学ばせている。
・ビデオ教育を活用している。
・1コマ90分ほどにわけて、研修を実施している。
・研修の最終日に役員の前でプレゼンをさせ、達成感を味あわせている。
・コンプライアンスに関する研修を実施。
・マナー研修は、社内でマナーに関わっている秘書の方などが来て教えている。
・マネジメントをゲーム感覚で学ばせている。
・現場を見てもらい、感じたことをフィードバックしてもらっている。
・新入社員自身に「どんな点を期待されているか」を考えさせている。 など
次に、導入教育における課題について考えてもらいました。
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●導入教育における課題
06年6月に実施した「第1回情報共有セミナー」では、
導入教育における課題として、次のようなものがあがっていました。
・参加者のレベル差
・講師の力量
・新入社員の発言が少ない
・伝える内容の多さ
・マンパワー不足
・配属先との連携、現場をいかに巻き込むか
・研修内容と配属後環境にギャップがある
・効果測定
・配属後のフォローアップの難しさ
・新入社員のモチベーションに差
・現場任せ
・OJTが上手くいかない、OJTに温度差あり ・・・
今回の参加者から出た「導入教育における課題」は以下のようなものでした。
・導入教育の期間が長く、現場を知らずに「温室育ち」になってしまう。
どうやって現場を意識させればよいのか。
・採用時点でのイメージと、実際の仕事とのギャップ
・現場の泥臭さをどうやって理解させるか
・コスト面での問題
・配属先によって成長が異なる
・入社後の計画的なフォローが難しい
・新入社員のコンプライアンスに対する理解不足
・伝えるべきノウハウが属人化している。標準化されていない。
・プレゼンスキルやドキュメンテーションなど教科別に教えても、
有機的に活用できない。トータルではできない。
・教える側と新人との世代間ギャップ
・若い人の社会人レベルが低くなってきている。(昔に比べて)
・人数が多く、決め細やかな対応ができない。
・人数が少なく、過保護になりがち
・講師のレベル差
・現場の色にすぐ染まってしまう
・研修で教えた内容が、現場にいくと「リセット」されてしまう。
「研修で学んだことなんか、現場では役に立たない」と現場社員に言われる。
・配属先との連携ができていない。
・現場が忙しく、教育できない。手が回らない。
皆さん、様々な課題を抱えていらっしゃいますね。
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今回のセミナーでは、これらの課題の中でも
「研修内容の現場実践」
というテーマに焦点をあてて、情報共有を進めていきました。
そこで、まず最初に「なぜ研修内容が現場で実践されないのか?」
その理由について、参加者の方に考えてもらいました。
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●なぜ研修内容が現場で実践されないのか?
・新入社員自身が、ライフプラン、ビジョンをもっていない。
だから、今学んでいる内容とつながらない。
・学校授業の延長で受動的に学んでいる。
・仕事につながっていない。
・会社が求めているハードルが高い(昔に比べて)
・人事が教えていることと、現場が教えてほしいことの間にギャップがある。
・学んだ内容を活かす機会がなく、忘れてしまう。
・活用する必要性を感じない。
・研修(建前)と現場(本音)は違うという考え方
・フォローアップが難しい
・現場の人間は、人材育成を仕事と思っていない。
・研修内容が現場に即していない。
・研修=理想になってしまっている。
・現場とゴールイメージの共有(どういう人材に育てたいのか)ができていない
・現場が教育に理解を示さない
・どのように新人を育てていくのか、共有意識の欠如
参加者の皆さんから、情報を出して頂いた上で、
私どもが考える「研修が現場で実践されない理由」についてご紹介しました。
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●登場人物
まず、研修の現場実践に関わる主な登場人物がいます。
○本人:新入社員
○現場:先輩社員、上司
○教育:社内講師、外部講師、教育担当
これらの登場人物が、どのように研修の現場実践に関わってくるのかを、
「学習モデル」という考え方を通して、確認しました。
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●二つの「学習モデル」(1)
一つ目の学習モデルは、「学習転移モデル」と呼ばれるものです。
(「企業内人材育成入門」ダイヤモンド社 参照)
このモデルでは、学習を次のようにとらえています。
学習 = 獲得
教育の場において、新人が知識・技術の基礎を獲得する。
獲得した知識・技術の現場での応用は、本人に委ねられている。
獲得した知識・技術を現場で応用する
というのが、このモデルの基本的な考え方です。
そして、多くの新入社員研修においては、このモデルに従った
教え方がなされています。
講師が新入社員に知識・技術を教える。
教えた内容の現場適用は、新入社員に任されている。
この「学習モデル」に沿った考え方ですと、いくつかの問題点が出てきます。
その問題点について述べた後、セミナーでは、
「研修が現場で実践されない3つの理由」についてご紹介しました。
(この部分の詳細は、現在執筆中の別の原稿でご紹介します。)
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●研修の現場実践を促すための工夫
「研修が現場で実践されない3つの理由」を踏まえたうえで、
では、逆にどうすれば研修の現場実践を促すことができるのかを、
参加者同士で話し合いました。
・継続的なフォローアップを行う
・何のための研修なのか、目的をまず明確にする
・現場とのコミュニケーションを密にとる
・現場に即した研修を企画、運営する。
・社内講師やOJT担当者も、教育する
・理念の浸透などは、新入社員だけでなく全社的に取り組む
・自立心や当事者意識をもたせるような研修を、新人に対して行う
・教育担当者が、現場にヒアリングに行く
・新人研修の結果を直接現場に聞きに行く
・教育の企画そのものを、現場起点で考える
・新人に現場を体験させる。教育担当者も現場を知る。
・現場を巻き込み、教育を作っていく
・現場社員が、新入社員研修を体験する
・現場に頼れるパイプが必要(現場で教育をサポートしてくれるような人)
・外部講師のマナーではなく、社風にあったマナー研修を行う
・OJTを通して、育成目標の合意をはかる。
・現場にアクションを起こさせる
・OJT指導担当者をしっかり育てる
・教える内容の標準化、データバンク化
・育成や将来目標の共有
・ベンチマーク
・「学習する組織」をつくり、全社的に学ぶ風土を作っていく。 など
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●二つの「学習モデル」(2)
ここで、二つ目の学習モデルとして
「正統的周辺参加モデル(LPP理論)」をご紹介しました。
このモデルにおいては、学習を次のようにとらえています。
学習 = 参加
「実践コミュニティ(共同体)」に参加していく過程そのものが「学び」である
という考え方です。
「新参者」である新入社員は、既に「十全的参加」を果たしている
先輩社員や上司と同じように、一人前になっていくために、
まずは「周辺参加」をさせてもらう。
そして、実は、このモデルに
「研修の現場実践を促すためのポイント」が隠されているのです。
参加者に対しては、「研修の現場実践を促す3つのポイント」を
正統的周辺参加モデルに則ってご紹介しました。
(こちらの詳細も、現在執筆中の別の記事でご紹介します。)
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●現場とのつながりを作るには?
「研修の現場実践を促す工夫」にも出てきたように、教育担当者と
「現場とのつながり」は、非常に重要です。
そこで、参加者に「現場とのつながり」を作るために、どうしたらよいのか
について話し合ってもらいました。
・現場の状況をヒアリング
・現場との関係(パイプ)作り
・教育担当者からの情報発信
・研修前後に、現場とコミュニケーションを取る
・普段から現場と接点をもっておく
・現場を訪問する
・気軽に電話やメールができる相手を作っておく
・なるべく顔をあわせるようにする
このあとは、「研修の現場実践を促す3つのポイント」の詳細を
確認していきました。
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●正統的(現場とのつながり)
「研修で学んでいることは、確かに現場で必要なことだ」と、新入社員が
研修が「正統的」なものであると感じない限り、研修の現場実践は促せません。
そのためにも必要なのが、教育内容と「現場とのつながり」です。
それを持たせるために、どうしたらよいのかを、
○研修前
○研修中
○研修後
の3つにわけて、参加者にはご紹介しました。
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●周辺参加(本人支援)
次に、新入社員が現場に参加できるよう、どうやって支援したらよいのか
について、「参加のさせ方」「参加の仕方」「忘却対策」の3つにわけて
ご紹介しました。
○参加のさせ方(「教え方」を教える)
新入社員が上手く現場で学んでいけるよう手助けするために、
先輩社員や上司に「教え方」を教える必要があります。
いわゆる「OJT担当者研修」というものが必要になるのです。
(日経ビジネススクール主催「OJT指導スキル研修」)
○参加の仕方(「学び方」を教える)
新入社員自身も、現場で仕事を覚えていく際に必要になるのが、
「上手な学び方」です。
・人から教えてもらう際の話の聞き方
・観て盗む際のポイント
・経験から学ぶためのやり方 など
早く一人前になるために必要な「仕事の覚え方」を学ばせるのです。
(日経ビジネススクール主催「仕事の学び方」研修)
○忘却対策
新入社員が、研修で学んだことを忘れないようにするための
「忘却対策」としていくつかのやり方をご紹介しました。
・研修教材としての「手帳」と
フォローアップツールとしての「手帳」
研修教材は、研修が終れば、机の中にしまわれてしまいます。
それを防ぐために、毎日使う「手帳」そのものを、
研修教材として使用します。
(「日々学習手帳」 ← 現在サイト製作中)
また、研修内容の現場実践を定着化させるためにも、
何かを継続して実践させる必要があります。
継続、習慣化に役立つのが、「手帳」なのです。
・リマインダーカード
・簡易チェックシート
・メールラーニング 等
弊社が工夫している様々な「現場実践ツール」を、
参加者にご紹介しました。
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この他にも、いくつかの情報を参加者には提供しました。
・Pedagogy(子供に対する教育)
・Andragogy(大人に対する教育)
・学習効果を高める方法
・講師の「小技」 など
これらについては、また別の機会にご紹介します。
最後に、無料セミナーに参加された皆さんの声をご紹介します。
(許可を得た方のみ掲載)
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●学んだこと・気づいたこと
・新人研修は誰のためにやるのか? 新人、現場、経営のため という
当たり前のことを再認識しました。
・各登場人物へのニーズヒアリング、ゴールイメージのすり合わせは必須。
・新人研修を教える側だけで考えるのでなく、学ぶ側からも考えることの
重要性(学びに関する理論)
・新人研修についての悩みは、各社様々なものであると気づくことができた。
・「現場で生き残ることを教える」には、ハッとさせられた。
・新人の立場で研修を考えることで、効果の高い研修が計画できると思う。
・学ぶことの重要性を確信できた。新人のみならず階層別研修に取り入れたい。
・参加型のポイントは理解できたと思う。
・新人とはいえ、社会人(大人)の接し方をする重要性に気づくことができた。
・現場に送り出すイメージとして新しい観点を頂きました。
・「参加」という1つのキーワードを、いくつかの場面で応用したいと思います。
・参加型の研修を体感して、自分が講師のときに非常に役立つと思います。
・研修を作る側のあり方とは、現場へ導く助けとなるということがわかりました。
・研修の目標、目的、人材育成のゴールの共有化の必要性を強く感じた。
・手帳を配ることは早速実践していこうかと思いました。
・(参加者が皆)同様の悩みを抱えていることがわかり、大いに勇気付けられた。
・短い間での会話ではあったが、色々な取り組み方も教示頂きありがたかった。
・教育担当者は、新入社員と現場の橋渡しの役割であるということ、
そこへつなげるために何をしたらよいのか(事前準備)は、
現場へのヒアリングやアンケートなどで、期待する人物像や
ゴールイメージについて情報を共有し、相互理解をすることが大切であると
学んだ。
・時間もお金もパワーもかけて行う新入社員教育が現場で活かせるものとできるよう
日ごろからコミュニケーションをとることを心がけたい。
・問題点、課題については、各社、共通か似ていることがわかった。
・まずは「ゴールイメージ」を作ること。
「現場とのリレーションをもつこと」から始めたい。
・プログラムの中に「参加型」を増やし、新人が自ら動く時間を作りたい。
・研修後のフォローについて見直したい。
・新人や現場の意見が聞けるような場を作りたい。
・学ぶ側からの観点を再認識できた。
・いかに机上で考えた内容で研修を組み立てていたかに気づいた。
面倒くさがらずにどんどん現場の声を吸い上げるようにしないと、
ギャップが広がり、「研修のための研修」になってしまうことを
再認識した。
どう現場を巻き込むか、現場主導のやり方、進め方について
再度考えたい。
・現場との連携については、他社の方々も課題に思っている部分だと
再認識した。
具体的には、2点実行しようと思う。
1)研修前:現場とのゴールイメージの共有(←すぐにやろうと思います)
2)研修中:現場への適用の仕方のガイドが必要だと
認識したので、どういうガイドをするかの検討
・現場と日ごろからコミュニケーションを図り、状況を知り、かつ
教育の考え方を知ってもらう
・企画段階から現場に入ってもらい、教育担当の研修と
現場での教育の棲み分けをしておく。合意する。
・大人になってもらいたいなら、大人として扱う。
・現場へのつながりを常に意識し、研修内容を立案する。
・学び方に違いがある(学生と社会人では)
・現場で実践させるための工夫 〓 周辺参加という考え方
具体的に落とし込みをしてみたい。
研修で行ったことのチェックリスト表を現場と共有する
・社員教育はロジックがないと、場当たりのいいかげんなものになる。
・社員教育は、教育部門と現場とのつながりが重要。
特に、人材育成のゴールの共有化が必要。
●ご意見・ご感想
・同じような悩みを抱えている人がたくさんいる → ノウハウやアイデアを
共有できる今回のような場は、非常に価値があると思います。
・(参加型セミナーであったため)自分で考え書くことで気づくことが多くあった。
・今まで気づかなかったこと、無意識に行っていたことが、
ざっくりと体系的に整理できました。
・大変楽しく、能動的に参加させて頂くことができました。ありがとうございました。
・関根氏の講義は声が明瞭で、かつ室内をエネルギッシュに動き回られ、
お人柄のよさもあいまって、楽しく充実していました。
・大変和やかなムードで、活発な意見交換ができ、有意義でした。
・新人研修の考え方が少し変わったように感じます。ありがとうございました。
・時間の関係でさらに具体的なノウハウを聞けなかったが、
有料のセミナーでも参加したいレベルである。
(参加者の皆さん、ありがとうございました!)
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●参考書籍
最後に、研修で引用した書籍をご紹介します。
●教育理論の全体像
「企業内人材育成入門〓人を育てる心理・教育学の基本理論を学ぶ」
中原淳編著 ダイヤモンド社
「生涯学習理論を学ぶ人のために」
赤尾勝己編 世界思想社
●教育理論
「人が学ぶということ〓認知学習論からの視点」
今井むつみ・野島久雄著 北樹出版
「間違いだらけの学習論〓なぜ勉強が身につかないか」
西林克彦著 新曜社
「学習者と教育者のための自己主導型学習ガイド」
M.ノールズ著 明石書店
「状況に埋め込まれた学習〓正統的周辺参加」
J.レイブ&E.ウェンガー著 産業図書
「学ぶということの意味」
佐伯胖著 岩波書店
「専門家の知恵〓反省的実践家は行為しながら考える」
D.ショーン著 ゆみる出版
「MI:個性を生かす多重知能の理論」
H.ガードナー著 新曜社
●研修講師として
「おとなの学びを支援する」
K.マイセル著 鳳書房
「新しい社員研修の進め方〓研修・人事担当者への手紙」
小橋邦彦著 産業能率大学出版部
「教え上手になる!〓おとなを相手の教え方」
関根雅泰著 明日香出版
以上です。
ご参加くださった皆さん、ありがとうございました!
そして企画してくださった日経ビジネススクールの
駒野さん、小川さん、原科さん、ありがとうございました!
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