「調査報告 学力低下の実態
~新しい学力観のもと小中学生の学力はどう変化したのか?」
苅谷剛彦他著
08年に入社した大卒社員、いわゆる「ゆとり教育」第一期生が
受けてきた小中学生時代の教育の状況が分かる本。
(・引用 ○関根の独り言)
1.小中学生の基礎「学力」はどう変わったか
・教育のみならず将来の日本社会に重大な影響を及ぼしうる
抜き差しがたい変化が、子供達の学習と学力をめぐり
すでに進行しているという事実。
・詰め込み教育、受験教育からの訣別を提言した96年の
中央教育審議機会答申をもとに「自ら学び考える力」=「生きる力」
の教育を目指した「総合的な学習の時間」が新指導要領に盛り込まれた。
・この調査報告は、1989年と2001年の比較である。
1989年 「新しい学力観」導入以前
2001年 指導要領が本格実施された92年から10年
・文科省が、2002年に学力調査を実施。ただ、この調査では
「過去との比較」「家庭的な背景の影響」について調べられない。
・今回の調査では、子供達の基礎学力は低下していると言わざるを得ない。
特に、塾にいかない子供の基礎学力の低下が著しい。
・できる子とできない子の格差が拡大
塾に行く者と行かない者、行けない者との格差が拡大
・本来、基礎学力を下支えする主役であるはずの公立学校が、
その役割を弱めている。
・無答の生徒が増加。
何を選べばよいか分からない「お手あげ状態」あるいは
答えようとする意欲さえ持たない生徒が増えている可能性。
・92年以降「読み取り」より「表現」「伝えあう力」を重視してきた。
それによって、基本的な「読み取り」の力が低下している。
・子供達の主体性に任せるばかりの教育は、さらなる格差を拡大しかねない。
・義務教育段階での工夫をこらした学習指導、学校の手厚い支援が、
「確かな学力」向上の核心に据えられるべき。
2.教育の階層差をいかに克服するか
・子供達の学習への取り組みに、家庭の文化的環境による
格差の存在が見られる。
・学校の努力と工夫次第では、格差を縮小できる。
・89年から01年にかけて「新学力観」型の教育改革(ゆとり教育)
が積極的に推進された。
教師は指導者ではなく「支援者」。子供中心主義の教育。
・授業時間削減による「ゆとり」が勉強離れとテレビ視聴に向かわせた。
・ゆとりを重視し、子供達の良さや個性を重視し、主体性を尊重しようと
いう教育界の風潮が、子供達の生活に対する「しばり」をゆるめた。
・子供達に劣等感を抱かせないようハードルが低めに設定された。
自分を試したり鍛えたりするチャンスや体験を持ちにくくなったのかも。
子供達はあいまいな自己イメージしかもっていない。
○これが、今のいわゆる「ゆとり社員」につながってきているのかも。
・文化的環境が低い家庭の子供の学ぶ意欲が減退している。
・調べ学習、グループ学習でまとめ役になるような子は、
家庭の文化的環境が高く、基礎学力も高い。
家庭の文化的環境が低く、基礎学力の低い子は、
調べ学習、グループ学習でも何をしてよいか分からない。
・他国(アメリカ、イギリス)でも指摘されてきた「子供中心主義」教育と
「階層格差拡大」の問題が、日本においても当てはまることがわかった。
・「子供中心主義」の教育が、あいまいで「目に見えない」教授法を
広めることで階層差を広げていく。
○これは恐ろしい。
・塾に通えない子供は「新学力観型」「曖昧化型」授業では、
基礎的な学力形成を損なう。
・問題がないように見える子は、塾で学力を補っている。
・授業改善に熱心な「頑張っている学校」では、家庭での学習習慣を含め
着実に自ら学ぶ力を身につけている。
・どの子どもも自ら学ぶ意欲を自然にもち、自己選択ができるとの
「強い個人の仮説」は、義務教育段階の小中学生にはあてはまらない。
・基礎の下支えをきちんとやった上で、発展的な学習として
「総合的な学習の時間」をとらえる方がよい。
○09年4月から、私の長女が公立小学校に入ります。
塾に行かせるつもりはないのですが、不安も感じます。
しばらくは私が一緒に勉強を見たいと思っていますが・・・。
自分の子供だけでなく、
地域の子供達の基礎学力や彼らの学ぶ意欲を維持するために、
そこに住む大人として、教育に携わる者として、
何ができるのか・・・。
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