「メンタリング 会社の中の発達支援関係」
キャシー・クラム著 渡辺直登訳 2003年6月
○OJTによる新入社員の育成という観点からも示唆に富む本。
(・引用 ○関根の独り言)
・メンタリングや他の発達支援的関係は、1990年代中頃までは、
日本企業のあちこちで見られた。
しかし「バブル経済」崩壊後の長引く不況の影響で、
そのような発達支援関係は風化し、変質していっている。
米国が1980年代から1990年代にかけて行ったようなリストラ、
ダウンサイジング、成果主義に基づく人事考課。
このような構造的な変化は、会社のもつ潜在的なカリキュラムの
力を弱め、職場の中で仕事を通じて若者をケアし支援し成長させる
教育力を脆弱化させている。
(著者による「日本語版への序」2003年3月)
1.仕事における関係性
・本書では、キャリア発達を支援する人間関係の特徴を明らかにする。
・その原型は「メンター関係」であり、それは「発達支援的な関係」である。
・メンター自身もメンター関係を結ぶことにより、自分の過去の再評価、
精神的な満足感、周囲からの尊敬などの利益を得る。
・ライフステージとキャリア段階のそれぞれにおいて、人はその年齢と
キャリアヒストリーに特徴的な予測可能な一連のニーズと関心ごとに直面する。
○だからこそ、年長者がアドバイスできることも多い。
・ジョブローテーションは、組織の人的資源計画には欠かせない部分である。
しかし一方でキャリア発達を支援する関係を妨げることもある。
・(仕事における他者との)関係性は、個人の発達にとって重要。
その関係は、個人の成長を可能にする質の高い職業生活を保証。
組織の効率を増加。生活の質にも影響し全体的な満足感の向上。
・しかしこれらの関係性は、たいていの組織では手に入れることが難しい。
個人が関係性を形成するのを奨励する状況を作り出す必要性がある。
2.メンタリングの機能
・メンタリングの2つの機能「キャリア的機能」「心理・社会的機能」
・キャリア的機能は、上位者の組織における地位と影響力によって左右される。
心理・社会的機能は、対人関係の質に依存している。
・キャリア初期における関心事は、主として3つの領域に分類される。
1)どのようにして選んだキャリアを生産的だと感じ、満足しつつ
自分の能力を伸長させることができるのか
2)どのようにして個人の価値や個性を曲げることなく同僚や上司と
やっていくことができるのか
3)とうやって増大していく責任やコミットメントを人生の他の側面と
折り合いをつけていくのか
○若手社員が感じることまさしくこれだな。
・組織は、発達を支援する関係を2つの方法で奨励できる。
「教育的介入」と「組織的介入」である。
教育的介入によって人は仕事上の支援関係を形成する概念、スキル、
態度を学ぶことができる。
組織的介入により、メンタリング機能を促進する制度や慣行を作る一方、
阻害する要因を排除する。
3.メンター関係の諸段階
・メンター関係には4段階ある。
「開始」「養成」「分離」「再定義」
・開始段階において、双方が相手との相互作用を通じて、
貴重な体験をする。
・養成段階は、一般的に肯定的に語られる。
・分離段階では、動揺、不安、喪失感がもたらされる。
・再定義段階では、関係性が友情へと変化する場合が多い。
ただ、どちらも連絡をとらないケースもある。
これは心理・社会的機能が比較的なかった場合、つまり
関係性の初期段階で愛着心が形成されないと、分離は
自然と決別に向かう。
○新入社員とOJTの関係もそうだろうな。
仕事以外の話をしたり相談にのってあげたり(心理・社会的機能)
お互い愛着心のわく「先輩・後輩関係」になれれば、
その後も関係性は持続するだろう。
仕事だけのつきあいならば、OJT期間が終われば、
無理して接点はもたないかも。
・段階モデルは、メンター関係が条件によっては、片方あるいは双方にとって
破壊的になる場合もありえることを示している。
・相補的なニーズをもつ相手同士を組ませた方が、開始段階を容易にする
相互作用の機会が作れる。
○新入社員の方が、当然メンターを必要とする強いニーズを持っているが、
OJT、メンターをする側もニーズがあるとよい。
自分の仕事を振り返りたい。新人に教えることで自身の成長を図りたい。
上司、先輩、同僚以外の関係を持ちたい。
4.各キャリア段階における関係性
・各キャリア段階において、それぞれに特徴的な発達課題がある。
・最初の上司との関係性は、キャリア初期の人に対して必然的に深い印象を残す。
・キャリア中期の発達支援的関係は、彼らの有能感を高める。
年下の者を支援することで、肯定的な自己概念を得るのである。
昇進に代わる重要な選択肢としての、年下の者の養成に貢献するという選択肢。
・キャリア中期のマネージャーが提供する発達支援的関係の質は、
そのマネージャーがキャリア初期に経験した関係性に影響される。
自分が新人のときに手助けしてくれたマネージャーを思い出すのである。
・キャリア後期の人の根本的な関心は、退職後の人生で目的感覚を
なくすことへの恐れである。
・関係性が両者の関心に呼応する場合は、相補的関係であり、
反対にどちらかの関心を妨害する場合は、非相補的関係である。
すべての発達支援関係は、相補的なものとして始まる。
しかし、関係の相補性は、限られた期間しか続かない。
・不況期には、関係を築こうとする努力を支援しないような状況が
しばしば出現する。
そのような時期こそ、仕事の保証や将来のキャリアへの不確実性から
個人のストレスや不安が増大する。それらを解消する方法を見つける
上で、発達支援的関係は主要な支援減となりうる。
その結果、効果的に仕事が続けられるのである。
○これは、まさに今の状況を言い当てているのかも。
こういう時期だからこそ、職場における人間の関係性を
見直すべきなのかも。
5.異性間の関係の複雑さ
・男女とも、仕事のうえで異性と協力的な関係性を築く準備が十分に
できているとは言い難い。
・異性間の関係性の複雑さの要因として、
1)両者ともステレオタイプ的な役割を引き受ける傾向
2)異性で「役割モデリング」を提供する難しさ
3)親密さとセクシュアリティ-の伸長
4)衆人の詮索の対象
5)同僚の恨み
○新入社員のOJTをマンツーマンで行う場合、
男性の先輩、上司が、心配するのが、この部分。
特に、周囲にどう見られているかを気にする。
・男女とも、異性の同僚から世界に対する新しい関わり方を学ぶ。
6.メンタリングに代わるもの
・メンター関係は、比較的成立しにくい関係である。
・仕事の場面で、個人の発達を促す機能をもつ関係性として
「ピア関係」がある。
・ピア関係はメンター関係に見られる機能を多くもつもつが、
同時に独特の特徴がある。
「相互性」(援助し、援助されるもの)
「潜在的な数の多さ」「排他性の少なさ」「長期持続」
「(否定的な属性として)競争」
・キャリア段階での発達を支援するキャリア的機能と心理、社会的機能は、
様々な関係性によって提供される。
この関係性の広がりは、個人の発達をサポートする関係性の布置として
とらえられる。
○新入社員が会社に入って成長していくためにも
自身の発達を支援してくれる様々な関係性をもつ必要がある。
「発達ネットワーク」と重なる?
7.メンタリングを促進する条件
・メンタリングを阻むおもな障害
1)目先の利益を重視し、人的資源開発を軽視する報酬制度
(ひとを育てても評価されない)
2)相互作用の機会を最小にするワークデザイン
(個人ベースの仕事が中心で他者とのかかわりが少ない仕事)
3)業務管理制度(MBOなど)の不備
4)否定的な組織文化
(発達や関係性に対する配慮を、大切な仕事から
気を散らすものと考える文化)
5)個人のもつ前提、態度、スキル
・メンタリングを促進する戦略として「教育」と「構造変革」がある。
・教育においては、メンタリングの意義と価値を次の観点で訴える
1)キャリア初期層 上位の先輩との関係性の大切さ
2)キャリア中期層 自身の再評価と再方向づけの時期
3)キャリア後期層 自身の叡智や経験を年下の世代に伝える重要性
・この種の教育プログラムへの参加は「任意」であるべき。
・構造変革戦略として
1)報酬制度
2)仕事の設計
3)業績管理制度
4)公式メンタリングプログラムの導入
・理想的には、教育的介入と構造的介入は同時に実施されるべき。
○報酬制度
OJT担当者に、金銭で報いるのは難しいかも。
周囲からの評価、評判、後輩からの尊敬、自身の成長、やりがい、自信、貢献
といった「無形の報酬」の方が望ましいかも。
8.メンタリングの展望
・メンタリングに関する誤解
1)メンター関係の主要な受益者は、プロテジェである。
→メンターにもかなりの利益がある。
2)常に望ましい経験となる
→状況によっては破壊的なものとなる。
3)どんな仕事の環境においても同じである。
→様々に異なる。
4)望めばすぐに構築できる。
→メンターになれる人(キャリア中期)が少ない
5)メンターを見つけることが、個人の成長とキャリア進展のカギである。
→すべての発達支援的機能をメンター一人に依存することは危険。
発達支援的機能を提供する「関係性の布置」を
個人は自分の周囲に作り上げるべき。
○研究方法についての解説も非常に勉強になった。
これから自分が大学院に入ってやろうと
思っていることと重なることが多い。
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