「ダイアローグ 対話する組織」
中原淳・長岡健著
○中原先生・長岡先生による新刊。
組織のコミュニケーションにまつわる問題を解決する
「対話」の重要性と活用法をアカデミックな視点から解き明かした本。
(・引用 ○関根の独り言)
●コミュニケーション
・企業における課題は「コミュニケーションのあり方」に原因がある。
・「誰も自分に理念が浸透してほしいなんて思っていないんですよ」
○理念に共感した人が、その組織に入ってくる方が理想的なのか。
一人の経営者、少人数の経営陣が共有している理念に、賛同する人が
組織に加わってくる。その際に、理念は人を束ねる大きな力になるだろう。
すでにその組織の中にいる人達に、改めて理念を「浸透」させることは
確かに難しいかも。
ただ、明文化された理念ではなくても、組織の暗黙的な文化には、
おそらく人は染まっている。
その文化が理念に基づくものであれば良いのかもしれないが。
・コミュニケーションを
「情報伝達」「メッセージの正確な移動」とみなす考え方は、
ビジネスの現場で支配的なコミュニケーション観となっている。
「導管(Conduit)メタファー」
・学校の近代化とともに、導管メタファーは教育現場に浸透し、
今なお支配的な教育の在り方となっている。
口を開けるのは教員だけ。生徒の発話は「余計なノイズ」とみなされる。
○恐ろしいな。(長女(6歳)が、もうすぐ公立小学校に入る)
・行動や思考が変化したことを外的に観察できて、
はじめて「伝わった」と言える。
・ストーリーの形式で伝えると、聞き手の理解が深まる。
J.ブルーナーは、思考形式や認知作用には
「論理/実証モード(Paradigmatic Mode)」と
「ストーリーモード(Narrative Mode)」があると考えた。
E.ソーンダイクは「物語文法(設定/テーマ/プロット/解決)」の
テンプレートに当てはまりやすい物語を提示した方が、
人は理解しやすいと考えた。
○「論理/実証モード」と「ストーリーモード」を組み合わせる。
これは「教え上手」の教え方にもつながるのかも。
論理的な説明と具体的な体験談。
・沼上幹氏らは、職場内の人間のつながり、社会的なネットワークが
発達しているほど根回しが必要になり
組織の「重さ」が増すことを明らかにした。
・導管メタファー(情報伝達)とは異なるコミュニケーション観
「創造的理解にいたる継続的な相互作用のプロセス」
「コミュニケーションを通じて人が変化していくプロセス」
それを実現するのが「対話(ダイアローグ)」
・社会構成主義(Social Constructionism)の根幹にある考え方は
「物事の意味とは客観的事実ではなく、社会的な構成物
(人々の社会的コミュニケーションによって作られたもの)」である。
絶対的にゆるぎない「物事の意味」など存在しない。
絶対だと思われているものは、あくまで人々のやり取りの中で
「絶対視」されているだけ。
○この辺は今読んでいる「制度と文化」で出てくる話ともつながるな。
●対話
・物事を意味付けていくコミュニケーション、プロセスに注目すべき。
意味を創造、共有していく効果的な方法が「対話」である。
「対話」とは「客観的事実」と「意味づけ」の関係に焦点をあてる
社会構成主義的な視点をもちつつ、相互理解を深めていく
コミュニケーションの形態と考えられる。
・対話の本質は「話すこと」ではなく「聴くこと」
「聴くこと」は積極的かつ意図的な行為。
・自分の意見を述べるときは「私は~」という一人称の語りを重視する。
評論家的な議論としないために。
・対話は「自由な雰囲気の中で真剣な話し合い」をする。
Serious Fun(真面目に物事を楽しむ)というスタンス。
・対話は「自己内省」の機会ともなる。
自己理解を深めるために、対話を通じて、
自分の考え方や価値観を他者に語ることが効果的。
・不一致を隠すことなく、お互いに自分の考えや価値観を
「私」の立ち位置から表出することが、効果的な対話には不可欠。
○新入社員とOJT担当者でも、これはできるか。
新人とOJT担当がお互いについて話をする「ペア研修」に
参加者が感じるかもしれない「不自然さ」は、
人為的に「対話」を発生させようとするところかも。
・複数の人々が話し合うことを通して「意見の不一致」や「理解の差」
に気づきつつ、お互いの理解を深化させていくプロセスを
「協調学習(Collaborative Learning)」と呼ぶ。
・解決すべき問題を適切に設定するには、状況を多面的に理解し、
参加メンバーが意味づけを共有していくことが必要。そのためには
「議論」ではなく「対話」が求められる。
○DHBR(09年3月)に出ていた東大EMP
「アジェンダ・シェイピング・リーダーシップ」も参考になる。
適切な「課題設定」ができる人材。
その課題設定の過程において「対話」が重要な役割をもつ。
・多様なメンバーが集まるメリットは「対話を通じて、
状況にふさわしい問題設定を共同で意味付ける」こと。
・D.ショーンは問題解決のエキスパートたちの真髄を
「状況を瞬時に読み解き、適切に問題を設定する即興的な対応力」にあるとした。
このようなプロフェッショナルな実務家を
「省察的実践者(Reflective Practitioners)」と名付けた。
○Adaptive Expertとの関連は?
・省察的実践者は、長期的なビジョンに立ったかじ取りはできない
「突貫工事のエキスパート」にすぎなかったと、D.ハルバースタムは考えた。
・自身が埋め込まれた状況から一歩抜け出し、仕事とは距離を置き、
普段自分が無意識にとっている自分の行動や考え方を
批判的にふり返ることが必要。
○Meta-Cognition?
・トヨタの人材育成の基本は、OJDである。
効果的なOJDを実現するには、若手社員自身が問題を発見し、その解決に
主体的に取り組むことが必要。
問題解決研修は、外部講師と受講者の間で進められるのではなく、
上司(先輩)と部下(後輩)の間で進められる。
○これは素晴らしい。上司(先輩)が部下(後輩)の学習を支援する。
●ヒューマンネットワーク
・知識の共有を可能とする人間のつながり(ヒューマンネットワーク)を
いかに築いていくか」が重要。
・J.オールは、コピー機修理工の研究を通して、知識が「個人の頭の中」に
蓄積されていたのではなく、彼らの人的つながり(ヒューマンネットワーク)
全体に、分散した形で存在していたことを明らかにした。
こうした形で地が発揮されることを
「分かちもたれた知能 Distributed Intelligence」と呼ぶ。
・「現場の知恵」のようなタイプの知識は、ヒューマンネットワークの中に
分散していて、特定の個人が所有している必要はない。
共有すべきは、知識自体ではなく、ヒューマンネットワーク。
・J.ブラウンは、オールの研究結果を踏まえ「我々が必要とするのは、
実践コミュニティーである」と言っている。
協調的に問題を解決していくアクティブなネットワークを
構築することこそが「知識を共有することだ」と言える。
○これは、2つの点で興味深い。
1)「ネットワーク型OJT」
09年7月に慶應MCCで開催される中原先生のセミナー内で、
「ネットワーク型OJTのすすめ」というパートを担当させて頂く。
http://www.keiomcc.com/program/lin/index.html
これは新入社員を指導育成するOJT担当者で上手くいっている人は、
自分一人で仕事を抱えず、他の人に協力してもらって
OJTを進めているという話だ。
「Aさんは~に詳しいよ。Bさんは~。」といった感じで、
組織に入ったばかりの新人が知らない「誰が何に詳しいか」を
OJT担当者が教えてあげて、他の人と一緒になって新人指導を進める。
新人が知識、技術を獲得し、所有していくことも大事だが、
誰が何に詳しいかを知り、分からないことがあったら教えてもらえる
関係を、組織内で築くことの方がもしかしたら重要なのかもしれない。
2)「独立して一人で仕事をする人間」
自分もそうだが、大きな組織に属していない分、
ヒューマンネットワークや実践コミュニティーを、
外に自らが築く必要があるのかもしれない。
今の自分であれば、
・カンファ学び8(親しい知人が集まる不定期な飲み会)
・パートナー講師(時々仕事を手伝ってもらっている仲間)
・メールメンバー(困った時にメールで投げかけると
助けてくれる人事教育担当の皆さん)
などが、それにあたるのかもしれない。
こういう方々の助けがなければ、きっと今までやってこれなかった。
感謝!
・心理学の世界では、問と答えが一義的に結びついて、常に明快な
答えが決まる状況を「良定義問題(Well Structured Problems)」、
そうでない状況を「不良定義問題(Ill Structured Problems)」と呼ぶ。
ビジネス現場で遭遇する問題のほとんどは「不良定義問題」である。
そして「不良定義問題」では、ひとつの状況に対して
いくつもの「正解」があり得る。
・今日求められている人材は「指示待ち」ではなく、自分で
主体的に考え、判断し行動を起こす人材。
メタ認知(Meta-Cognition)や自己調整学習(Self-Regulated Learning)
能力のある個人が、多くの企業で求められている人材像。
・学習とは「伝達」ではなく「変容」である。
・経験学習の知見によると熟達者になるには
「困難の克服とふり返り」が必要である。
ただ、最大のアポリア(難問)は「困難をふり返ること」にある。
それを可能にするのが他者との「対話」である。
○こういったアカデミックの知見を、まずは企業の教育担当者に伝える。
これはもしかしたら、それほど難しくないのかもしれない。
教育担当であれば、徐々にアカデミックな専門用語にも慣れていくし、
この分野に興味があって仕事をしている人が多い。勉強好きだ。
ただ、アカデミックな知見を現場のマネージャーや
OJT担当者に伝えていく際に、難しさが発生するのかもしれない。
そこを手助けするのが、研修講師である自分たちの仕事なのかも。
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