「人間情報科学とeラーニング」
野嶋 栄一郎、鈴木 克明、 吉田 文
○IDの限界と共に今後の可能性を示唆してくれる。
講師業を営む者にとって、福音となるような話もある。
(・引用/要約 ○関根の独り言)
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●複合科学としての人間情報科学
・eラーニングの現状記述と評価を行う
・技術革新を教育革新につなげるためには、
それらを結びつける複合科学 linking scienceが必要になる。
ID(Instructional Design)がそれを期待されていたが、
十分に果たしているかというと疑問が残る。
・今後は、IDの研究と、教師のプレゼンスの研究が
重要になり、それらの融合も考えられる。
・教育という観点から技術革新をひっぱる
・技術革新と教育革新をつなぐ接面に位置する研究を、
人間情報科学と呼ぶ
・デューイは、研究成果を実際的な応用へ翻訳するための
インストラクションの科学が必要であると説いた。
・個別科学的アプローチでは不十分で、文理にわたる様々な
学問分野が協同して学問的営みを行う「総合学」としての
取り組みが不可欠になる
・人間情報科学の構成要素として、認知心理学がある。
その研究の一つとして「二重課題法」によるものがあり、
それによって「知識獲得」のパフォーマンスは、
visual onlyでなされるよりも、audiovisualでなされる方が
「認知的負荷」が少なくなることがわかった。
●ネットワーク社会
・social constructionism 社会的構成主義 の格率は、
「われコミュニケーションする、故に我あり」
・social constructivism 社会的構成主義は、
ヴィゴッキー理論(個人に先立って共同体を置く)と呼ばれることがある。
ヴィゴッキーは、Zone of Proximal Development
最近接発達の領域 ZPD の考えを唱え、学習者個人の
問題解決能力は、仲間や教師、大人と協力して行う
問題解決によって、より高次の発達水準に引き上げられるとした。
ヴィゴッキーは、学習者同士の相互貢献の重要性を指摘した。
・近年の認知研究では、対人的、社会的な関係の中に知識があるという
「分散認知」の見方が出てきている。
協力してやりとりすることによって、知識の社会的構成がなされるとする。
・eラーニングの実践例の一つとして、多方面の知識や色々な経験を
もっている学習者が、相互貢献することで学習を進めるやり方がある。
・社会的構成主義は「協力原理」を元にしている。
現実の社会には「競争原理」も存在している。
教育における「協力原理」と「競争原理」をどう考えればよいか
○これは考えがいのある質問かも。
受験勉強は「競争原理」を元にしていると考えてよいかも。
順番をつけて、ライバルに負けないように、高得点をとることを目指す。
協調学習は「協力原理」を元にしている。
相互貢献を図りながら、学習者同士がお互いに学んでいく。
競争の良さは、自分の存在意義が、他者に勝つことで示せること?
協力の良さは、他者の役に立つことで、自分の価値を認められること?
両方とも「自分」の価値や存在意義が、根元にある?
・インターネットの教育利用は、
教育界に大きなインパクトを与えた。
・学校という世界と世の中という世界は完全に異なっているが、
インターネットによって世の中の情報が学校に入ってくるようになった。
・プロジェクト、コミュニケーション、協同学習、問題解決などは
教室で静かに授業を受けるというよりも、仕事をするという
イメージの方があっている
・仕事は一人ですることはない。
コミュニケーションが絶えず必要になる。問題解決が基本。
・探求の仕方も学校では教師が知る正しい答えを生徒が探求する。
世の中ではお互い正解がわからないから模索する。
○藤原さんの「よのなか科」は、やっぱりよく考えられているよなー。
一度ディベートの授業を見学させてもらったが、大人も生徒に
からみ、世の中の現実について考えさせるおもしろい授業だった。
ああいうものが、今後はさらに必要になるんだろうなー。
・インターネットは、現代人にとって必須の道具であると同時に、
判断力のない子供たちにとっては危険な道具である。
この諸刃の剣のような道具をどう活用するかが、
情報教育の重要な目標の一つである。
○うちの子供たちに、このリテラシー(情報活用能力)を
どう身につけさせるか?
今も、俺が書いたブログ記事や、Google earthは好きなようで、
たまに見たがる。ただ、まだ一人ではネットは見せていない。
親がいるときに一緒に使うのが現実的か。
フィルタリング機能もおそらく限界があるだろう。
あとは、親の方からネットで起こりうること、
その怖さを何かの機会に話していくことも必要になるだろう。
携帯電話も、おそらく小学校高学年ぐらいから
欲しがる可能性がある。どう対処していくか。
・ITというメディアを活用して学習する際に、
注目されているのが「プレゼンス」という考え方である。
・プレゼンスには、teaching, cognitive, social presence
と3つあるが、social presence「対人的な存在感」をとりあげる。
・生徒を引きつける存在感がある遠隔講義は、
満足度や学習の成果も高いことがわかっている。
受講生に高いsocial presenceを感じさせるような授業や
講師のプレゼンテーションの仕方が求められている。
・このsocial presenceの重要性が、ITというメディアを
介した授業を通して、改めてわかってきたのである。
・実際に生徒を引きつける魅力を持った教師の営みの
ライブ映像は、仮にそれがIDに則っていなくても、
十分実用に耐えうるのである。
○このあたりは、今ライブ講師として活動している
自分たちにとっての福音となりうるかも。
「科学的」なID、教授法では一般化できない、講師の
「生」の部分、人間的な存在感も、eラーニングにおける大事な要素。
伝える内容を精緻にしていくと同時に、伝える人間の魅力も
磨いていく。この2つを兼ね備えることができれば、
ライブの世界でも、eラーニングの世界でも生き残っていけるかもしれない。
このあたりは、音楽業界でマドンナがとっている戦略
(ライブ重視とライブ会場でのCD販売)も参考になるかも。
●ID インストラクショナルデザイン
・IDとは、教育活動の効果、効率、魅力を高めるための
手法を集大成したモデルや研究分野、またはそれらを
応用して学習環境を実現するプロセスのことを指す
・IDはどういう方法で教えるのが学習者にとって、あるいは
学習すべき内容にとって、与えられた学習環境の中でもっとも
効果的で、効率的で、魅力的かをデザイン(設計)する手法である。
・「教え込んでいるつもり」の自己満足指導者に対して
「あなたは実は教え込むことにも成功していないのですよ」と
指摘するのもIDの使命。
・IDの生みの親といわれるR.ガニェは、有効な研究結果を
どんどん取り入れるという姿勢「折衷主義 eclecticism」をもつ
・ガニェは、人間がどうやって新しい知識や技能を習得するのかを
説明する学習モデル(内的条件)を反映した形で、
学習支援環境(外的条件)「9教授事象」を実践すると、効果的であるとした。
・J.ケラーのARCSモデルは、教育活動の魅力を高める
ことに焦点をあてている
「Attention おもしろそうだ 注意」
「Relevance やりがいがありそうだ 関連性」
「Confidence やればできそうだ 自信」
「Satisfaction やってよかった 満足感」
学習意欲の問題と対策を、上記4要因に整理した。
学習者を分析し、各自に適切な動機づけ方略を選択する。
○これはいいなー。納得感があり、使いやすそう。
・ID理論を集大成したライゲルース教授の「グリーンブック」
○これは読んでみたいなー。
・行動主義心理学による「プログラム学習」の研究から
「5つの原理」が確立した。
1)スモールステップの原理
~小さなことの積み重ねで徐々に学習をすすめる
2)積極的反応の原理
~学習を進める都度に学んでいることを確認する
3)即時確認の原理
~反応の良否をすぐに伝える
4)個人ペースの原理
~各自の学習速度に合わせて進める
5)学習者検証の原理
~教材の良否を実際に学習の成立を確認して判断すべきとする
5)が、IDの中心的手法として、完成前に学習者からの
データに基づき評価改善する「形成的評価」として受け継がれていく。
・行動主義心理学によりIDプロセスの基盤が形成され、
PDSに代表されるシステム的アプローチを教育活動に援用し
IDプロセスがモデル化された。
・IDプロセスの一般形として、ADDIEモデルがよく知られている。
「Analysis 分析」「Design 設計」「Develop 開発」
「実施 Implementation」「評価/改善 Evaluation」
・IDの歴史的変遷
4段階評価モデル IDプロセスモデル 9教授事象
ARCSモデル GBS理論
行動主義心理学→認知主義心理学→構成主義心理学
○この図は分かりやすいなー。自分が研究する分野
(例 OJT)でもこういう図をかけるようになろう。
・ラピッドプロトタイピングから一歩すすんで、
発注者と受注者の共同作業的な開発工程を目指す
○LWとしては、こういう状態を目指したいな。
お客様との協調学習的な共同作業による研修開発。
・ADDIEのすべての要素が、効果的な教材開発には不可欠。
・カークパトリックの4段階評価モデルは、行動変容に
つながるような教育を最初から考えておくという点が、
再評価されているポイント。
・構成主義心理学の原理に基づくID理論として、
GBS(ゴールベースシナリオ)理論が提唱された。
GBSは、現実的な文脈の中で「失敗することにより学ぶ」経験を
疑似的に与えるための学習環境として、物語を構築するための
ID理論である。
アクセンチュア社での事例がある。
・GBS理論を開発したシャンク教授
本人が納得できるゴールを持たせる。
可能な限りシナリオを現実に近づけて問題解決の機会を与える。
○シミュレーションのようなもの?
・興味をもてることに関連づけて、たくさんのことを教えられる。
それこそが、GBSのコンセプトだ。
興味ある題材を使って、世界のすべてを教えようということだ。
・夢中になっているものがあるなら、
どんどんそれを追求すればよい。
○ID理論を作っている人たちは、自分の力で世界の教育を
変えようという気概を持っている人たちが多いような気がする。
○うちの子供たちも、興味のもてることに関連づけて教えていきたい。
ただ、まだ(6歳、3歳、0歳)興味が特にある分野が明確に見えない。
長女は、バレエ、きれいな服、髪飾り、絵を描くこと、何かを作ること、
本をよんでもらうことが、好きみたいだ。
次女は、虫とり、姉の真似、かわいい服、髪飾り、が
今のところ好きみたいだ。まだよく見ていないとわからない。
・IDは学習を支援する環境を整えるために
使えるものは何でも使う「折衷主義」を標榜してきた。
●eラーニング
・eラーニングにおける成功の鍵は、自己管理学習にある。
・CDT Component Display Theory 画面構成理論を
開発したメリル教授は、教授法の一番基礎となる部品として
「言う Tell」「見せる Show」「尋ねる Ask」「する Do」を考えた。
・精緻化理論 ズームレンズモデル elaboration theory を
考案したライゲルース教授は、スキーマ理論から、
人間は全体像をつかむこと理解するという定説があり、
そこから理論を開発したと述べている。
・日本における企業内教育、あるいは高等教育の方法論は
これまで成人学習学の観点から検討されてこなかった。
我々が知っている教え方は「学校で習ったやり方」であり
それが企業内教育や高等教育に転用されてきたといえる。
・成人学習のための7つの原理 M.ノールズによる
1)雰囲気作り
2)相互的計画化
3)学習ニーズの自己診断
4)学習速度のコントロール
5)学習資源の見つけだし
6)教師の支持的な役割
7)学習結果の自己評価
・ライゲルース教授 学習者中心の設計
学習者ニーズにカスタマイズする教授法の探求
テクノロジーを使って、教室で起きていること自体を変える
学年、授業時間、学期などの固定した時間を中心として
運営される今のやり方に変えて、学習時間を学習者に
合わせられるように教育システムの構造全体を変えなければならない。
・eラーニング教材の現実は、SMEによる
ID的な検討を経ない(教材というよりは)「情報提供物」が多い。
○これは厳しい意見だなー。でも実際そうかも。
俺が以前関わったものでも、こういうものはあったかもなー。
・シャンク教授の意見
将来はオンライン大学が主流になる
企業研修も学校のコピーに陥りやすい。
学校がある限り、人々は教育と言えば、
学校と似せて作るべきだと考えてしまう。
コースは、活動の分野で人々が一番陥りやすい失敗に
的を絞らなければならない。事実や理論ではなく、失敗にだ。
これが実践的な教育を実現する方法だ。
○これは、集合研修を企画する際にも役立つかも。
「新人へのOJTをする際に、一番陥りやすい失敗と、
それに対する対策」
そこに絞って教えれば、確かに効果的かつ効率的。
「一番陥りやすい失敗」として、
まず挙げられるのは「時間がとれない」こと。
自分の業務と新人指導との兼ね合いに、皆が苦労し、
かつ、失敗(新人が育たない、新人との関係構築がうまくいかない)
の原因がある。
それに対する対策として
ー事前の計画 (繁忙期の予想)
ー周囲の協力 (自分一人で抱え込まない)
ー本人の努力 (一定時間を新人にあげる)
などが考えられる。
現行の研修でもカバーはされているが、
さらにこのあたりを深めていってもいいのかも。
・大学におけるeラーニング導入の事例は、
今後間違いなく増加傾向をたどる。
○eラーニングは魅力的だなーと思える。
でも、日本だとeラーニングに対する
以前のような盛り上がり(期待感)は減りつつあるのでは。
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