「総合情報学」

お薦めの本

「総合情報学」
  中島 尚正, 原島 博, 佐倉 統

○文化・人間情報学を目指す自分にとって必読の本。
 情報に関する領域を幅広く知れる。
 特に、eラーニングの事例(i-player i-tree)が興味深い。

(・引用/要約 ○関根の独り言)
●総合情報学
・情報化が知の営みに及ぼしている現象の見方や理解の仕方を学ぶ
・知の営みと情報の関係を正しく理解する
・文系と理系の垣根を取り払って
・情報化は、人々の営みを大きく変容させている
・総合情報学は、情報環境とその中で営まれる人間、社会の活動の
両者を深く理解することによって、人間、社会、ひいては生命の
理解を深め、合わせて情報環境や情報のあり方を考究するものである。
○東大大学院の「文化・人間情報学コース」は、これにあたるのかな。
コース長の佐倉先生も執筆者だし。
・情報とは「知る」ということの実体化である。
「知る」ことは何かしらを得たこと、何かを頭の中に
取り込んだことである。
 
 その「何かしら」を「情報」と呼ぶのである。
・情報とは「区別」である。
・J.ギブソンは、知覚者にとって価値のある情報はすでに
 環境の中に実在しているという理論を唱え、それを
 「アフォーダンス affordance」と名付けた。
・総合情報学は、学際科学である。総合知が要求される。
・専門を異にする個人が手をむすめば、
 集団で一人のダビンチになれる。
●情報技術
・コンピューターは、1980年代から「脳をめざす」ものから
 「メディアを目指す」ものへとパラダイムシフトが起きた。
 これがアメリカが世界のコンピュータ業界を
 リードしてきた理由である。
・メディアを目指すコンピューターとは、社会のインフラとして
 情報を流通させるメディアとしての機能のことである。
・「メディアはメッセージである」という言葉を残したマクルーハンは
 メディアを人間の五感、身体、感覚を拡張する可能性のあるもの
 すべてのものであるとも定義している。
・クロスメディア(多様なメディアの連携)が重要なのは、消費者の
 行動パターンが変化(AIDMA→AISAS)するところにある。
・バーチャルリアリティーは「事実上の現実感覚」と
 訳すほうが正しい。
●情報化
・情報化が進むと、製造業において、企画、設計、販売を
 担当する企業と、製造を担当する企業に分極化していく可能性もある。
・インターネットの普及は、直接的に消費者の意向を
 企画や設計に反映する状況を作り出すであろう。
・経験や熟練による生産の知識を
 共有できるようにするにはどうすればよいか。
○これは教育テーマとしても考えがいがある。
・グローバリゼーションとは、アメリカナイゼーションであり
 情報技術の発展と金融の拡大を伴う
 地球規模の単一自由市場化にほかならない。
・グローバリゼーションを生み出したのは、
 市場やインターネットである。
・インターネットは、個人の交流とコミュニケーションの
 可能性を全世界に広げ、企業や政府といった組織を分解し、
 非集団化しつつある。
○確かに、今組織を離れて、個人で働けるのは、
 インターネットの影響が大きい。
 ネットがなければ、今持っているような「力」はもてなかったと思う。
 特に大きいのは、自分の考えを発信し、
 それに共感してくださる方との接点を作る力だ。
 これはネットがなければ無理だった。
・フリーソフトウェアの考え方は「コピーレフト」とも表現される。
○「copyleft」 これは面白いなー。
 研修教材だと何気なく「copyright」と入れてしまっているが
 別に公共のものとしてもいいんだろうしな。
・貨幣は、経済環境の複雑性を縮減して、
 商品の経済的価値を一元的に表現する情報媒体(メディア)なのである。
・貨幣のおかげで、市場はインターネットと
 同様の自律分散型のネットワークになりうるのだ。
・地域通貨は、経済的、文化的、倫理的活動を
 媒介するメディアである。
●メディア
・もともとアートとテクノロジーは、近い存在であった。
 ルネッサンス以降の近代科学がこれを引き離した。
 Art には、芸術と同時に技術という意味もあった。
・メディアとは、ものごととものごと媒介する働きである。
 情報を載せる乗り物。
・生物の直線的進歩観が、近代社会が工業化、産業化、都市化、
 さらには情報化によってよりよい社会へ推移していくという
 社会的進歩観を下支えしている。
 これは現代社会が抱えている広い言説的な問題の一つであろう。
・メディアとメッセージは不可分である。同じメッセージでも
 メディアが異なれば異なった意味内容をもつことがある。
●教育
・eラーニングは、1990年代後半に現れたインターネット
 を基盤とした情報通信技術を利用した教育を指すことが多い。
・アメリカにおいて、eラーニングが普及している要因は、
 成人高等教育人口の増加にある。
・時間をずらして学習を行う「非同期型」には3種ある。
「映像配信系」「WBT(テキストとテスト)」「CSCL」
○弊社が某メーカーでお手伝いしたのは「WBT」だな。
 電子書籍を読み、そのテストを4択問題で行う。
・東大のeラーニング iii-online では様々な工夫が施されている。
・学習者が反応をi-playerで示すことにより、
 eラーニングにおいても「共同体意識」を醸成できる。
・i-treeでは、掲示板の状況をケータイの
 待ち受け画面で一目瞭然に見ることができる。
○面白いなー。こういう工夫があれば、
 eラーニングでも授業についていけそう。
●人間
・従来のコンピューターをベースとして人間の知能を
 理解しようと言う立場(情報処理アナロジー)から、
 生体が実際に行っている情報処理の観点から、
 知能の実現や解明を行っていくことが大事だと
 考えられるようになってきた。
・人間は汎用的なルールを論理学的に適用しようとはしない。
 人が用いているルールは、領域やその問題が与えられた
 文脈に依存するのである。
・領域や文脈に依存し、記憶に関連ある具体的な知識は、
 領域固有の知識(domain-specific knowledge)と呼ばれる。
・領域固有の知識は、推論や問題解決を容易にしてくれる一方
 新たな状況には対処するのが難しいというパラドクスを生じさせる。
・この問題を解決するのが、実用的推論スキーマ説である。
 人はたとえ直接経験したことがなくても、抽象的知識である
 スキーマがあることで、推論ができる。
 スキーマは異なる状況をブリッジするメカニズムとなりうる。
 ここから人間の思考の柔軟性を説明するキーの一つとして
 「類推 analogical reasoning」が注目されるようになった。
 人は直接経験したことのない状況にあっても、既知の知識と
 類似してさえいれば、その既知の知識を柔軟に用いることで
 新規な状況に対処できるようになる。
○このあたりは、軍隊の訓練でシミュレーション体験を
 させることともつながるのかも。
 様々な状況を事前に考えさせることで、現場で似たような
 状況に当たったときに、対処できるようにする。
 これは「新人導入研修」や「OJT直前研修」の
 背景となる考え方かも。
・計算機に思考の柔軟性はない。これこそ人間の知能の特徴。
・ロボットは決められたことを愚直に繰り返す。
 しかし、これからのロボットは、人間や環境と相互作用を
 行えるようになる。そうすることで、ロボットは人間に
 とって意味のあるインタラクティブメディアとなりうる。
・将来の少子高齢化社会において、ロボットは介護などの
 物理的な支援を行うことを期待されている。
○一挙に、未来社会が現実感を増すなー。確かに介護の世界では、
 ロボットによる手助けは必要になるだろうなー。
 ちょっと異様で不気味な感じもするけど。
・ジェスチャーの重要性
 身体の同調的動作(お互いのジェスチャー)
 →関係(共有視点)の構築→円滑な情報伝達
・人間は身体も使ってコミュニケーションをとっている。
 人間と自然に相互作用を行うロボットを開発するには、
 身体性に根ざしたコミュニケーション技術にも留意する必要がある。
・脳地図(脳の機能局在)は、後天的に身体からの情報に
 よって形成される可能性がある。
 計算機にはない身体を、人間はもっている。
○空手をやっていたときに、身体を動かすことで、
 脳の機能が強化されるような話を聞いた。
 以前はできなかった動きが、訓練でできるようになる、
 ということは、その機能が脳で作られたということという意味のようだ。
 足のつま先だけをあげて、蹴りのこしを作るときに、特に感じた。
・速読訓練は単純な視覚訓練の繰り返しであるが、
 それによって脳内の処理メカニズムに変化が生じ、
 読書速度があがる可能性がある。
・ゲノム情報は、一人一人で少しずつ異なる。
・生命を物質レベルではなく、情報システムとして見る。
・情報化社会においては「選択」選んで探すがキーワードとなる。
・近年マスメディアが提供してきた「同じ時間に同じ内容を皆が見る」
 という「メディアを介した同時代体験」が減少しつつある。
○これはあるなー。俺らぐらいの世代であれば、
 まだ同時代体験はあるが、もっと下になってくると少ないかも。
・ケータイは、選択的な関係性を推進している。
・インターネット上でも、成立するのは、
 同じ趣味嗜好を共有する同質的な人間関係が多い。
・選ばれなかった情報に目がいく機会が少ない。
 新聞であれば、無意識に興味の範囲外の情報も目に入る。
・最近の情報化は、一過性のブームではない。
 時代の要請に基づいたもの。
・物質に依存する文明の終焉を洞察して、
 来るべき文明のために情報技術を発展させたのかもしれない。

投稿者:関根雅泰

コメントフォーム

ページトップに戻る