「知識創造企業」
野中郁次郎 竹内弘高 著
○日本企業の強みである組織的知識創造の方法を説いた本。
西洋的思考法と日本的思考法の違いも見えてくる。
(・引用/要約 ○関根の独り言)
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●序文
・企業行動を説明する分析単位として知識を取り上げた
・企業組織は知識を処理するだけでなく、創造する
・組織的知識創造が、日本企業の国際競争力の最も重要な源泉である
・西洋哲学では、知識を所有する主体は個人。
我々は個人と組織は知識を通して相互に作用しあうと見る
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●組織における知識
・なぜ日本企業は成功したのだろうか。
組織的知識創造の技能、技術こそが日本企業成功の最大要因
・日本企業は危機に直面すると、組織的知識創造によって
過去の成功体験を棄却し、未知の領域に挑戦してきた
・西洋人が組織的知識創造の問題にふれたがらないのには理由がある。
彼らは「情報処理機械としての組織」という組織観を信じて疑わないのである
○「暗黙知」のM.ポランニーとかは、西洋人としては珍しいタイプなのかな。
・「我々は、語れる以上のことを知っている」We can know more than we can tell.
・日本企業はまったく違った知識観をもっている。
言葉や数字で表現される知識は氷山の一角にすぎない、と考えるのである。
○これはおもしろいなー。
日本語で考える民族だからこそ、こういう知識観が生まれるのかな。
言葉では説明しきれない何か。
・知識は、教育や訓練で教えられる、という西洋で幅広く
もたれている見方に疑問を投げかける。
○確かに、Training を、西洋人(特にアメリカ人かな)
は知識提供の手段として 当たり前のものとして考えているよな。
だから企業においても、Trainingの提供が重視される。
逆に、Trainingがなければ、企業が従業員にたいして、
必要な知識を与えていないと見る。
その点、日本は、Trainingより現場で仕事をすること(OJT)での
知識獲得を重視するように思える。
「研修なんかしたって無駄」という考え方の背後には、
研修で得られる「形式知」だけでは、仕事は回らず、
現場に入ってからの「暗黙知」を重視する傾向があるのかも。
・日本企業の知識創造の特徴は、暗黙知から形式知への変換にある
・知識創造の3つの特徴
1)メタファー(比喩)とアナロジー(類推)の使用
2)個人知から組織知へ
3)曖昧性と冗長性
・知識創造の任務を独占する部署や専門家グループがいない
○実践コミュニティの存在か?
・本書では、いくつもの二項対立を超越することで、
組織知が創られることを示したい。
○西洋人の英語発想の経営書が隆盛な中、日本語で考え、
英語で表現し世界に発信されたのは、すばらしいな。
俺もいずれは、英語で日本人だからこそ見える世界を表現し、発信したい。
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●知識と経済
・西洋認識論の2つの伝統
1)知識は理性によって演繹的に得られるとする「合理主義」
2)知識は感覚的経験を通じて帰納的に得られるとする「経験主義」
これら二つは、相補的な関係にある
・プラトンは「合理論的」視点から。アリストテレスは「経験論的」視点から。
・合理論と経験論のふたつの流れは、I.カントによって
一つに合流した。
・日本における「知」の伝統は、「主客一体」「心身一如」「自他統一」
という3つの特徴がある。
○俺は本当にものを知らないよなー。
日本人として、日本のことをもっと知らないと。
・日本人は、自己と自然を分離、客体化しなかったがゆえに、
はっきりとした合理的な思想を構築することがなかった。
・西洋人は、過去、現在、未来という順序で時間を意識する。
日本人は、循環的で刹那的。すべてが現れては消えていき、
究極の現実は「いまここに」しか存在しないと考える。
○俺はどちらかというと「過去、現在、未来」と考えることが多い気がする。
それは留学や今の仕事の関係かな。
でも根底には日本人の考え方があるんだろうな。
・西洋の認識方法は、抽象的な理論や仮説に価値をおいた。
日本的な認識方法は、個人の直接経験の体得を重視する。
・日本語動詞は、主語に応じて格変化しない。それが共感の容易さにもつながる。
○確かに、スペイン語を学んでいたとき、動詞の変化にとまどったよなー。
「誰が」という主語がとても大事で、それによって動詞の形が決まる。
どんな言語を使うかが、その人の考え方や行動にも影響するんだろうなー。
・西洋社会では、個人の自己実現を人生の目標とすることが奨励されるが、
日本では和を大事にしながら全体の一部として生きることが理想とされる。
他人の為に生きることは、自分のため。
○これは「世代継承性」に関して、D.マックアダムズ教授が、
リクルートワークスのインタビューで答えていたことと重なるのかも。
「他者を世話する、気にかける」という利他的な行動
の裏には、「自己拡張の欲求」という利己的な面もある。
「情けはひとのためならず」という感じなのかな。
・西洋における経済学、経営学、組織論などの社会科学の
根底にあるのは「主体、精神、自己」と「客体、身体、他人」との区別である。
・過去1世紀の経営学文献は、二つの流れに分けることができる。
テイラーからサイモンなど「科学主義」と、
メイヨーからワイクなどの「人間主義」のふたつ。
○本当に、西洋人は2つに分けるのが好きだな。
折衷案というのはあまり考えないのかな。
でも、弁証法、dialecticだと、真ん中がでてくるよな。
Thesis, Antithesis, Synthesis だっけ?
これも真ん中を出すために、二項対立が必要という考え方なのかな。
・戦略の科学が前提としているのは、トップダウンマネジメントであり、
そこではトップだけが既存の明示化された知識を操作しながら考えるのである。
○竹田陽一さんのランチェスター戦略はこの考え方かな。
トップのみが考える。
確かに、うちらみたいな中小零細企業だとそうだよな。
社長以上に考えられる人間は、社内からはでていくだろうし。
・P.センゲのような「組織学習」論者たちは「知識を
発展させることが学習である」という見方を欠いている
彼らの多くは「刺激ー反応」という行動主義的コンセプトにとらわれている。
・コアコンピタンスとケイパビリティの違いははっきりしない。
両方とも戦略の「行動的」側面を強調する。すなわち企業は
「どこで」競争するかより「いかに」競争するかを選択するというのである。
○うちみたいな零細企業だと「いかに」は限界がある。
「どこで」戦うかの選択に間違うと、つぶれる。
今のところ、事業を継続できているのは「どこで」がある程度うまく
いったからかな。そこが軌道に乗ってはじめて「いかに」の部分も
改善できているのかも。
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●組織的知識創造の理論
・デカルトの分割は「情報処理」メカニズムとしての組織という見方を生んだ。
組織は新しい環境状況に適応するために環境からの情報を処理する。
・イノベーションを起こす組織は、組織内部から新しい知識や情報を創出しながら
環境をつくりかえていくのである。
・知識創造理論において最も重要なのは、暗黙知と形式知の区別である。
・個人ではなく、組織による知識創造に焦点を当てる。
・認識論的次元 暗黙知 形式知
存在論的次元 個人 グループ 組織 組織間
・4つの知識変換モード 共同化 表出化 連結化 内面化
・組織的知識創造は、個人によって創りだされる知識を、組織的に増幅し、
組織の知識ネットワークに結晶化するプロセス
・人間の知識が、暗黙知と形式知の社会的相互作用をつうじて創造され
拡大される、という前提。
・4つの知識変換モード
1)共同化(socialization) 暗黙知→暗黙知
経験を共有することによって、メンタルモデルや技能などの暗黙知を
創造するプロセス
共体験による暗黙知の獲得
2)表出化(externalization) 暗黙知→形式知
暗黙知を明確なコンセプトに表すプロセス
メタファー、アナロジー、コンセプト、仮説、モデルなどの形をとりながら
形式知として明示的になっていく。
リーダーの比喩的言語や想像力が、メンバーの暗黙知を引き出す重要な要素
暗黙知を形式知に変換するために、メタファー、アナロジー、モデルを使用
3)連結化(combination) 形式知→形式知
コンセプトを組み合わせて、一つの知識体系を創りだすプロセス
4)内面化(internalization) 形式知→暗黙知
行動による学習(learning by doing)と密接に関わる。
文書化は、体験を内面化することを助けて暗黙知を豊かにする。
・個人の暗黙知が、組織的知識創造の基盤
・知識スパイラルを促進するための5つの要件
1)意図 2)自律性 3)ゆらぎとカオス 4)冗長性 5)最小有効多様性
・時間の次元を組み込んだ「5フェイズモデル」
1)暗黙知の共有 2)コンセプトの創造 3)コンセプトの正当化
4)原型の構築 5)知識の転移
・ギブソンは、知識が環境にこそ存在するという仮説によって、知識が人間の脳
の中に存在するという伝統的な認識論の見方を拒否した。
ノーマンは、知識が脳の内部に存在するだけでなく、モノ、他人、状況という
形で外部世界にも存在していると論じた。
○この二人の考え方は、魅力的だよなー。
知識を、外部世界に分散して置いておくことも可能になるということかも。
新人へのOJTを効果的、効率的に進めるというときにも、応用可能かも。
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●知識創造の実例
・知識を絶え間なく創り続けるような能力こそが、知識社会における競争力の源泉
・松下電器のホームベーカリー開発事例
・知識創造を持続させるには、促進用件を常に強化、向上しなければならない。
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●知識創造のためのマネジメントプロセス
・トップダウンとボトムアップマネジメントという二項対立
・トップダウンでは、トップマネジャーだけが有能で知識を創ることを許されている
という前提
J.ウェルチのGEの事例
・ボトムアップでは、自立的に働くのを好むロアー社員によって知識が創られる。
彼らは、他メンバーとはほとんど対話をもたない。
3Mの事例
・組織的知識創造を可能にする「ミドルアップダウン マネジメント」
ミドルマネジャーの重要性
トップは壮大な理論(grand theory)を創り、ミドルはロアー社員の力を借りて、
自社で実際に検証できるような中範囲の理論(mid-range theory)を創る。
キャノンのミニコピア開発事例
・他部門との連携の大切さがわかった。誰に何を頼めばよいかわかったことが収穫。
当時の人脈がいまでも貴重な財産に。
○新人に対するネットワーク型OJTにもこのメリットがあるんだろうなー。
・花王の最上位(アンブレラ)コンセプトは、界面化学。
○ここがコアコンピタンスとつながるのかな。自社の最上位コンセプトを
おさえているからこそ、多角化ができる。
小さい会社だけど、当社の最上位コンセプトは何か?
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●新しい知識創造
・知識創造を可能にする「ハイパーテキスト型」組織
・西洋に特有な二分法的思考
・組織進化論の発見の一つに「適応は適応能力を締め出す」(adaptation
precludes adaptability)というのがある。
過去の成功への過剰適応。成功要因の「学習棄却 unlearn」できない。
・ハイパーテキスト型組織へ移行している花王の事例
・より完璧なハイパーテキスト型組織としてのシャープの事例
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●グローバルな組織的知識創造
・西洋の強みは、表出化と連結化である。
しかし西洋的スタイルは「分析麻痺」症候群に陥りやすい。
・日本企業は、共同化と内面化に強い。
しかし「集団浅慮」「過去の成功体験への過剰適応」に陥りやすい。
・日産 プリメーラの事例
組織にゆらぎが導入
○ミスミ社長の三枝さんが「ゆらぎ」に関しては、
否定的なコメントをされていたな。
あとでもう一度チェックしてみよう。
・組織的知識創造の日本的アプローチが、海外でも有効。
共同化がきわめて重要。
・新キャタピラー三菱の事例
○Lの方々が関与していたプロジェクトかな?
・暗黙知に基づくコミュニケーションは、外国人には通用しない。
表出化が重要。
・文書化やマニュアル化は、アメリカに分がある。
・共同化と表出化に時間をかけることがカギ。
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●実践的提言と理論的発見
・個人を抜きにして、組織は知識を創りだすことはできない。
・実務者が、企業内で組織的知識創造を計画実行するためにとるべき
7つのガイドライン(指針)
1)知識ビジョンを創れ
2)ナレッジクルーを編成せよ
3)企業最前線に濃密な相互作用の場を作れ
4)新製品開発のプロセスに相乗りせよ
5)ミドルアップダウンマネジメントを採用せよ
6)ハイパーテキスト型組織に転換せよ
7)外部世界との知識ネットワークを構築せよ
・西洋には二項対立(ダイコトミー)で世界を見ようとする強い思考癖がある。
本書に出てきた7つのダイコトミー
1)暗黙的/明示的
2)身体/精神
3)個人/組織
4)トップダウン/ボトムアップ
5)ビュロクラシー/タスクフォース
6)リレー/ラグビー
7)東洋/西洋
・いくつかの文献では無視されてきた「表出化」が知識創造の鍵を握る
・本書が西洋人にとっての日本企業の謎を減らすことを願う
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●あとがき
・日本企業が人間の何を大切にしてきたのか。
人間の知識創造能力を大切にすることが、経営のあるべき姿。
現在の日本企業は、違う。
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