ラーニングバー「よい仕事を考える、ことから考える」に参加してきました。

企業内教育担当者向け

09年12月4日(金)18時~21時30分
Learning bar @ Todai 2009
みんなで「よい仕事」を考える、ことから考える!?
三井物産における組織理念マネジメント:組織理念をどのように共有するのか!?
に参加してきました。
私の理解の範囲で、どんな内容だったのかをお伝えします。

(・講演内容 ○関根の独り言)
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●イントロダクション (中原先生)
・今回の学習モデルでは「歩く」も入る。
 参加者の「よい仕事」を貼りだしてあるので、ギャラリーウォークで見て回って。
・対話は「圧倒的な他者」とのもの。違っていて当然。
・理念を意識させる工夫。 社訓の唱和。クレドカード。Tシャツ。
・組織の理念経営とは何か。浸透とは。それについて考えていきたい。
・今回は実験的にTwitterを使ってみる。
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●三井物産 渡辺氏
 「組織文化を変える ~経営理念の浸透~」
・昔は、鉄で入ったら、鉄で卒業。鉄しか知らない。
 今は、色々な仕事をさせ、人材を流動化させている。
・色んな仕事があるが、重要なのは従業員の人間性。
 自分が中国にいたころは、お酒ばかり飲んでいた。
・1975年~2009年 成長が当たり前の状況。
 半分の人員で、2倍の仕事。 学生にも人気がある会社。
・創業者 益田孝の言葉「人が仕事を造り仕事が人を磨く」
○この方は、確か日経新聞の創業にも関わっていると、日経のHさんから
 教えてもらったっけ。
・「組織の三菱、人の三井」と呼ばれる。多様な人材がいる。
 やっていることも部ごとに違う。一つになりにくい。どうまとめていくのか。
・会社の危機 「国後島事件」「DPF問題」
 2002年の国後島事件後、経営陣は退陣。槍田社長が引き継いだ。
 2004年のDPF問題では、対応を最優先として、
 社内の優秀な人材を480名以上集めた組織を作った。
・2002年の事件後も、危機意識は現場に浸透していなかった。
 他の本部の出来事として。
・1999年に導入した成果主義の評価制度により、自分のことしか考えなくなった。
 
 飲みに行って熱く教える「教え魔」が減った。会社がおかしい方向に進んでいた。
 横のつながり、総合力が弱まった。
・2004年以降、槍田社長が陣頭指揮をとり再発防止策を打っていった。
 経営陣と従業員の距離が遠い。社長が現場を分かっていない。
・制度面での対応として、組織業績評価制度において、定量評価100%を改めた。
 量10:質0 → 量6:質4 → 量2:質8 (現在)
 プロセスを重視するようにした。
○これはすごい変化だなー。
 俺がいた営業の世界の話になってしまうけど、定性評価を重視すると良い面も
 多いけど「結果を出さなくてもいいんでしょ。やることやっていれば」と
 言い出す人間も出てくる。
 営業として優秀で結果を出す人間は、プロセスもしっかりやっている。
 ただ、プロセス重視が、結果を出せない人間の言い訳に使われる時もある。
 すぐに結果を求めずに、中長期的に人材を育てていくという意味では、
 定性評価をしてくれるとありがたい。
 評価ってやっぱり難しいよなー。
 評価は、会社の考えていること、重視していることを、
 伝えるメッセージでもあるよなー。
・2004年以降、会社の経営理念を「MVV」として明文化した。
 
 入社5年目、9年目を集めて合宿研修も行った。
○これは「一人前の後」の人材に対してどんな研修をやるかのヒントになるかも。
 ここで何をやったのか、もう少し聞いておけばよかったなー。
・「社長車座」「アクティブトークウェンズデー(ノー残業日)」を行った。
 それまで、社長と話すなどということは考えられなかった。
 ただ、どうしても当たり障りのない話しになる。
・再発防止策としてやってきた「経営側からのメッセージ発信」「現場への歩み寄り」
 「成果主義偏重からくる歪みの是正」など。
 ここまでやったら、結構いいのでは、という所までやってきた。
 だが、従業員はまだ「評論家」。語りの主語が「会社は・・・」
 本人たちに腹落ちしていない。「私にとっては、どうなのか」
・2006年から「良い仕事とは何かを見つめなおす活動」をスタートした。
 とはいっても抽象的で何をやっていいのかもわからない。
 そもそも「良い仕事」の定義は?逆に「悪い仕事」もあるのか?
 誰のための「良い仕事」なのか?
 多忙な営業現場に対して、そんな抽象的な議論をさせてもよいのか?
 事務局としても悩み葛藤があった。
○これは大変だったろうなー。
 でもこういう葛藤を引き起こすような抽象的な問いって大事なんだろうな。
 「良い仕事とは何か?」
 色々な考えが引き出されてくる。社員個々人で考えが違いそう。
 しかもそれを共有することは、その後の仕事を考えても意義がありそう。
 こういう風な、指示を受けた側が色々考えざるを得なくなる問いや方向性を
 発信することも、経営者の仕事なんだろうなー。
 「知識創造企業」でもあったけど、トップの抽象的な考えを、ミドルが翻訳し
 現場に落としていく。
 トップがあまりに具体的な案を示していくと、トップダウンになり、
 ミドルが活きないのかもなー。
 うちみたいな零細企業や、一般の中小、中堅企業だと、トップダウンでないと
 たぶん難しいけど、大企業の良さは、ミドルがいることなのかも。
 「ミドル不要論」なんて言われていたけど、
 ミドルがいないと大企業は動かないのかもなー。
・「良い仕事」について、自分たちで語り合うしかないと決めた。
 コンサルも入れず、自前で「良い仕事ワークショップ」の全社展開をした。
 
 約400回。参加人数約6000人。全社員が参加。
 事務局からのべ250名のファシリテーターが現場に飛んだ。
・業務時間内に約2時間。
 1)事務局による「良い仕事」についての説明
 2)「変わらざるもの 三井物産の志」DVD視聴
 3)約10人程度でのグループディスカッション
 4)議論の共有
・袋叩きにあい、逃げ出したくなりながらも、続けた。
 「こんなことやって給料もらえて、お宅らはいいよね」と嫌みも言われた。
・当初はなかなかエンジンがかからなかったが、徹底して全員参加の
 ワークショップを実施した結果、徐々にイメージが形成されてきた。
・日経新聞での広告など、会社の本気さも伝わり始めた。
・良い仕事は「家族に誇れる仕事」など、従業員の様々な考えが出てきた。
・皆会社を愛している。つぶしたくない。自分の口で語らせると、止まらなくなる。
 「良い仕事」について語っている言葉の中に理念「MVV」が自然と入っていた。
・「良い仕事」の3つの視点が浮かび上がってきた。
 世の中にとって役に立つものか(社会)
 お客さまやパートナーにとって有益で付加価値をもたらすものか(取引先)
 自分のやりがい、納得感につながるものか(自分自身)
・2009年4月以降 飯島新社長のメッセージ
 「良い仕事」をすればその結果として利益がついてくる。この考え方は変えない。
○こうやって言われると勇気がでるだろうなー。
・手っ取り早く儲かるものはないかとかき集めてくるとろくな結果にならない。
○これは、俺も独立当初がそうだった。
 何か稼げるもの、お金になるものと、あせって色んな仕事をうけたけど、
 結局続かなかった。
・北海道の社有林で、新入社員が植樹を行っている。初心を忘れないために。
○こういう機会を会社が作ってくれるのは、素晴らしいなー。
・一連の取り組みを通じて感じたのは、とにかく場を作って強制的にでもやらせる
 のが重要。場さえ作ってしまえば、あとは勝手に語ってくれる。
 議論がおかしい方向に進んでいった時の軌道修正役としてファシリテーターが必要。
・「良い仕事」と「収益」の関連性に対する一部社員の誤解がある。
 「良い仕事」といった時に「収益性」が抜けてしまう。
・自分(渡辺さん)にとって「良い仕事」とは、納得できる仕事である。
○これは力強いなー。きっと渡辺さん自身が色々な所で語るたびに
 確信していった言葉なんだろうなー。
○余談ですが、
 09年11月29日の日経朝刊10面で、三井物産会長 槍田氏と一橋大学 野中教授の
 対談記事が載っていた。そこでも「良い仕事」について語られていた。
 -「良い仕事」とするかは主観的。何を基準に仕事を評価するのか?
 -営業本部ごとに数年後の姿を描き、そこに向かってどの程度前進したのかを
  定性評価する仕組みを作った。社長と各本部長が対話を重ね、イメージ通りに
  進展していればA評価。
  「良い仕事を追求する姿勢を会社は評価している」というメッセージを伝える
  意味もあるので、他の本部との比較はしない。この定性評価の比率が8割で、
  収益などの定量評価は2割。
  社会から必要とされる仕事、当社らしい仕事、自分が胸を張れる仕事をして
  いれば、収益は必ずついてくると信じている。
○更に余談ですが、
 三井物産「よい仕事ワークショップ」は、09年1月のASTDジャパンの
 シンポジウムでも紹介されていました。
  https://www.learn-well.com/blog/2009/01/2009.html
○こうやって世の中に対して「良い仕事ワークショップ」について発信していくと
 それが従業員にとっても、このワークショップの意義を再確認する機会に
 なるんだろうなー。
 渡辺さんが「社員へのブーメラン効果」と呼んでいたけど、正にそうなんだろうな。
 社内だけでなく、社会への情報発信が、翻って社内に戻ってくる。
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●神戸大学 金井先生
 「学ぶ個人が貫くモノと、ぶれない組織が貫くモノ」
・変わらずに大事にする、貫くべきものがある。
 貫くものがあるから、変われる。しかし、こだわりすぎると変われない。
・ラインホルト・ニーバーの祈り
 「変えられるものを変える勇気と、変えられないものを受け容れる心の静けさと
  両者を見分ける叡智を、私に与えたまえ」
・ギャラリーに張り出された参加者の「良い仕事」をみると「幸せ」「他者」「社会」
 「仕事のクオリティー」といったキーワードが含まれていた。
・理念、文化、良い仕事に対して、危機や不祥事が果たす役割は、
 当たり前とみなされかけていた発想、前提、仮定が再度吟味されること。
・Walk the talk = 言行一致
・リーダー行動の内、理念の浸透により強い効果を持つのは、
 構造づくり、課題関連行動(P行動)よりも、配慮、思いやり(M行動)。
・危機で気づかされることもある「せっかく危機があったのに、それを活かさないと」
・危機で得た教訓が「風化」する。
 物語を通じての基本理念を、出来事につなげて語り継ぐ人がどれだけいるのか、
 それが風化につける薬。
・会社や組織が主語になるときは、全てあやしいと思った方が良い。
 「組織が変わる」「組織が目的を持つ」「組織が元気だ」等。
・「良い仕事」は非常にいい視点。ぜひ読んでほしい本。
 Good Work: When Excellence and Ethics Meet
○アマゾンで買った。 http://tinyurl.com/yds5h2x
・良い仕事の主語を自分にすれば、その会社で働く人の皆が「自分の頭」で
 考えざるを得なくなる。
・個人レベルの「慣れ」集団レベルでの「団結の強さ」組織レベルでの「強い文化」
 は、変わりにくくする。
・貫くものは貫きつつ、変えるべきを変えるためには、
 ピアディスカッションがおすすめ
○同僚との語りが、変化を促すということ?
・アメリカの経営学者 K.E. ワイクの研究したジャズオーケストラでは、
 楽団員の「腑に落ちる(sense-making process)」ことがいい演奏をするために
 必要であることが分かった。
・対話と内省をセットに、「良い仕事」について語る。
 小学生の子供に、自分の仕事、楽しさ、大変さを語ってみる。
・E.シャインの「戦争捕虜の洗脳」の研究
・理念浸透を洗脳とは言わない。
 ずっと信じ続けてくれたら大成功。
・組織にとって貫くものが「理念」であるなら、
 個人にとって貫くものは「キャリアアンカー」
・組織社会化(洗脳の一種?)の研究としては失敗。
 組織の価値観に影響を受ける人もいれば、あまり受けない人もいる。
 仕事が変わっても、会社が変わっても、犠牲にしたくないほど大事なもの、
 つまり貫くものがあることが、この研究から分かった。それがキャリアアンカー。
・洗脳、組織社会化といえば、ジョン・ヴァン・マーネン
 (もう一人の金井先生の恩師)
○すごいなー。金井先生は。シャイン、ヴァン・マーネン両方から教わっている。
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●隣の方とのディスカッション
○近くに座った「出版社の編集者」と「自動車業界のディーラー教育担当者」
 の方々と話をしました。
・会社では「幸せのトライアングル」という視点がある。お客様、社員、会社。
・お互い傷ついても、編集者は著者に言うべきことを言わなくてはならない。
 それが読者の為、著者の為にもなる。
・自分の「良い仕事」は視野が狭かった。
 お客様と自社の満足のみ。社会という視点はなかった。
・ギャラリーに貼られていた「良い仕事」の中に「家族に誇れる」というものは
 ほとんど無かったように思える。
・企業理念は浸透していない。リコールに関する問題があった時も、
 その危機を活かせなかった。
・自動車業界全体が危機的な状況にあるが、それでも動けていない。
 こういう危機感があると、個人的には色々と考えざるを得ない。
・零細企業の経営者としては「何を変えて、何を変えないか」は難しい問題。
 自分の判断で、全てが決まってくる。
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●全体での質疑応答
【渡辺氏】
Q.ファシリテーターとして
・ファシリテーターとして「しゃべらない」ことを意識した。
 しゃべらないから意見を引き出せる。議論がブレ過ぎたら戻す程度。
 各本部でファシリテーターを育成した。
Q.「良い仕事」という言葉は今も使われているか?浸透しているか?
・Yes.自然に言えるようになっている。
・英語に訳そうとして最初「Good Quality Work」と言っていたが伝わらない。
 今は「Yoi-shigoto」で統一。
Q.収益との関係は?現状の課題は?
・良い仕事をしたら、収益がついてくるという関係で考えている。
・若手の「稼ぐ」「収益力」に関する意識が減ってきている。
 今は利益の重要性を訴えている。
【金井先生】
Q.何を変えて、何を変えないか、その見極めは?
・それが難しい。変えない言い訳はなんでもできる。そのため全て変えるという
 前提で考えた方がよい。その上で少し変えて小さく実験することを勧めたい。
 少し変えてみて「やっぱり変えられない、自分らしさを失う」と思えば、
 変えずに貫けばよい。
Q.理念の浸透に関して、ミドルの役割は?
・トップの考えを、現場に合わせてふさわしいものに変える。自分色の言葉で。
・トップが名君ならば、発信源にする。
 アドミニ(管理)系なら、ミドルがイニシアチブをとる。
 どちらにしても、有効活用を考えればよい。
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●ラップアップ(中原先生)
・「良い仕事とは?」というのはパワフルな問い。
 Driving Question(思考を掻き立てる問い)
 主語が私となりうる。解釈も曖昧。共通言語として機能する可能性。
・理念浸透、伝達、注入というのは「導管モデル」
 しかし個人的な感情として、理念を注入されたいとは思わない。
・「対話モデル」でボトムアップというのも、どうなのか。
・第3の道として「ダイアログによるセンスメイキング」をあげたい。
 トップマネジメントが基盤を作る。ミドルが解釈し現場に伝えていく?
・「あり方」について仕事の合間に語ることは大事。
 それは個人の成長実感に影響があることが、調査でも分かっている。
・正しいことを行っているかの確認にもなる。
・Learning と Unlearning をセットにする。
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●ワークショップ部による「1月23日のパーティー」の紹介
・中原先生のラップアップまでの壮大なアイスブレークの後、ここからが本番。
・「学びの3rdプレース」は論文になっていない。
・豪華ゲストに3分間しか話させず、参加者の対話を誘発する仕掛けを準備。
・1月23日(土)18時~21時 
○1月23日は、当初予定が入っていたが、何とか調整して参加したい。
 そういう気にさせるプレゼンだった。素晴らしい!
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●バーの外での語り
後日談ですが、ラーニングバーの翌日の土曜日に、家で、娘(小1)に
仕事について話す機会がありました。
研修講師という仕事を、学校の先生に喩えて話をしました。
何とか伝わったようです。
実は、今回の「良い仕事」を考えてみて、
自分自身の視野の狭さに気づかされました。
私にとって「良い仕事」は、主である研修事業をイメージして
 『お客様に満足して頂き、次も発注を頂けること』
としました。
これは「顧客満足と継続受注」ということで、お客様と弊社の視点のみでした。
社会という視点は、欠けています。
正直「ちょっとカッコ悪かったかなー」とも思いましたが、
零細企業の経営者として「顧客満足と継続受注」は
会社をつぶさないためにも外せません。
今の私に考えられる「良い仕事」の定義はこれだ、ということで
もしかしたら将来的には変わってくるのかもしれません。
小1の娘には
「いやー、今はまだうちの家族を幸せにするために仕事を頑張っているんだけど、
 もう少し先になったら、うちだけが幸せなんじゃなくて、周りも幸せにできる
 ようになりたいんだよねー。」
(家から遠くに見える工場を示しながら)
「ああいう工場の社長さんは、お金を出して、周りの人に働きに来てもらうでしょ。
 社長さんも助かるけど、働き先があってお金が入る周りの人も助かるよね。
 お父ちゃんは、まだそこまで出来ていないけど、違った形でそういう風に
 周りの人にもいいことをしたいんだよねー。」
と話しました。
娘は「ふ~ん」といって、静かに聞いてくれていました。
何故か目が熱くなってきました。
娘にこういう話ができるようになるとは・・・。
やっぱり家族に仕事の話をするのは大事ですね。
今までは専務の奥さんには良く話をしていましたが、
長女達にも今後は話をしていった方がいいなと思いました。
「良い仕事」とは何か?
これは職場だけでなく、家庭で話しても良い問いかもしれませんね。
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(今回も多くの学びがありました。ありがとうございました!)

投稿者:関根雅泰

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