「プロフェッショナルと組織~組織と個人の間接的統合」
太田 肇
○プロフェッショナルが何に動機づけられているか。
「間接的統合」のマネジメントの必要性。
・初版1993年 本書は1994年度「組織学会金賞」受賞
(・引用/要約 ○関根の独り言)
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●序章
・組織と個人の関係について一つの方向を示したい。
・産業社会の進展に伴い、組織で働く新しいタイプのプロフェッショナルが
増加した。
・本書のバックボーンは、組織における個人の人間性の尊重であり、
個人の欲求充足に第一義的価値を置いている。
・本書は分析のための方法論として、社会学の「方法論的個人主義」に立脚する。
すなわち個人の態度や行動に焦点をあて、そこから個人を取り巻く社会や組織を
解明しようとする。
これは心理学の方法論である「認知的アプローチ」と共通する分析の手法。
プロフェッショナル自身の認知に焦点を当てながら、組織および社会を
見ていく。
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●1章 非専門職組織におけるプロフェッショナル
・プロフェッショナルに共通する特徴として、
1)長期の教育訓練によって得られる専門化された知的技術を保有している
2)仕事に責任の観点がともなう
3)報酬は一定。利益ではなく謝礼または給料
・本書で対象にするのは「非専門職組織」に雇用されるプロフェッショナルで
ある。
・典型的プロフェッションの多くは、元来独立して営業するのが一般的であった。
企業等に代表される「非専門職組織」で働く人は少数である。
・組織に雇用されるプロが増大してきた背景には、組織側に内部にプロを
雇用する必要性が生じてきたことと、プロにとってもサービスの質を維持
するために、組織的な活動が避けられなくなってきたことが挙げられる。
・組織に属することで、自己の専門の仕事に専念できるという点があるが、
同時に組織による統制に従わなければならなくなる。
○ここが、俺が個人で会社をやっている理由のひとつかも。
組織に縛られたくないという想いか。
あとは、自分で営業をすることが苦にならないことも大きい。
今まで営業をずっとやってきたし、自分でコントロールできるのが楽しい。
だから、研修会社の登録講師にもならない。
自分でお客様を見つけ、一緒になって仕事を進めていくことが楽しいからだろう。
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●2章 プロフェッショナルの価値観、目的
・研究者、技術者は、管理職、事務職など一般のホワイトカラーや、
技能労働者とは異質な価値観、目的を持っていることが伺える。
・基礎研究寄りの研究に従事する研究者は、自らの専門分野にコミットし、
そこで高い業績をあげることに関心がある。
・製品開発その他の業務に従事する技術者は、自身の昇進それに組織の
業績への貢献に大きな関心を抱いており、所属組織へのコミットメントも大きい。
・非専門職組織のプロフェッショナル(研究者、情報処理技術者、服飾デザイナー、
建築士)の高次欲求は、所属組織の内部よりも、専門化社会における
能力発揮と評価によって充足しようとしている。
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●3章 プロフェッショナルと組織の関係
・プロは専門化社会での業績および評価を目的とした活動には最大限の努力
を発揮するが、所属組織からの要求がそれと対立する場合には、組織に
対して、必要な限度の努力しか投入しないと考えられる。
このことがプロの組織に対する限定的なコミットメントをもたらしている。
・p56 組織と個人の交換関係
○この図、わかりやすいなー。
・組織がプロフェッショナルから「満足基準」を上回る貢献を引き出すことは
困難である。
・組織によるプロフェッショナルのコミットメントの獲得を「取り込み」と
いう概念でとらえる。
・取り込みに対するプロフェッショナルの抵抗を「抵抗モデル」で捉える。
・「取り込み」の程度は、プロフェッショナルと組織双方の「依存度」で
決まる。
・双方の依存度を規定する大きな要因は、プロフェッショナルの労働市場に
おける優位性である。
○確かにそうだよなー。その組織を出ても仕事ができる力があれば、依存
する必要はない。
でも結局、他組織に雇われる形になるかもしれないけど。
やっぱり自分の力で食べていくには、お客様を見つける力「営業力」が
必要になる。
プロフェッショナルがそれを厭うなら、組織に雇用されることが必要になる。
・「組織人」としてひとつの組織に特殊化することは、プロフェッショナルの
存在価値そのものを否定することにつながりかねない。
・組織への「取り込み」が過度になると、プロフェッショナルとしての
貢献度が低下し、組織効率が低くなると考えられる。
○これは「組織社会化」にも関係する問題だよなー。
あまりに組織に染まりすぎると、独自性が発揮しにくくなる。
・組織への「取り込み」は、V.A.Thompsonの用いる「人の専門化」と
関係が深い。
「課業の専門化(Specialization of tasks)」と
「人の専門化(Specialization of people)」を明確に区別する必要がある。
・「課業の専門化」は、組織のプロセスであり、各人は単に作業の一部を
分担しているに過ぎないため、他者によって容易に代替される。
「人の専門化」は、社会的プロセスであり、まとまりのある能力、知識が
個人に蓄積されるため、専門外の者が取って代わるのが難しい。
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●4章 プロフェッショナルと官僚制
・官僚制には、制度や規則によって管理者の権力の行使を制限し、個人の
権利、自由を保障しようとする「立憲的(Constitutional)」な側面もある。
・プロフェッショナルは、専門的活動に専念できる条件を求めている。
・官僚制の有する立憲的側面は、プロフェッショナルにとって重要。
・事務系ホワイトカラーと比較してもプロフェッショナルは、権限、義務の
明確性、個人としての自律性や職務の継続の保障など、官僚制の立憲的
側面をより重視している。
一方、組織のステイタスについては比較的関心が低い。
・官僚制が、プロフェッショナル自身にとって望ましくない制度であるとは
いえない。
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●5章 プロフェッショナルのキャリア志向
・Scheinは、キャリアの諸決定を組織し制約する自己概念を「キャリアアンカー」
と呼び、それは「自覚された才能と能力」「自覚された動機と欲求」
「自覚された態度と価値」から構成されるとした。
・本書では、個人がキャリアの上でたどろうとする方向、キャリアの上で
基本的に重視する事柄を「キャリア志向」として捉える。
・Gauldnerの「コスモポリタン」と「ローカル」という分類。
コスモポリタンは、雇用される組織への忠誠心は低く、専門的技術への
コミットメントが高い。準拠集団は組織の外。プロフェッショナル。
ローカルは、組織への忠誠心は高いが、専門的技術へのコミットメントが
低く、準拠集団は組織の中。組織人。
・年齢が高くなるほど、プロフェッショナル志向が低下し、逆に
組織人志向が高くなる。
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●6章 プロフェッショナルと昇進
・プロフェッショナルは、昇進に対して特有の意識を持っていると推察できる。
・研究者の場合、昇進を手段的な位置づけとして捉える、すなわち専門家社会
で能力を発揮するための条件として考えることが予想される。
・プロフェッショナルは、所属組織に対して主として専門的活動のための
条件の提供を期待している。
これらの条件が制度的に保障されていることが重要。
・研究者、技術者、事務系と職種によって、昇進に対する目的意識に
明らかな違いが見られた。
・研究者は、個人単位で成果を出せる仕事が多い。そのため昇進によって
得られる組織的な権限に対する依存度が低い。
この点は、グループワークの比重が大きく、成果を上げるためには、
ハイアラーキーの力を借りなければならない技術者や事務系とは対照的。
○これはあるかもなー。
出世すること、昇進すること、えらくなることで、組織で発揮できる力に
違いが出る。
部長になれば、他者の稟議を通さなくても、自分の企画に自分で判を押し
企画を通すことができる、と話してくれた教育担当の方もいた。
部長になってはじめて、自分がやりたいことを進められるといっていた。
組織の力を借りる必要があるならば、その組織で認められていることが必要。
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●7章 プロフェッショナルと人事管理制度
・人事管理制度は、限られた範囲内でプロフェッショナルを動機付ける
効果を持つに過ぎないが、同時に彼らにとっては「衛生要因」的な意味で
重要である。
・動機付け的側面で見た場合、専門職の職位あるいは資格が、能力・業績の
象徴として組織内外に受け止められていることが必要。
・プロフェッショナル的価値観、志向の強い者にとって専門職は魅力ある
職位であり、逆に管理職や役職はどちらかというと魅力に乏しいものと
して受け止められている。
・全社的には、専門職に対する評価は管理職に比べて低い。
にもかかわらず専門職をプロフェッショナルは選択することが多い。
これは専門職制度の有する保障的側面が特に重要な意味をもっていること
をうかがわせる。
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●8章 プロフェッショナルのQWL
・ホワイトカラーは、3つに類型化できる
1)専門的、技術的職業従事者(プロフェッショナル、スペシャリスト)
2)管理的職業従事者(マネジャーとその予備軍)
3)事務、販売従事者
・QWL(Quality of working life)は、私生活を含む「ほかの役割との
両立可能性」という次元を用いることが有効。
○これは確かにそうだよなー。職場での仕事だけ気持ちよくできても、
家庭とか他の場所での生活が充実していなかったら、QWLが高いとは
いえないだろうしなー。
・ホワイトカラーが能力を発揮し、高い成果を獲得するための前提としても
広範な自律性が維持されていることが不可欠である。
・ホワイトカラーは、権威に対する要求が強い。
・Deciに代表される「認知的評価理論」に基づけば、徹底的な能力主義、
業績主義は、仕事そのものの魅力を減退させる可能性がある。
働くことの目的が、仕事そのものから外的報酬の獲得に移ってしまうから。
・プロフェッショナルの自律性は、他のホワイトカラーと比較して高い水準に
あるが、これは組織が「プロフェッショナル」として雇用する以上、保障
しなければいけない職業上不可欠の条件といえる。
・プロフェッショナルの労働生活の質は高い水準にある。
ただこれはプロフェッショナル個人が高い精神的成熟度と個人主義的
パーソナリティ、それに潜在的なものを含めて高い専門的能力を
備えていることを前提にしている。
・プロのQWLが高い背景
1)能力、知識の専門性の高さ
2)専門家団体(professional association)の役割
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●9章 組織と個人の「間接的統合」
・個人は組織の目的のために貢献することを通して自己の目的を達成し、
組織はそれを可能にする構造を備え管理を行うことによって、組織目的を
達成することができると考える。
このような組織と個人の統合の理念型を「直接的統合」と呼びたい。
・直接的統合は、組織と個人の「ベクトルあわせ」に焦点をあてるが、
他方では両者のベクトルの分散を許容し、あるいは積極的に肯定している
と解釈される理論がある。
その中で代表的なものは「分化」の概念であろう。
・短期的、直接的には組織目的と一致しないプロフェッショナルの志向に
基づく活動を、長期的にまた間接的な貢献も含めて組織の利益に
結び付けようとすることが求められる。
このように組織と個人の関係をオープンシステムの中で捉える理念型を
「間接的統合」と呼びたい。
・p152の図 組織と個人の関係
組織 個人 組織 仕事 個人
○この図もわかりやすいなー。こういう図を考えられるようになるためには、
それだけよく理解していないとできないんだろうなー。
・プロフェッショナルと組織の目的の「不一致」を前提にした場合、統合を
達成するためには「コンフリクト」をどのように管理するかという問題を
避けて通るわけにはいかない。
・個人としての人間性尊重の点から「間接的統合」が志向されるべきであろう。
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●10章 組織と個人の統合についての実証分析
・多くの企業ではプロフェッショナルに対しても組織の意思決定への参加、
全体との相互作用、組織目的へのコミットメントなどを重視した
「直接的統合」を志向するマネジメントが行われてる可能性が高い。
・調査結果として、2000人未満の企業では「直接性」が高い傾向が見られた。
製造業よりも、非製造業で「直接性」が高いという傾向が現れていた。
○中堅、中小で、サービス系の会社は
直接的統合のマネジメントが多いということかな。
なんとなくわかる気がする。
・企業側のほうが、プロフェッショナルよりも「直接的統合」による
マネジメントを志向していることが明らかになった。
・プロフェッショナルは「プロフェッショナル」としての管理を強く
求めているのに対し、企業側はあくまで全体のマネジメントと調和する
枠内に位置づけようとしているのがわかる。
・外部に欲求充足の機会をもつプロフェッショナルは「直接的統合」に
よるマネジメントを志向していない。
・プロフェッショナルが期待するのは、プロフェッショナルとして専門的な
活動に専念できる安定的な地位と個人として広範な自律性が認められる
ような勤務条件、それに専門的な基準に基づいた評価システムである。
○確かにこういうことをプロフェッショナルに対して提供できるのは
やっぱり大企業なのかも。
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●11章 「間接的統合」によるマネジメント
・コスモポリタンとしての性格が強く、組織への依存度が低いプロに
対しては、Hersey=Blanchardの「委任的」リーダーシップを基本とし、
プロフェッショナルに対して必要な情報の提供と環境づくりによって
成果を引き出すことが有効と考えられる。
・非専門職組織に属するプロフェッショナルがその専門的能力を伸長させたり
陳腐化を防ぐためには、OJTのみに頼ることはできず、大学や研究機関など
による体系的な知識、技術の提供を受けることを必要とするのが普通である。
・プロフェッショナルが期待するほど、彼らの専門性を尊重した人事管理は、
一般的に行われていない。
・評価の際に、協調性、指導力、勤勉性などの考課要素や、組織の意思決定
への参加を重視することは、結果として専門能力のみに秀でた人材を
排斥することにもつながる。
・プロフェッショナルといえども、プロセスや態度は、いわゆる媒介変数として
管理可能だり、個人の裁量によるよりも結果的によい成果につながるという
考え方。
○キャノン社長が、デザイナーに作業着を着ることを徹底させた事例とも
つうずるのかな。
・Scheinの「創造的個人主義」は、個人が組織にとどまるためには固守しな
ければならない「中枢的規範」は受け入れるけれども、メンバーにとって
は固守することが望ましいが本質的ではない「周辺的規範」は拒否する。
・プロフェッショナルのマネジメントは、それ自体が直接彼らを動機付ける
ものではないということは、強調しておきたい。
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●結章
・プロフェッショナルの生きがい、働き甲斐につながる高次欲求の充足場所
として専門家社会などが重要な位置を占めている。
・専門家社会との関係は「最適基準」によって支配されていると考えられる。
所属組織との関係は「満足基準」で貢献を行うと考えられる。
○所属組織に対しては、必要最低限の力しか発揮しない。
専門家社会で認められるための努力は惜しまない。
・プロフェッショナルは「直接的統合」によるマネジメントを志向せず、
「間接的統合」が必要である。
・「間接的統合」によるマネジメントは、「委任的リーダーシップ」、
プロセスよりも長期的成果を重視する評価、仕事上の諸条件の整備などに
よって特徴付けられる。
・本書の理論的命題の多くは、既存のプロフェッショナル以外の領域へも
浸透していく可能性がある。
・プロフェッショナル的な価値観、目的および組織-個人関係のモデル、
それを基盤とした「間接的統合」の適合する領域が拡大する可能性がある。
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