「働くことと学ぶこと-能力開発と人材活用」

お薦めの本

働くことと学ぶこと-能力開発と人材活用
佐藤博樹 編著 ミネルヴァ書房 2010

○企業内教育の定量的調査。示唆に富む知見が多い。

(・引用/要約 ○関根の独り言)
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●はじめに
・企業の存続や従業員の雇用機会の確保にとってきわめて重要な能力開発
 であるにも関わらず、企業による能力開発機会の提供や従業員による
 能力開発機会の受講の現状、さらには従業員自身による自己啓発への
 取組などに関して、総合的に把握できる調査が存在しない。
・本書で分析に利用する「働き方と学び方に関する調査」(経産省の委託調査)
 は、過去から調査時点での能力開発投資を把握できるものとなっている。
・マイクロデータ(個票データ)は、東京大学 SSJデータアーカイブにて公開
●第1章 働くことと学ぶこと 能力開発の現状と課題
・代表的な調査として厚生労働省の「民間教育訓練実態調査」(1998年まで)
 と「能力開発基本調査」(2000年度以降)がある
・従業員の能力開発機会では、Off-JTや計画的OJTだけでなく、職場で日常の 
 業務の中で実施されるOJTの比重が大きい。
 しかしこのOJTの実施状況は、企業あるいは事業所調査では正確に把握する
 ことが難しい。
 OJTの実施状況やその効果などは、OJTの担い手である職場の管理職やOJTの
 受け手である従業員自身に対する調査を実施して把握することが必要である。
・能力開発の現状を正確に把握するためには個人調査が不可欠
【調査内容】
・「働き方と学び方に関する調査」は、全国の市区町村に居住する満25歳以上
 から54歳以下の男女個人5000人を対象として実施された。
 調査期間は、2005年1月8日から2月末である。回収数は3002人で回収率は60.0%。
【能力開発の現状】
・キャリアの初期段階である若年者において、勤務先から教育訓練投資を受ける
 機会が少ないことは、将来のキャリア形成にマイナスの影響を及ぼす可能性が
 示唆される。
・職場内におけるOJTは、キャリアの初期段階の導入教育レベルにおいては
 計画的OJTとして、企業としてその実施方法を定めていたり、OJTマニュアルを
 整備したりしている場合もある。
 しかし、初期キャリア以降に関しては、企業として制度化されていないことが
 多く、OJTは職場の管理職による部下育成のあり方に依存することが大きく、
 その実施状況を正確に把握することは難しい。
○初期段階のOJTは、「フォーマルなOJT」(小池)の存在は把握しやすい。
 しかし実際に何が行われているのか「インフォーマルなOJT」については、
 やはり把握しにくいのでは。
・今回の調査では、OJTの実施状況を把握する為に、次の3つの設問を用意。
 1)勤務先の職場に先輩が後輩を指導する雰囲気があるかどうか
   「教え合う職場環境」
 2)上司や同僚などが能力向上を考えたアドバイスと(を?)してくれ
   かつそれが有効であるかどうか
   「上司などによる部下育成環境」
 3)仕事上の目標となる上司や先輩がいるかどうか
   「キャリア目標の存在」
・上司や同僚からアドバイスを受けることができた者では、正社員、非正社員
 および男女を問わず、そのことが能力向上に貢献するものであったと肯定的に
 評価されている。
・非正社員として雇用されても、勤務先や職場のあり方によっては、充実した
 能力開発機会を得ることが可能となる
・自己啓発への取り組みを支援する為の環境整備として、正社員に関しては、
 自己啓発時間を確保することが重要であり、女性に関しては自己啓発に資する
 情報提供を充実することが有効といえよう。
・最初の3年間における職場内OJTの状況を把握するために、現職での分析に
 利用した3つの設問に加えて、最初の3年間において「見習い」として
 扱われた期間の有無とその長さを調べている。
・「教える機会というOJT」に関しては正社員と非正社員の格差が確認できる。
・女性にとって、自己啓発という能力開発手段が生産性の向上をもたらし、
 失業の抑制ならびに賃金や収入の上昇に反映される(ことが明らかになった)
・学卒後最初の3年間に、新規学卒社員や他の部署から移動してきた正社員、
 および正社員以外の職場の人に対して、指導やアドバイスをするという
 役割を担った経験は、就業を継続させる効果がある。
○2~3年目社員が、新人の指導員となる意義のひとつになるなー。
●第2章 「最初の3年」は何故大切なのか
・若者が3年以内で会社を辞める傾向は、必ずしも最近になって急速に
 強まったわけではない。
・最初の就職から3年以上を超過した2,951名の回答者に着目して分析
・全体の80.3%は、最初の3年に、上司、同僚、仕事上の仲間による指導や
 アドバイスを受けた経験があると答えている
・学歴が高くなるほど、最初の3年のうちにやり遂げた感覚を経験的に
 持っている場合が多い。
・中卒や高卒の場合、高学歴者に比べて、中小企業に就業することが多いこと
 から、それだけ多様な業務の経験が多くなっているのかもしれない。
・高学歴ほど適職経験をもっている割合は高くなっている。
・最初の3年間に適職経験を有しているか否かは、その後の職業人生に
 大きな影響を及ぼすことになる。
・現在の就業の有無に強い影響を与えているのは、最初の3年間に仕事は自分に
 向いているという適職に遭遇した感覚の経験である。
・学卒後三年間に一つの会社で一つの仕事を続けていた人ほど、給与は有意に
 高くなっている。
 最初の3年間に他部署からの異動の正社員に指導やアドバイス経験を持つ人ほど
 現在高収入を得ている。
 指導をするだけの高い能力を保有していることを示唆する他、他の正社員に
 教えるという行為自体が本人の職業訓練の機会になっていることを意味して
 いるのかもしれない。
・仕事が自分に向いているといった経験をもつ人は、そうでない人に比べて
 あらゆる面で野力の自己評価は有意に高くなっている。
 最初の3年間における能力開発、人材育成のあり方としては、仕事が自分に
 向いているという感覚を持たせて仕事にやりがいを見出させることが、
 能力の自己評価を高めることにつながっている。
・最初の3年間に一つの仕事しかしてこなかった人は、自分のトラブル対処
 能力に自信が持ちにくい結果となっている。
 部下の育成能力も一つの仕事しか経験しなかった人ほど、自信をもちにくい
 ものとなっている。
 総じて、最初の3年のあいだに複数の仕事を経験することは、自己の能力に
 対する自信につながりやすいように思われる。
・他者への指導体験も、自己の能力評価を高めることにつながっている。特に
 新規学卒社員や正社員以外に指導やアドバイスをすることは能力の自己評価
 を向上させることが多いようである。
・働く前に適職について思い悩むよりも、働きながら「この仕事は自分に
 向いている」と3年の間に感じることが、その後の就業をより望ましいものに
 すると言えそうである。
・大学、院卒といった高学歴者ほど、適職に遭遇した体験を有意に持ちやすく
 なっている。
 向いている仕事に出会うということは、ある種の学習効果を意味するのかも
 しれない。
 業務上で求められる学習能力とは、学校でのより良い成績をあげるための
 学習遂行能力とも関連しているのかもしれない。
・最初の3年に個別の指導、相談体制が整備されている職場で必死に働く経験
 を積み重ね「この仕事は自分に向いているかもしれない」という感覚を得る。
 そんな最初の3年の適職体験や必死に就業した経験が総合しながら、所得や
 昇進確率を向上させ、更に自分の能力の自己評価を高めていくのだろう。
・「3年は辛抱しろ」「石の上にも3年」そんな良く知られた言葉を真に実行
 性のある効果的なものにするためのポイントは、3年の間に適職体験を
 積ませることにある。
・適職感覚経験は、個別に指導する体制が整っている職場に「必死になって」
 働き続けることを通じて獲得しやすくなっている。
○このあたりの情報は「指導員研修」でも参加者と共有しよう。
●第3章 集中的な仕事への取り組みとその能力開発効果
      -「必死で働くこと」と能力開発
・学歴が高いほど、最初の3年で必死に働いている人の割合が高い。
・「必死で働いたこと」は仕事や職場への満足度を高めている。
・最初の3年間の職場環境
 1)孤独就業型職場:誰からのフォローもなく、相談する環境もない
 2)仲間協調型職場:上司や同僚と連携し仲間と仕事を進める状況
 3)個別相談型職場:上司や同僚と一対一で相談などのコミュニケーションが 
            豊富にある状態
・個別相談型職場が、働くうえでの自信、自己能力評価、所得、昇進に及ぼす
 影響が大きいと言える。
・「相談」「必死」を経験した人材は、生産性が高く、企業に収益をもたらす
 存在であるともいえる。
・職場環境、個人属性に関わらず「必死で働いたこと」のある人がいることを
 考慮すると「相談」となる環境構築が、企業にとって有用な人材の育成の
 ために必要であると考えられる。
○指導員制度があることによって、新人が相談しやすくなることの意義。
●第4章 能力開発の就業率・収入への効果
・Off-JTならびに自己啓発という記憶に残りやすいものに焦点を絞ることに
よって、ある程度の精度で回顧情報を得ることを試みる。
・初職以降の訓練の状況が、調査時点の就業率ならびに年収に与える影響を
 回帰分析の手法を用いてより詳細に検証する
・女性の場合は、初職が中小企業であったことが、男性の場合は、官公庁で
 あったことが、その後の失業確率を押し下げる効果が大きい。
・女性の場合、自己啓発という能力開発手段が生産性の向上をもたらす。
・Off-JTは収入の向上にはまったく有意な影響を与えていなかった
●第5章 女性の就業継続と職場環境-学卒後3年間の仕事経験
・本データは、学卒後最初の3年間の仕事上の経験や職場環境についての
 情報が豊富である。
・女性の場合、離職確率は初職についてから4~5年目に最も高くなり、
 それまでに半分近い人が初職を離職していることが分かる
 男性の初職離職率のピークは働き始めてから3~4年目に生じるが、
 勤続10年目においても、まだ半数近い人が同一勤務先に勤め続けている。
・初職でサービス的職業に就いたもの程、ハザード率(初職の退職確率)が高い
・最初の3年間に仕事上目標となる人物、すなわち目指すべきロールモデルの
 いることが、初職での就業継続を促進することを示している
・男女ともに継続就業を促進する職場環境として、学卒後最初の3年間に、
 職場の人に対して指導やアドバイスをするとう役割を担った経験がある。
 このような役割を任されることが、仕事についてじっくりと考え、仕事を
 行う上での工夫、仕事の意義などを考える契機となり、仕事に対する興味が
 深まり、就業継続のインセンティブが高まるのかもしれない。
・最初の3年間の職場でOff-JTを受けたり、その職場に将来のキャリアについて
 相談できる機会がある、互いに助け合う雰囲気がある、あるいは同業他社に
 比べて積極的な職場ほど、男性については定着が促進んされるのに対して、
 女性にはそのような効果が見られなかった。
●第6章 「初職非正社員」は不利なのか
      -「最初の3年」の能力開発機会とその後のキャリア
・初職で非正社員で働くことは能力開発やキャリア形成上ほんとうに不利なのか
 不利ならば脱出できるのか
・初職が非正社員であっても、能力開発機会に恵まれれば、最初の3年間に
 仕事上の成長経験を得ることができることが明らかになった
・最初3年間の職場環境を表す変数。
 社員数が恒常的に不足している職場、いつも納期に追われている職場では、
 OJTの実施比率が有意に低い。
 同僚や部下に対する指導やアドバイスは、社員数が十分に確保されていないと
 行われにくいようである。
・若手社員の仕事や生活についての相談相手を決めている職場、将来の仕事に
 ついて相談できる機会がある職場では、有意にOJT、Off-JTの実施比率が高い
○最初3年間の職場環境、OJTの実施比率 
・社員数の不足はマイナスの、連携しながら行う仕事が多いこと、相談体制を
 整備することはプラスの影響をもつ。
 特に若手の仕事、生活の相談相手を決めていることはその影響力が大きい。
・初職が非正社員であると、OJTの機会はそん色ないが、Off-JTの受講の面で
 不利な状況におかれ、結果的に最初3年間の能力開発の充実度は、正社員より
 も低くなる。
・初職が非正社員であれば、最初3年間に一つの会社で働き続けることは、
 その後の正社員への移行に負の影響をもつ。一方初職が非正社員であっても
 能力開発の充実度が高いと、正社員への移行が促される
・能力開発の充実度の規定要因は、業種や規模よりもむしろ最初3年間の職場
 環境にあるようである。
・OJTは指導員を指名した計画的な指導のみならず、仕事の経験の積み重ねに
 よるものがあり、その全容を調査票調査から把握することは難しい。
 そこで、上司や同僚、仕事仲間からの指導やアドバイスが十分に行われて
 いれば、仕事の経験の積み重ねも含め、OJTが充実している場合が多いと考えた
●第7章 民間企業の能力開発
・企業による能力開発の水準が、なぜ注目すべき問題なのだろうか。それは
 日本の経済成長の源泉として、教育システムや企業における訓練投資に
 基づいた労働者の能力、つまり人的資本が重要な役割を果たしてきたと
 考えられるからである。
・OJTが賃金上昇効果をもつ(Kurosawa 2001)
 今期と一期前のOff-JTへの参加が、日本人女性の今期の賃金を上昇させる
 (Kawaguchi 2006)
・日本における企業内訓練についての研究成果は、ヒヤリング調査にもとづいた
 事例研究の分野において蓄積されており、計量分析に基づいた研究は緒に
 ついたばかりである。
・近年ほど、Off-JTの実施が大企業により偏っている傾向がうかがえる。
・社員数が恒常的に不足している企業においては、仕事上の指導やアドバイスが
 なされることが、統計的に有意に少なくなることが示された
 
 連携して仕事をすることが多い職場では、指導やアドバイスを与えられること
 が多くなることも示された
 相談が制度化されている勤め先では、仕事上の指導やアドバイスがなされて
 おり、これらが相互補完的な役割を果たしていることが示唆される
・先輩が後輩を指導する雰囲気のある企業は、Off-JTにも積極的である。
 相談に関する制度や「教える、教えられる」ことに関する職場の雰囲気が
 職業能力開発と相互補完的な関係にあると考えられる
○この辺は、原2007とも重なる結果。
・計画的OJTとは、計画的に職場で仕事をしながら教わる訓練をさす
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投稿者:関根雅泰

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