高品質日本の起源-発言する職場はこうして生まれた
小池和男 著 2012年
○「査定」を通じた技能向上。
適正のある人に高度なOJTの機会を与える。
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・一国の国際競争力の枢要な要素は、職場の中堅層の働き。
・企業の国際競争力の根幹にかかわる事柄へ発言していく方式が
いつごろから日本で見られるのか?
・海外日本企業調査(小池2008)の最も重要な結論は、職場の労働者の
発言が、その企業の効率に大きく寄与していることであった。
・本書における3つの指標:
1)品質への発言
2)定期昇給制の出現
3)労働組合の発言
●第1部 品質への職場への発言
・戦前期日本の技能は、企業特殊的ではなく、かなり一般的で技術の内実を
もつ技能をそれなりに形成し、国際競争を勝ち抜いてきたよう
・日本では、科学的管理法のいう標準化を、米よりもはるかに広い範囲に
適用し実施した
・職場調査で用いる方法は、まず職場の最末端単位(10人前後の組織)を
観察する。
その職場のベテランに「普段の仕事」と「問題」「変化」について聞く。
・問題=品質不具合、設備の不具合
変化=人の変化(欠勤した人の代わりができるか、新人に教えられるか)
製品、生産量、方法の変化
・1930年代前半、戦前最盛期の日本綿業が、英綿業を追い越した理由は、
低賃金ではなく、製品の品質が高かったからだという仮説を提示したい。
その品質の良さは、職場の生産労働者の高度な技能、それに基づく発言
に幾分かよっているという仮説。
●第2部 定期昇給制の出現
・定期昇給は、激しい個人間競争のある査定つきであることを強調したい
・定期昇給は、上司の査定により、対象者の技能向上も反映していると
考えられる
・日本にはかなり前から労働者の創意工夫を活かす方式が職場にあった
(のではないだろうか)
・江戸期のホワイトカラーにも定期昇給があった
・生産労働者への定期昇給制の適用が、日本では西欧よりはるかに早く
産業化のむしろ初期からあった。
これは、生産労働者の技能を中長期に向上させていく方式が、より早期に
根付いたことを意味している。
●第3部 知られざる貢献-戦前昭和期の労働組合
・日常の労働組合の活動を明らかにしたい。
・組合があることで、どれほど組合員の暮らしを支えることができたか。
・労働組合ができたことで、ケンカ、欠勤が減少し、風紀が良くなった事例
・企業は仮に終身雇用を標榜しても、すべて面倒を見ることはできない。
働く人の自助努力は、個人の力だけでは足りず、自分達の組織を作り、
働かせていくことが肝要。そうしたことを積み上げてきたのが、総同盟の
組合ではなかったか。
・戦争で働き盛りの男性が応召された後、いかに家族の暮らしを支えるかが
労働組合の抱える大問題であった
・高賃金国が、世界市場で生き抜くには、高品質の製品、サービスで勝負
するほかない。そして高品質を生み出すのには、職場の中堅層の発言こそ
重要である。
・高度な技能の形成にもっとも肝要な方法は、OJTである。より高度な仕事に
つき、高度な経験を積む。しかし、高度な仕事には限りがあり、誰でも
そこにつけるわけでない。選抜が欠かせない。
候補者の技能レベルが低いと、高度な仕事のOJTは上手くいかない。
OJTの機会を提示するのに、候補者の技能や適性の認定が必要になる。
・アメリカでは、差別を最小にするために、先任権方式とってきた。
入社年月日順に、賃金のより高い仕事へ昇進する。
(ただし、大卒ホワイトカラー層には、この方式をとってない)p358
・日本では、差別を覚悟して、技能や適性のより高い候補者にOJTの機会を
与えてきた。
年功制と言われてきたが「査定」を欧米よりもはるかに広く多くの人に
適用し、柔軟に技能を高めてきたのが、1920年代の日本であった。
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