『世界の経営学者はいま何を考えているのか:
知られざるビジネス世界のフロンティア』
入山 章栄(著) 2012年
○第一線研究者が最新の学術知見を、分かりやすく提供。
こういう本は、ほんと数少ないと思う。
(・要約 ○関根の独り言)
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・世界の経営学者の間で議論されている「経営学の知」が、日本では
あまり知られていない。
・AOM2012への、日本からの参加者は41人にすぎなかった。
●これが世界の経営学
・科学とは「世の中の真理を探究すること」
・ドラッカーの言葉は、名言ではあっても、科学ではない。
・HBRは、経営学者と実践者の接点の場。学術誌ではない。
・アメリカのビジネススクールの経営学者にとって、教育(ティーチング)は
研究と比べればさほど重要ではない。
・経営学とは、人間の意思決定を分析する学問。
人間が何をどう考えるかを分析する学問にほかならない。
・理論分析とは「なぜそうなるのか」という原理を理論的に説明すること。
実証分析とは「仮説が一般的にあてはまるのか」をテストすること。
・欧米型の経営学のアプローチは、演繹的。
理論的仮説を立てて、統計的な手法で検証する。
日本型のアプローチは、帰納的。
事例分析で得られた定性的情報から、経営の法則や含意を引き出す。
・経営学(Management)の研究領域:
マクロ分野:経営戦略論、マクロ組織論、横断領域
ミクロ分野:組織行動論
・経営学の三大流派:
1)経済学ディシプリン:人は合理的な選択をするもの ポーター
2)認知心理学ディシプリン:それほどの処理能力はない サイモン
3)社会学ディシプリン:仮定をおかない
●世界の経営学の知のフロンティア
・企業の究極の目的とは何か?競争戦略論では「持続的な競争優位」を
獲得することであるとする。
・SCP:Structure(構造)Conduct(遂行)Performance(業績)パラダイム
一言で表せば「ポジショニング」
・SCPのポイントは「どうやって競合他社との競争を避けるか」にある
・現在の優れた企業は、長い間安定して競争優位を保っているのではなく、
一時的な優位をくさりのようにつないで結果として長期的に高い業績を
得ているよう(Wiggins & Timothy 2002他)
・より多く競争行動を行う企業や、長期間にわたって競争行動をしかける
企業の方がその後の市場シェアが上昇し、総資産利益率を向上させる。
・差別化などによって業界内でユニークなポジションをとれれば、それだけ
ライバル企業との市場の重複度が低下するので、結果として積極的な
競争行動をとりやすくなる。
SCPの「守りの戦略」とコンペティティブ・ダイナミクスの「攻めの競争
行動」は、相矛盾するものではなく、むしろ両立する可能性がある。
・ラーニングカーブの研究(Reagansら2005)
・「トランザクティブ・メモリー」Who knows what
組織の各メンバーが、他メンバーの「誰が何を知っているか」を知っておく
ことが、組織の記憶力にとって重要。
・組織は、互いを知り合うほど「相手が何に詳しいか」という
トランザクティブメモリーを自然に持つようになる(Wegnerら1991)
・トランザクティブメモリーが効果的に働くためには、組織のメンバー
それぞれが専門性を深めていること(専門性)そして相手が何をしって
いるかを正しく把握していること(正確性)が重要である(Austin 2003)
・多くの経営効果に関する分析は「内生性」や「モデレーティング効果」を
考慮していないため、過大評価されている可能性がある。
分析で取り上げた要因以外の要因が影響をもち、見かけ上の効果を示す
場合もある。
・見せかけの経営効果に惑わされないためにも、自身で因果関係の図を
描くことが有効。
・「両利き(Ambidexterity)の経営」
・ほどほどに幅広い知識をもつ企業こそが、優れたイノベーション成果をだす
(Katila & Ahuja 2002)
・「知の探索 Exploration」「知の深化 Exploitation」
○「Exploitation 知の深化・活用」は、「今日の飯のたね」のために使う。
「明日の飯のたね」を作るためには、「Exploration 知の探索」が必要。
・コールマン「強い結びつき」からソーシャルキャピタルが生まれる
グラノベッター「弱い結びつき」の方が情報が効率的に伝播される
・暗黙知を得るには「強い結びつき」形式を得るには「弱い結びつき」
○一緒にいないと学べないこと、会っているからこその「強い結びつき」
ツイッター等の「弱い結びつき」からの情報収集。
・「知の探索」のためには「弱い結びつき」
「知の深化」のためには「強い結びつき」
・バート「Structural Holes 構造的な隙間」商売の基本中の基本。
「構造的な隙間」に恵まれた人や組織の方がより得をする。
○学術と現場の間の「構造的な隙間」この間に立つ。
この本もそういう位置づけ。
・ゲマワット「CAGE」
進出先国と自国との間の4つの「距離」を測りリスク要因として分析
1)Cultural 国民性 2)Administrative 行政上
3)Geographic 地理的 4)Economic 所得格差
・ホフステッド指数:国民性の4つの次元
1)Individualism 個人主義 か Collectivism 集団主義
2)Power distance 権力の不平等の受入
3)Uncertainty avoidance 不確実性を避ける傾向
4)Masculinity 「男らしさ」の特徴
・コグート・シン指数では、日本はポーランドやイタリアと国民性が近い。
・自分の所属するグループ外部の人たちを一番信用しやすいのは、実は
個人主義であるアメリカ人(Huff & Kelley 2003)
・起業家やVCは、一定の地域に集中する傾向がある。
・知は人に根付いたもの。知識は遠くに飛ばない。
・世界の経営戦略論の研究者は「コンテンツ派」と「プランニング派」に
わけられる。
・不確実性が高いときは「リアルオプション」のような
小規模、段階投資が有効
・M&Aにおいても、経営者の意思決定は、とても人間臭いもの。
・科学理論にとって重要な条件は、その命題が「反証可能」であること。
・社会科学では、理論に使われる抽象的な概念をConstructと呼ぶ。
これらはあくまで頭の中で考える概念。
実証研究を行う場合は、コンストラクトをこの世で体現していると考え
られる変数 Variableをデータから作る必要がある。
●経営学に未来はあるか
・「経営学の研究って、本当に役にたつのだろうか」
○そう!これこそまさに、疑問に感じていること。
・経営学者の理論重視の傾向が、理論フレームワークの「サファリ化」という
結果に表れている
・90%以上の理論仮説が、理論家が「言いぱなし」の状態で、本当に現実に
即しているのか検証されなまま放っておかれている。
・経営学はあはり実学としての役割が重視されるべき。
たとえ知的に面白くなくても、実証研究に裏付けられた「定形化された
事実法則」を重視すべき。
・統計学は根本的に「平均」の概念に基づいた手法
「外れ値」となるような独創性こそが、その企業の競争力の理由かも
しれない。そのときにはガウシアン統計では分析できない。
・Evidence Based Management 実証研究で確認された経営法則、つまり
「定型化された事実法則」を企業経営の実践に応用する。
○この本すばらしい!著者もとても真摯で誠実な方だと思う。
この方の足元にも及ばないけど、自分も特定分野(ミクロなOB論、
その中でも「組織社会化論」)については、学術誌を読んで、
現場に向けて情報発信していこう!
○中原先生の授業「2013年 経営学習論」でも取り上げられていて、
読んだ文献がいくつかあった。
http://www.nakahara-lab.net/blog/2013/03/_2013.html
○Aランク学術誌:
「Academy of Management Review」(理論系)
「Academy of Management Journal」(実証系)
「Strategic Management Journal」
「Journal of International Business Studies」
「Journal of Management Studies」欧州
Bランク:
「Journal of Management」
と考えていいのかな。
AOMの学術誌は、定期購読しているから、これからも読もう!
http://aom.org/journals/
○あと、中原先生が読んでいる海外文献のリスト(教育、HR系)
http://www.nakahara-lab.net/blog/2010/04/post_1676.html
これも全部は無理だけど、自分が興味ある範囲で少しずつ追っていこう。
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