『日本のキャリア研究』

お薦めの本

『日本のキャリア研究』
 金井 壽宏 (編集), 鈴木 竜太 (編集) 2013年
(・引用/要約 ○関根の独り言)

『日本のキャリア研究:組織人のキャリアダイナミクス』

●まえがき
・現代は組織社会であるので、組織に長くいると、その組織に愛着をもつ
 ようになったり、しがらみを感じるようになったりする。
 組織になじむ組織社会化という側面と共に、同じ組織にいても、自分を
 貫くという個人化(Individuation)という側面もある。
・本書は、組織行動論やキャリア論の知見を基に、日本企業に勤める人々
 のキャリアに関する様々な問題を理解しようとしている。
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●キャリア発達における時間展望
・Gilbert(2006)によれば、人間だけが将来を展望する。時間展望があるので
 また来ぬ将来が不安にもなり緊張もする。同じ理由により夢や希望をもつ。
・パーソナルプロジェクトの階層構造の分析:
 左階梯法:Why なぜそのプロジェクトに従事するのか
 右階梯法:How どのようにしてそのプロジェクトを達成するのか
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●組織と個人のキャリアの関係-日本人の関係性のキャリア論
・キャリアは、他者との関係の中で構築され、他者との関係の中で、
 自身のキャリアを見出していく側面があるのではないか。
・キャリアドリフト:
  自分のキャリアに関する意識や関心が低く、状況に流されている状態。
  キャリアデザインの対語として示された概念(金井2002)
・将来のキャリアの見通しをきちんと持つことが、その組織への愛着や一体感
 へつながるといえよう。また逆に考えれば、組織への愛着や一体感をもつ
 ことで、キャリアの見通しがはっきりしてくるともいえる。
○ここで骨をうずめる覚悟をすれば、将来は見えやすくなるだろうな。
・日本の30代のホワイトカラーにとって、組織との関係がキャリアの状況や
 考え方に影響をもっている。
 長期雇用の傾向が強い日本において、組織との関係がキャリア形成において
 重要な要素である。
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●心理的契約と組織コミットメントの変化
・心理的契約は、時間の経過と共に逓減する。
 継続的コミットメントは、時間の経過と共に増加する。
 加えて、継続的コミットメントは、昇進によって非連続的に上昇する。
 情緒的コミットメントは、時間の経過による影響を受けない。
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●仕事による経験学習とキャリア開発
・ある専門領域での熟達は、領域固有の体制化された知識と、それをいつ
 どのように使うことができるのかの理解であるメタ認知、モデリングや
 類推といった課題や領域にとらわれずに幅広く活用できる一般的な
 方略が相互に組み合わさって獲得され、構成されている。
・時間的展望を持ち、過去から未来を意識しながら経験学習を活用することで
 さらに有効に経験から学ぶことができると主張したい。
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●職務設計がもたらすメンタリング行動
・メンター=より経験を積んだ年長者
・日本人のキャリアの在り方そのものが、メンターのような支援者を必要と
 している。
・教えてくれるコーチやカウンセラーとしてのメンターから、
 相互学習者(Colearners)としてのメンターへの変化。
・仕事の明確性、仕事の相互依存性が、一対多関係を促進する(麓2008)
・内的統制、親和欲求が高い人ほど、メンタリングを受けている。
 
・役割がはっきりするほど、メンタリングを受けやすい。
 仕事がはっきりしている人は、周囲が何をやっているのか、その人が抱えて
 いる悩みをわかってもらいやすい。
・一対多関係は、個人を取り巻く組織や職場によって促される組織的な
 メンタリングということができよう。
○面白い!「仕事の明確性」が、1対多でのメンタリングに影響する。
 新人への周囲からの支援を増やすには、新人がやっている仕事を
 はっきりさせて、周囲が関わりやすくすることなのかも。
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●人材育成方針がもたらす若手従業員への影響
・組織社会化戦術により、従業員はその役割に対し大きく二分される異なった
 反応を示す。
 所与の役割をそのまま引き継ごうという保管的役割反応と、
 既存の役割に何らかの変化をもたらそうとする変革的役割反応。
・意識的な働きかけではない、ある意味で成り行き任せの育成(個別的社会化
 戦術)は、場合によっては放任的なものとなり、成員の態度形成や仕事業績
 の向上には必ずしも効果的ではないと考えられる。
 逆に体系だった意識的な育成(制度的社会化戦術)は、仕事業績の向上に
 資すると思われる。
・誰にどのような権限があるのか等の人間関係にかかわる知識の学習は、
 組織に何らかの変化を起こすうえで有用である。
・パス解析の結果、「文脈的戦術(集団研修)」と
 「内容的戦術(今後のキャリア展望に関する情報の提供)」が、
 「環境学習」と「自己学習」に影響があった。
 「社会的戦術:連続的(役割モデルによるOJT)」は、「環境学習」に
 正の効果を示したが、その影響力は微弱であった。
 「はく奪的戦術」は、内容革新行動、職務業績、組織コミットメントに
 対して、負の効果を示した。
・集団研修の作用として考えられるのは、同期同士の相互作用によって、
 自然発生的に生まれるお互いの比較が、自分の特性を明確に認識させるという
 働きである。
・はく奪的戦術は、ネガティブな成果との関係が示唆される以上、あまり
 積極的にこの戦術を用いるべきではないかもしれない。
・キャリアの初期段階において、自社のキャリアパスをある程度示すこと、
 同期同士での接触を通じた比較によって、各自の強みの理解をはじめとする
 自己学習が促されることが、本研究で示唆された。
○この研究結果も使える!導入研修のあり方のヒントになりそう。
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●上司・同僚・同期による組織社会化プロセス
・Feldman(1977)の調査では、新人の受容感の感受が、平均約2.7か月で、
 有能感の感受の平均が約6か月であったことから、
 受容感(約2.7か月)→重要な情報の獲得→有能感(約6か月)という
 プロセスを提示し、組織への社会化が達成されると主張している。
・重回帰分析の結果「文化的社会化」に正の影響を与えているエージェント
 は、「同期サポート」の主効果のみであった。
 一方「職業的社会化」に影響を与えているエージェントは「上司サポート」
 と「同僚サポート」が「コミュニケーション風土」との交互作用によって
 有意となった。
・職場全体のコミュニケーションを取り合える風土が重要。
・上司とのコミュニケーションが増えるほど、職業的社会化が阻害される 
 という結果。
○面白いねー。どういうこと?
・職業的社会化の程度が高まるほと、離職意思が高まるという結果。
・若年ホワイトカラーの文化的社会化に影響を与える社会化エージェントは、
 同期のみであった。
 お互いの現状やエピソードを素直に話し合える同期との相互作用が、
 組織文化の解釈を促進させていると考えられる。
・コミュニケーションがとりやすい職場風土があり、上司との
 コミュニケーションが増えるほど、若年ホワイトカラーの職業的社会化が
 阻害されるという結果が示された。可能性として
 1)プレーに忙殺されていて、部下の管理に目が行き届いていない
 2)経験の場が少なく、上司の職務遂行能力が低い
 3)そもそも信頼関係が構築されていない
 4)部下への要求水準が高い といった仮説が考えられる
・職業的社会化の程度が高まると、離職意思も高まるという結果。これは、
 若年ホワイトカラーのキャリア志向の高まりを示唆していると考えられる。
 ただ、組織で育てられたという認識を抱く新人は、当該組織への恩返しと
 して、単なる組織への愛着ではなく、組織を背負っていくという意識
 (鈴木2007)を醸成することができるだろう。
○この研究、面白い! 特に「上司とのかかわり」が増えるほど
 「新人の職業的社会化」が果たされないという点。
 ここで挙げられた仮設の実証が、次の研究テーマなんだろうな。
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●管理職への移行におけるトランジション・マネジメント
・新任管理職が直面する諸問題
 管理職務の遂行にまつわる問題:
 1)日常のタスク管理
 2)戦略やビジョンの設定
 3)部下の活用や育成
 4)ネットワークの構築
 心理的な抵抗や障害:
 1)私生活への悪影響
 2)実務から離れる戸惑い
 3)不安
 4)孤独や憂鬱
 5)「管理職」への幻想
・新任管理者のスムーズな移行において、移行前に然るべき経験を積む機会
 があることが望ましい。
・新任管理職が陥りがちな心理状態や落とし穴など、彼らが移行期に直面する
 心理的抵抗や障害の実相についての事前情報を与えることによって、移行に
 際しての心理的レディネスを高め、リアリティショックの緩和につながると
 考えられる。
・新任管理職は、自分の上司に頼ることに抵抗がある。
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●キャリア発達課題がちりばめられたリーダーシップの旅
・持論(Practical theory in use)を編み出すには、経験の場だけでは足りず
 内省と対話と議論、ならびにできつつある持論を理論とすり合わせるための
 研修の場が必要。
・「70-20-10」リーダーシップが身につく場
 70%仕事上の経験 20%接した人との関係や薫陶 10%研修等の座学
・ユングは、45歳以降に真の個性化(Individuation)が始まるとした。
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『日本のキャリア研究:専門技能とキャリアデザイン』

●船舶職員候補生のスキル習得
●看護師のプロフェッションフッド
●芸舞妓のキャリア形成
・キャリア形成における顧客の役割
・顧客という従来の理論では着目されていなかった存在が、キャリア形成に
 積極的な役割を果たしている。
○これはあるよなー。俺自身は、営業担当の時、顧客に育ててもらったと思う。
●ハイテク産業における研究開発者のキャリア・ラダー
・日本のキャリアラダーの特徴は、ミドルエイジ(30代半ば)になるまで
 マネジリアルラダーを昇るかどうかがあいまいにされている点
●アイデンティティを活かすキャリア形成
・Ideal ジョブクラフティング
●ホテルワーカーの職業的コミュニティとキャリア形成
●フリーランスクリエイターのキャリア戦略とコンテンツ産業の構造
・フリーランスクリエイターは、下記構造を見出している
 1)業界の分業構造
 2)プロジェクト単位の契約方式
 3)契約書を交わさない慣行
 4)ICT
 5)業務の労働(知識)集約性
・フリーランスは下記実践をしつつキャリアを構築
 1)仕事のポートフォリオ構成
 2)人的ネットワークの(再)構築
 3)他者との差別化
 4)支援組織の活用
 5)事業形態の組織化
 6)契約の明瞭化
 7)脱下請け
・クライアント側の負担コストの大きさ
●シャイン教授のキャリアと創造的機会主義にもとづくキャリア論
・Planned happenstance「行き当たりバッチリ」
・次の節目に遭遇するまでは、流れの勢いに任せてドリフトする。
・組織社会化は、洗脳などといえばネガティブだが、会社の考えをやや強制的
 になってでも速やかに注入、説得したいという企図には、ポジティブに
 とらえると、新人が組織や仕事にうまく適応してもらうための「支援」で
 あるという側面もある。
・組織の側が信じるものに自信があるのなら、それを成員にしっかり伝えて
 いきたいと願う。そのための組織から個に対する能動的アクションが、
 組織社会化の諸施策である。
・組織社会化とキャリアアンカーというペア概念が興味深いのは、組織が
 自信をもって貫くものと個人が自信をもって貫くもののせめぎあいを、
 概念的にも実践的にも浮かび上がらせるからである。
・個人は組織に入れば組織化されるが、同時に個人は組織に入っても個人化
 (個性化)を断念するわけではない。
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投稿者:関根雅泰

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