『信頼の構造』山岸俊男(1998)
○集団主義社会(内集団ひいき)の日本では、所属集団内での「安心」はあるが「信頼」は無い。リモートワークを成功させるためには、「とりあえず相手を信頼する(Swift trust)」という高い「一般的信頼」が必要なのでは。
===
・信頼は、関係資本(Social Capital)である。
・本書のメッセージ:集団主義社会は、安心を生み出すが、信頼を破壊する。
・「内集団ひいき」の程度が特に強い社会を、集団主義社会と呼ぶ。
・「余所者」に対して、心を許さない傾向にあることは、人間一般に対する信頼が育ちにくくなる。
・今後の日本社会は、これまでのような集団主義的な、仲間内で固まって協力し合っていくやり方では、上手く機能しなくなる。
・他人が信頼できるかどうかを見分けるための感受性とスキルを身に着けた上で、とりあえずは、他人は信頼できるものと考えるゆとりを持つ。
・「不信」が生み出す巨大な無駄
・信頼が必要とされるのは、社会的不確実性の大きな状況。
・アメリカ人の方が、日本人よりも、他者一般を信頼する傾向が強い。
・高信頼者は「疑わしきは罰せず」的な考えの持ち主で、少しでも「怪し」そうな兆候が見えると、急速に慎重になる人間。
・信頼の区別
1)相手の能力に対する期待としての信頼:やると言ったことをちゃんと実行する能力をもっているか
2)相手の意図に対する期待としての信頼:やると言ったことをやる気があるか
・信頼概念のまとめ
・相手と自分の関係には、社会的不確実性が存在しないと判断することが「安心」
・信頼性は、信頼される側の特性。信頼は、信頼する側の特性。
・社会的不確実性の小さい安定した関係で生まれるのは、信頼ではなく、安心。
・安心は、注意や用心深さを必要としないが、信頼は、注意を必要とする。
・信頼が、究極的には、相手の自己利益に根差していると考える「根ざしアプローチ」
・信頼が最も必要とされるのは、社会的不確実性の大きな状態においてである。
・コミットメントは、互いに「心理的に」コミットしている、つまり互いに相手に「魅せられている」状態を指している。
・相手を裏切らないことが、自分の利益を保証する。
・社会的不確実性に直面した人々は、特定の相手との間に「やくざ型コミットメント関係」を形成しやすい。
・人間の社会には、意識的に自己利益を追求しない人間の方が、意識的な自己利益の追求者よりもうまくやっていける環境が存在している。
・一般的信頼尺度
ほとんどの人は基本的に正直である
ほとんどの人は信頼できる
ほとんどの人は基本的に善良で親切である
ほとんどの人は他人を信頼している
私は、人を信頼するほうである
たいていの人は、人から信頼された場合、同じようにその相手を信頼する
・やくざ型コミットメント関係は、「内集団ひいき」的に行動することが、互いにとって有利な結果をもたらす関係。
・日本においては「弱い紐帯」よりも「強い紐帯」のほうが、満足のいく職場を探すにあたって有効(渡辺1991)
・強い紐帯のコネの人物が「保証人」になってくれる。
・日本社会は、道徳的な人間こそが、アンフェアに(内集団ひいき)振舞うように求められる社会。
・低信頼者は、高信頼者に比べ、社会的不確実性に直面して、やくざ型コミットメント関係を作る傾向がより強いことが明らかになった。
・低信頼社会では、既存のコミットメント関係(特に家族の絆)を越えた自発的な集団や組織の形成が困難というのが、フクヤマやパットナムの議論。
・社会的不確実性が、コミットメント関係を促進するという理論的命題は、かなり強い一般性をもつと結論づけられる。
・人々のもつ一般的信頼のレベルが高い社会では、既存の関係から離脱しても、新しく受け入れてくれる関係がたくさんある。
・信頼は、遺伝子で説明することができない。
・学習理論の強化の原理は、信頼の説明にはあまり適しているようには思えない。
・信頼という形でのバイアスをもつこと自体が、有利な結果を生み出す社会的環境が存在している。
・高信頼者の方が、低信頼者よりも、他者の信頼性の欠如を示唆する情報に対して敏感に反応。
・高信頼者は、低信頼者よりも、相手の信頼性をより正確に予測できる。
・一般的信頼の高い人が、実は「お人好し」ではない。
・人間関係の中で、他人の心や性質を理解するすべに長けた賢い人。
・社会的不確実性と機会コストが共に大きい環境でのみ、他者の信頼性を見抜く能力(社会的知性)が必要とされる。
・社会的知性が未発達な人は「人を見たら泥棒と思え」と決めつけてかかる。社会的知性が十分に発達している人は、とりあえずはひどい人ではないと考えておこうとするようになる。
・社会的知性と、一般的信頼という2つの心理特性が、共進化する。
・信頼と信頼性とが共進化。
・社会心理学研究の中で、もっともしっかりと確立している知見の一つに、人間には接触頻度の大きい他者を好む傾向があるという知見があるが、この知見の一般性を考えれば、これは人々を内集団ひいきに行動させるための、人類の進化の過程で、遺伝子に組み込まれた特性である可能性が大きいのではないかとさえ考えられる。
・19世紀末から20世紀初頭にかけてのアメリカが、現在の日本が直面しているのと同じ種類の問題―安心を生み出すコミットメント型社会から、一般的信頼に基盤をおいた開かれた社会への転換の問題―を上手く処理して、現在の繁栄を築いたというザッカーの議論。
・やくざ型コミットメント関係は、安心を提供するメリットもある。
・他人を信頼する正直者が馬鹿を見ない、そういった人たちが得をする社会。そのようなユートピアは、人間の心だけが生み出すものではなく、適切な環境さえ整えれば、自然に生まれてくる可能性がある。
===
参考:中原先生のブログ
リモートワークの成功を導く、たったひとつの「貴重な資源」とは何か!?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/11949
参考:リモートワーク関連文献
https://www.learn-well.com/blog/2020/07/_200708.html
===
●講師ビジョン 島村さんからのメール
関根さん
おはようございます。リモートワークのブログ拝見しました。感想をお送りさせていただきますね。
一番心に残ったのが、
>他人を信頼する正直者が馬鹿を見ない、そういった人たちが得をする社会。
>そのようなユートピアは、人間の心だけが生み出すものではなく、
>適切な環境さえ整えれば、自然に生まれてくる可能性がある。
の部分です。
人の心や主体的な関わりだけで、信頼の有無が決まるだけでなく、環境やシステムで組織で働く社員間での信頼が醸成されるような試みが大切になってくるなと思います。
最近は、プロセスでなくパフォーマンス評価へのような世の中の論評が多いように感じるのですが、プロセスを見る努力を怠ってよいという話ではないなと感じています。
それは、プロセスをどう見るか、観察するかの中に、信頼が組み込まれているように感じるからです。
また、信頼とは、上司と部下という関係で考えた場合、上司視点で部下との信頼を考えることが多いのですが、部下自らが主体的に信頼を積み重ねる行動をとっていけるかが、よりリモートワーク環境時代において大切になってくる時代なのだと思いました。
関根さんのブログは、いつも旬なテーマを考えさせていただく機会となっています。ありがとうございます。
講師ビジョン
島村 公俊
(こちらこそいつもありがとうございます!)
コメントフォーム