○立教大学 中原研 院ゼミ 春休みの課題本
『希望の思想 プラグマティズム入門」大賀(2015)
はじめに
・プラグマティズムは、どんな問題でも解決できるような「唯一の正しさ」には到達しえないにせよ、その時々のトラブルを解決する上で有用な「それなりの正しさ」にはたどり着けるし、そのことが重要だと私たちに教えてくれる。
・「生き方としての民主主義」とは、自分たちの力でコミュニティを作り上げ、運営する際に必要とされる「態度」のこと。
1.プラグマティズムの誕生
・アメリカの哲学を学べば学ぶほど、そこには、相互の違いを尊重し、いい意味での「実用」性を重視し、合理主義といっても柔軟なそれが息づいていることが理解される。
・分析哲学:フレーゲ
・大陸哲学:ニーチェ
・「プラグマティズム」の提唱者 パース
・パースのプラグマティズムは、「実在」についての「真理」は、帰納的な方法によって把握し得るという、実験家や観測者の立場に立つ哲学。
・伝道者 ジェイムズ
・拡大した デューイ
・デューイは、二元論に対して批判的で、実験主義を重視。
・デューイにとって「知識」とはある問題をうまく解決するためのものであり、そのための「道具」なのである。
・その都度、うまく問題を解決できるものが「正しい」考え方であるとする。
・再発見者 クワイン
・ネオプラグマティズムが形成される上で、クーンの「科学革命の構造」は多大な影響を与えている。
・クーンの考え方は、プラグマティズムと共通する点を多く持っており、「古典的プラグマティズム」を再評価する際に重要な根拠となった。
・「唯一の正しさ」を追求する論理実証主義を批判。
・プラグマティズムは、究極の「真理」など存在し得ないと主張する一方で、それなりに「正しい」ものとしての「真理」を肯定する。
・ニーチェが言ったように、我々人間は強くない。
・何らかの「正しさ」にすがらなければ、人は生きていけないという自らの弱さを受入れ、超人ならぬ「凡人」として生きていく。
○ゼミでの意見交換
・この本で論じられているプラグマティズムの理解は、メジャーなのか、マイナーなのか?
・プラグマティズムそのものが、日本の哲学界では異端。
・アメリカの哲学では、プラグマティズムは主流。
・日本は、大陸哲学が大好き。ドイツ語ができないと、哲学をやっているとは言えない。
・ネオプラグマティズムは、分析哲学の流れが入っている。
・絶対、正しいものはない。
・他者には合理性がある。
・皆が合意できる真理であれば、真理と見なそう。
・どっちの世界の視点に立つのか。
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2.信じることを肯定する
・何かを信じた後に裏切られるくらいなら、最初から何も信じないほうがましなのかもしれない。
・ジェイムズは、経験されたそのまますべてを「実在」的なものと見なす。
・本人にとってそれは紛れもなく現に体験したことであり、どれほど科学的な観点から否定されたとしても、その経験を幻覚として退けることはできず、実在するものなのである。
・二度生まれ
○ゼミでの意見交換
・とてもアメリカ的な思想。
・それぞれが思うアメリカがあって良い。
・その人が持っている「善悪」の基準は。
・その人が乗っているお盆、ハコ(所属している組織等)の影響から逃れられない。
・ただ、そのお盆、ハコに影響されていることを自覚しにくい。
・唯一の真実はあるが、人には分からない、その弱さを前提にしているのが、プラグマティズムでは。
・プラグマティズムは、唯一の真実は無いと考えているわけではない。
・構造主義とプラグマティズムは相性が良い。
・ハコがマジョリティだと、分断が起こりやすい。
・マルチレベル分析で、ハコの影響が見える。
・統計分析の世界も、レビストロースに近づいてきた。
・ハコを乗り越えて、議論するにはどうすれば?
・「対話をしたい」と声をあげている人がいる(例:LGBTQ)その人達の声をまずあげてもらう。
・女性が自由になることは、男性が自由になること。
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3.生き方としての民主主義
・投票に行ったところで、何も変わりはしないという感覚を多くの人が持っている
・一票を投じたとしても、まるで大海に水を一滴たらしただけのようなもの。
・現代社会における重要な問題の一つは、政治や公共的な事柄に関わろうとする人々の意欲が大幅に減少してしまったことにある。
・「偏った」情報ばかりを受け取るようになり、自分とは異なる意見に触れる機会が減っていく。
・デューイによれば「公衆」とは、複数の人々に影響を及ぼすような状況に対し、協働で「制御」すべく形成されたコミュニティーのこと。
・ある行為が公共的であるか否かは、それがどれくらいの人々に影響を与えたかで決まる。
・フィシュキンの「熟議民主主義」に基づく「討論型世論調査」
・リップマンとデューイが問題にしたのは、コミュニティにおける人々の紐帯が解体され、バラバラな個人がただ寄り集まっただけの「大社会」が生まれたということ、そしてその社会において、人々の公共的な意識をいかに再生させるかということである。
○ゼミでの意見交換
・公衆参加の意識を、ツールから作っていく。
・政治的な関心を持つ習慣が、日本人には薄い。
・政治について語りづらい雰囲気が、日本にはあるのでは。
・政治に関わらなくても、自分の生活が回っていた(経済成長をしていたため)
・今後は、ベーシックインカム等の議論も必要。
・テクノロジー、メディア、教育が、民主主義に果たす役割。
・大学に来て、若者が、民主的な議論が出来ないことに、驚いた。
・大学のゼミの最初に「民主主義的な話し合い・決定にはコツがある」ことを伝えている。
・デューイは、教育学の祖。哲学では邪道と扱われている。
・哲学の本で、デューイが扱われるのは珍しい。
・メディアも大事だが、メディアが発信した情報を議論できる人を育てることが重要では。
・意思決定した後、集団が分断する。これはおかしい。
・政治と社会のつながり。
・ドイツでは移民の言語能力診断に「自分が支持する政党が勝ったことがラジオで分かる」という項目がある。
・教育だけでなく、社会の仕組み自体が、日本での民主主義的対応を阻害しているのでは(わきまえることを重視)
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4.共生と連帯のための原理
・英語で「正義」を意味する言葉は、Justiceである。
・いかなる状態がJust(=ちょうどいい)かという基準を意味している。
・ロールズが探求しようとしていたのは、価値観の異なる多様な人々が、その多様性が損なわれることなく、ある一つの「正義の原理」を共有するにはどうすればいいのか、ということであった。
・重なりあうコンセンサス
○ゼミでの意見交換
・ロールズ自身は、プラグマティストとは言ってない。
・ロールズは、アメリカの哲学者の巨匠。扱わないわけにはいかない。
・一つの国家を、頭の中で作り、分厚い本を書いた。
・冷戦後、共産主義に勝った。功利主義でいいんだ。ただ、格差については考える必要があると、ロールズが提案。
・努力した人が得るべき。プロテスタンニズム。
・アメリカには、貴族がいない。
・メリトクラシー、能力主義がアメリカでは発展。
・自分が乗っているハコによって、競争も規定されている。
・機会均等ではない。
・ロールズは、プラグマティズムにのっている。代表作は、「A theory of Justice」 Theではなく。
・一つの理論。これは、プラグマティズム的。
・一見公正な徒競走に見えるが、そうではない。
・自由に見える競争だが、箱の影響で格差が生じている。
https://www.facebook.com/jun.nakaharajp/posts/10222998237077180
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5.さらなる「連帯」へ
・世界中のすべての人々が連帯し、等しく同じ人間として生きられるような一つの社会を作り上げることができたなら、それはどんなにすばらしいことだろう。
・そうした理想の根拠として良く取り上げられるのが、人は誰しも生まれながらにして、人権を持つという考え方である。
・いったい私たちは、どのようにして、どれくらいの人々と連帯することができるのだろうか?
・心理的な距離によって、葛藤の強弱が変わってくる
・自分にとってより身近な事柄を優先させようとしているため、正義の原則との衝突が起きているからではないのか。
・拡大された忠誠心
・感情をベースとする結びつきは、洋の東西を越えた全ての人間のみならず、ヒトという種を越えた他の動植物に対して、更には自然環境やモノなどに対してすら、生じ得るのである。
・ローティは、ロールズが提示した「重なりあうコンセンサス」や「暫定協定」という考え方について、プラグマティックで歴史主義的であると評価している。
・というのも、それは哲学的な思弁によって、真理として打ち立てられたものではなく、その社会にとって「うまくいくもの」として用いられ、共有され続けた結果として理解できるからである。
・功利主義による正義論
・苦痛を感じることができる(=有感)かどうかが、唯一音判断基準。
・功利主義もプラグマティズムも、あるものがどのような結果を導くかという「帰結主義」に立っている。
・プラグマティズムであれば、ある行為(出来事)が、どれだけうまくいくかという「有用性 usefulnessを判断の基準としている。
・「成長それ自体が道徳的な目標」(デューイ)であり、行ってみればプラグマティズムは、目的なき進化を目指しているのである。
・ロマン主義を、プラグマティズムへの止揚したのが、ニーチェであり、ジェイムズである。ローティによれば、二人ともロマン主義を足掛かりとし、異なる多様な価値体系がより合わさって「世界」は成り立っているとの解釈を示している点で、共通しているという。
・プラグマティズム、功利主義、ロマン主義、いずれもが「多神論」的である。
・プラグマティズムの特徴の一つは、二項対立を解体し、そもそもそこには対立など存在していなかったということを示す点にある。
○ゼミでの意見交換
・真理は理解できないが、人間として前に進んでいこうという運動が、プラグマティズム。
・ローティのケア論を出していないことで、男性のプラグマティズムになっている。
・世話につながるような感情の動き:ケア
・今までは無償労働として行われてきたケアにフォーカスする。ケアしてきてくれた誰がいるお陰であることを自覚する。
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6.リベラルで民主的な社会へ
・プラグマティズムは「誰もが違う」という多元的な世界観を肯定する思想。
・唯一無二の「正しい」価値観(=真理)など、この世に存在してはいないのである。
・自然科学の命題においては、「○○である」という事実に関する命題と、「○○しなければならない」という価値に関する命題が区別されているから、自然科学は普遍性を備えているのである。
・ある事象を「うまく説明できる」
・その場において、上手く説明することができていれば、その解釈は「正しい」のである。
・隠喩が、世界を理解し、解釈するための契機となる。
○ゼミでの意見交換
・対話は最初は時間がかかるが、根付くと、物事がスムーズに進むようになる。
・対話の文化が根付くと、コストがかからなくなるのでは。
・「対話は、普通の会話とは違うコミュニケーションのやり方なんですよ」ということを、インストールしないといけない。
・「話し合い」のやり方も伝えないと、話しあいにならない。
・きっちりインストールし、習慣化しないと、対話は根付かない。
・コストがかかる上に、何も得られなかったと言うことになりかねない。
・クーンのパラダイム論
・incommensurability 通訳不可能性
・見ている世界が違う。
・対話が出来る人、出来ない人の断絶を生んでいく。
・対話の仕方を学んだ人と、そうでない人にも、対話をさせるのが、プラグマティズム。
・お互いを尊重する対話は、知的に高度な遊戯では。
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『プラグマティズム入門』伊藤(2016)
・現在では、プラグマティズムを広い意味で、実用的なものの見方とか実際的な生き方、「なんでも結果さえ良ければOK」という発想や行動のスタイルを指すような場合にも使われている。
・開かれた柔軟な哲学としてのプラグマティズム。
・プラグマティズムとは何かと言うことに対しては、プラグマティストの数だけ答えがある。
・このあいまいさは、プラグマティズムの強調すべき美点でもある。
・この思想は一般に、言葉の「定義」というものの意義を高く評価するべきではないと主張する。
・哲学としてのプラグマティズムは、反デカルト主義と、多元主義という二つの主張を持っている。
・思想家の2つの気質「堅い精神」「柔らかい精神」
・デューイにとって、民主主義とは、探究的な問題追及の姿勢。
・ローティは、プラグマティストとして、科学を文学の一ジャンルとみなした。
・パースは、アリストテレスに依拠した論理学の理解を打破し、現代論理学の始祖となった。
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