○「研修転移」と「自己調整学習」に関するメタ分析論文です。
===
Blume, Ford, Baldwin, and Huang (2010) Transfer of Training: A Meta Analytic Review. Journal of Management, Vol.36
・89の実証研究をメタ分析した。
predictive factors 予測因子(例:受講者の特徴、職場環境、研修介入)と、
それらと転移の間に影響を及ぼすmoderator factors 調整変数について検証した。
・Baldwin and Ford(1988)のモデルが最も引用されている。
彼らは、1907~1987の間の63の実証研究を分析し、モデルを提示した。
・本分析では、7つのリサーチクエスチョンを提示した。
・Same-source and same-measurement-context(SS/SMC)バイアス効果を統制した。
・Cohen(1988)のEffect size効果量の定義を使用:
Small 小さい効果量:.10
Moderate 中程度の効果量:.30
Large 大きい効果量:.50
・メタ分析の結果、SS/SMCバイアスが、常に変数間の関係を上昇させていた。例えば、環境と転移の関係において、SS/SMCバイアスありだと、効果量が.54で、バイアス無しだと、.23であった。
・受講者の特徴だと、認知能力(.37)Conscientiousness誠実さ(.28) 自発的参加(.34)において、転移と中程度の関係が見られた。
・neuroticism神経症(.19) 研修前の自己効力感(.22) モチベーション(.23)が、小から中程度の転移との関係が見られた。
・職場環境に関しては、Transfer climate転移雰囲気(.27) 支援(.21) Organizational constraints 組織制約(.05)が転移に影響していた。
・学習結果に関しては、研修後の自己効力感(.20)と、研修後の知識(.24)が、転移と関係していた。
・「有用性」の反応(.17)「感情的」反応(.08)は、転移と小さい関係が見られた。
・研修介入の影響については、Optimistic preview 楽観的予告?(.20) goal-setting目標設定(.08) Relaps prevention逆戻り予防策(-.06)という結果になった。ただ、これは少ないサンプル数から得られた結果なので、注意が必要である。
・調整変数の効果については、SS/SMCバイアスを統制し、分析した。
・Time lagについては、転移度が、研修直後に測定されたものだと、研修後の自己効力感との関係が、.38であったのに対し、しばらくたってから転移度が測定されたものだと、.11であった。時間差ができるほど、効果量は少なくなった。
・転移評価を本人が行ったものと、他者が行ったものでは、本人の方が高く出た。例えば、モチベーションとの関係において、転移度を本人が測った場合は、.33で、他者の場合は、.11であった。
・時間がたつほど、研修後の知識と転移の関係は弱まった。
・このメタ分析においては、受講者のCognitive ability認知能力が、転移と最も強い関係(.37)を持っていた。
・転移が、研修後すぐに測られた方が、関係が強く出た。
・Anderson(2003)は、decision-making意思決定研究を引用し、人は変化しないこと、行動しないこと、Choice deferral決断を猶予することを好むと主張した。
・転移を促す魔法の弾丸は無い。
・Burke(2006)は、逆戻り予防策を、研修最後に行うことは、受講生の疲労から、効果的でないことを示唆した。研修全般を通して、逆戻り予防策を考えた方が効果的であると提案した。
○このメタ分析の結果を参考にするなら、
・認知能力の高い(.37)受講者が、自発的に参加し(.34)
・研修前(.22)と研修後(.20)の自己効力感と、モチベーション(.23)を高めるような研修を実施し、
・研修後の知識(.24)がつくよう、しっかり学んでもらい、
・転移雰囲気(.27)があり、上司・同僚の支援(.21)が得られる環境に、送り返し
・転移度は、現場に戻ってすぐに測定すると、転移が促されるということかな。
○ただ、現場に戻ってすぐの測定も大事だけど、その持続(Maintenance)も必要なわけだから、そこはまだまだ考えないと。
===
Sitzmann and Ely (2011) A Meta-Analysis of Self-Regulated Learning in Work-Related Training and Educational Attainment: What we know and where we need to go. Psychological Bulletin, Vol.137.
・大人にとって、Self-regulate自己調整は、最も重要なAsset資産である(Porath &Bateman,2006)
・このレビュー論文では、Self-regulated learning自己調整型学習領域のフレームワークを提示し、それに基づいて、メタ分析を行っていく。
・自己調整型学習の研究領域では、複数分野の理論を活用している。
・369の研究論文を基にメタ分析を行った。
・自己調整プロセスの中で、メタ認知と学習戦略の相関が最も強かった(p=.83)
・学習との相関においては、Goal levels目標レベル(.44)自己効力感(.35)Effort努力(.28)Persistence根気(.27)が高かった。
・自己調整理論においては、16の構成概念が核にある。メタ分析の結果、そのうち9つの自己調整プロセスが、学習に強く関係することが明らかになった。
・図1 成人の自己調整学習のフレームワーク
・企業研修においては、講師主導の教室学習からシフトし、informal learning非公式学習における自己調整学習の役割について見ていく必要がある。
・職場学習のほとんどは、非公式なものである。オンライン情報を見たり、挑戦と失敗という経験をしたり、同僚との意見交換を通じて学んでいる(Brown & Sitzmann, 2011)。
・また、今後は、研修転移と自己調整の関係も明らかにする必要がある。
・今回のレビューでは、Action regulation theoryのみが、研修転移について扱っていた(Frese & Zapf,1994; Hacker,1982)。この理論では、職務設計と、研修中での従業員のメンタリティの変化が、研修転移につながるとしている。
○確かに、自己調整学習ができる人(自ら目標設定し、根気強く努力できる、自己効力感の高い人)であれば、研修という公式学習で学んだ内容も転移できるだろし、職場や自宅等での非公式学習でも、学んでいけるだろうな。
いわゆる「学び上手」=Self regulated learner 自己調整学習者 なのかも。
===
コメントフォーム