○転移のルーツを辿る旅(4)
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Fleishman,E.A.(1953) Leadership Climate, Human Relations Training, and Supervisory Behavior. Personnel Psychology.
・研修後、監督者が、現場に戻った後、リーダーシップ研修の効果について測定を行った。
・「Back-in-the-plant 工場に戻った後」のLeadership Climate リーダーシップの雰囲気(監督者の上司が作り出す)が、重要な変数であった。
・リーダーシップ研修は、社会的変化を起こす取り組みと見るべきである。
・予備調査として、3種類の質問紙調査を実施。
1)監督者自身が考えるリーダーシップ行動 Leadership Opinion Questionnaire
2)監督者自身が実際に行っているリーダーシップ行動 Leadership Behavior Description
3)彼らの上司が期待しているリーダーシップ行動
・2)については、オハイオ州立大学のHemphill(1950)を参照。
(Consideration配慮 と Initiating structure構造作りの2軸)
・本調査は、1つの会社の自動車(トラック)工場の122名の監督者を対象に実施。
・4つのグループに分けた。
1)リーダーシップ研修を受けてない 32名
2)リーダーシップ研修を、2~10カ月前に受けた群 30名
3)リーダーシップ研修を、11~19ヶ月前に受けた群 31名
4)リーダーシップ研修を、20~39ヶ月前に受けた群 29名
・122名の監督者、60名の上司、394名の従業員が質問紙調査に協力。
・結果、個人データ(年齢、学歴、経験年数等)は、監督者の態度、行動とは関係していなかった。
・監督者のリーダーシップ態度と行動は、上司のリーダーシップ行動と関係していた。
・上司が、Consideration配慮行動をとっている職場の監督者は、従業員に対しても、配慮行動をとっていた。
・研修前と後に取ったデータでは、「配慮行動」が、研修によって伸長した。(図1)
・最も最近、研修を受けた群の方が、研修を受けてない群よりも、配慮行動が低かった(図2)
・上司による「リーダーシップ雰囲気」が、監督者の配慮行動、構造作り行動と関係していた(図3)
・配慮行動が高い上司の元に戻った監督者の配慮行動は、著しく伸長した。
・従業員は、構造作りよりも、配慮行動を好んだ。
・リーダーシップ研修単体で変化をもたらすことは難しく、現場に戻ってからの「リーダーシップの雰囲気」が重要な変数であることが明らかになった。
・現場の文化を壊すような行動を個人が起こすことは難しい。リーダーシップ研修は、現場環境の社会的変化を視野に入れて実施すべきである。
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河野昌晴(1982)「学習の転移についての一考察」
・形式陶冶論は(Formale Bildung, formal discipline)は、19世紀から20世紀にかけて否定されるようになり、次第に実質陶冶論(Materiale Bildung)にかわっていった。
・形式陶冶論は、もともと新人文主義の教育のもとで主張され、意義付けされていった。古語(主にラテン語)と数学の2教科が、形式陶冶に役立つ科目として取り上げられた。
・教材を学習することにより、記憶力、思考力のような種々の能力を発達させようとした。
・能力心理学を背景にした精神や能力を発展させようとする陶冶論。
・実質陶冶論では、役に立つ実際的な教材を習得させ、その教材自体を活用(使用)させることに重きを置いている。
・形式陶冶論は、18世紀式の能力心理学にその基礎をおき「精神は一定数の能力から成り立ち、したがってこれらの能力は全体として教育せられ、しかもそれが生活の種々の境遇において一切の目的に対し同様に役立つ」(コルヴィン)と考えている。
・換言すれば、一定の材料による能力の練習は、全体としての能力の練習であり、その練習効果は、他のいかなる材料にも転移(Transfer)するということである。
・1960年頃から、実質陶冶から形式陶冶への回帰現象が見られ、この二元論の見直しがされるようになった。
・特殊転移(Specific transfer)説は、前から実質陶冶論と並行して認められていたが、もう一歩進んで、一般的転移(General transfer)の可能性も認めるようになったのである。
・この傾向は、ブルーナー(J.Bruner)の「教科の構造」論等に強く出ている。
・「前の学習が後の学習をより能率的にやらせる第二の方法は、便宜的に非特殊的転移、もっと正確に言えば、原理や態度の転移と呼ばれているものを通ることである。」(Bruner,1960 The Process of Education. Harvard University Press.)
・学習の転移(Transfer of training 訓練の転移)の回帰現象を、佐藤(1979)は、5段階に分けて、これら転移の間の関連性を図式化している。(佐藤三郎(1979)教育方法 吉田・長尾・柴田編 有斐閣双書.)
図
・形式陶冶論への回帰現象は、同時に学科カリキュラム(subject curriculum)への回帰現象を伴っている。
・1950年の後半から、60年代にかけて、新カリキュラムとして開発され展開された改革的なカリキュラムは、ディシプリン中心カリキュラム(discipline-centered curriculum)と呼ばれている
・ディシプリンは、従前、訓練あるいは規律の意味で用いられてきたが、ここに至って学問、時には学科の意味になってきている。
・転移理論は、能力を前提において、その能力が事象間でどのように転移するかを問題にしている。よって、それらに必要な望ましい能力を鍛える(ディシプリン)ことが重要な課題なのである。
・教育は、陶冶することにより、何らかの能力を身に付けさせようとしている。
*陶冶:(陶器を造ることと、鋳物を鋳ることから)人間の持って生まれた性質を円満完全に発達させること。人材を薫陶養成すること。(広辞苑 第6版 1955)
・そのために、一定の教材(educational material)を用いて教育するのである。
1)知識、技能を授ける事が教育であるとする立場
2)教育は、知識、技能を授ける事ではなく、結論に到達するための問題解決の過程(process)を教えることであるとする立場
3)探究(inquiry)の態度を身に付けさせることが教育であるとする立場
4)潜在能力(potentialities)を見出し、全人格的発達をはかるのが教育であるとする立場
・未成熟者が、成熟者として社会の一員になった時に、間違いなくより良き行動(behavior)がとれるような教育をしなければならない。
・ディシプリン(discipline)が、訓練(規律)、学科(学問)の両者の融合したものとして使われてくるようになったのは、この意味においてである。
・新形式陶冶論(20世紀後半の形式陶冶論)は、知識よりも学ぶ能力、一定の思考法や計算方法に習熟するよりも、一緒に思考し計算し得る能力、順応しているよりも、順応する能力を改めて意義付けようとしている。
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宮本光雄(1979)社会科教育における陶冶と訓育の統一
・フランスのコンドルセンは、アンストリュクシオンinstruction は、陶冶(知育)であり、エデュカシオンeducationは、陶冶・訓育を包含する全面的教育であると述べている。
・小川太郎氏は、学力の形成をはかるのが陶冶、人格の形成をはかるのが訓育と説明。
・陶冶が、知識、技能を形成することに関わる概念であり、
訓育は、意志、感動、信念、性格特性、行動、行為様式を形成することに関わる概念である。
・陶冶は学校という場所で、訓育は家庭という場所でやればよいという考え方も誤り。
・今後は、陶冶と訓育とを結びつけるべきである。
図
・1957年のスプートニクショックから、科学技術教育の遅れが反省され、半世紀以上アメリカ教育全般を支配してきたデューイの経験主義教育(直接的には、生活適応教育)に対する批判が高まり、教育革新の必要性が唱えられた。
・ブルーナーらの新しい教育理論により一層基礎づけられ、科学と教育の一元化を目指すカリキュラム改革等、教育改革の運動と研究が活発化した。
・1960年代の新社会科は、発見学習、探究学習によって、内容(知識、概念)と方法(知能、技能)を統一的に獲得させようとした。
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