○「自営業者」に関する論文
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David G. Blanchflower (2004)
SELF-EMPLOYMENT: MORE MAY NOT BE BETTER
NBER WORKING PAPER SERIES Working Paper 10286
NATIONAL BUREAU OF ECONOMIC RESEARCH
○豊富なデータを基にした経済学者による論文
・70か国のデータをもとに、Self-employment自営業者の情報を伝える。
・自営業になるかどうかの判断には、家族の果たす役割が大きい。(Laferrere & McEntee 1995)
・アメリカの自営業者は、賃金雇用者者に比べて、0.2~0.4のより多くの子供がいる(Broussard et al.2003)
・自営業を経験した人間は、賃金雇用に戻ることに難しさを感じる(Bruce and Schuetze 2003)
・ヨーロッパでは学歴の低いものが自営業になるが、アメリカではその逆である。
・ほとんどの国で、自営業者の割合が減ってきている。
・女性より男性の方が、自営業者が多い。
・アメリカでは、学歴があるほど、自営業者になっている。
・自営業が増えることで、マクロ経済的な利益があるというエビデンスは無い。
・More is not better.
・Who wants to be self-employed?
・9/10のWorkers労働者は、賃金雇用者である。
・ほとんどの国において、自営業者の割合は、10~15%である。
・「自営業になりたいか?」
・職務満足は、自営業者の方が高い。これはロバスト(頑健な)発見と言ってよい。
・人が、independence独立を楽しむのは、心理学者には知られている。Locus of control(内的統制)の仮説である。
・自営業者は、長時間労働に不満を感じている。
・Frey and Benz(2002)は「パネルデータ」と「自然実験」により、自営業になることが、人々を幸福にするという因果関係を明確に示した。
・自営業者は、自律と独立、柔軟性のコストとして、自身と家族に対してストレスを感じ、仕事から家に帰るときには、疲れ果てている。
・自営業者の2種:
1)従業員を雇用している自営業者:Job makers
2)従業員を雇用してない自営業者
・1)は、2)に比べて、より仕事、支払い、能力、仕事の種類に満足している。労働時間には不満、よりストレスを感じ、家族との時間が制限されている。
・自営業者は、Go-getters 自ら道を切り開いていく人 である。
・彼らは、動機づけられており、人生をコントロールし、人生に満足している。
・自営業は、tough work つらい仕事であり、talents 才能を必要とする。自営業は、全ての人に向くわけではない。
○この文献で引用されている論文を読んでいこう!
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David G. Blanchflower,D.G.& Oswald,A.J.(1990)
WHAT MAKES A YOUNG ENTREPRENEUR?
NATIONAL BUREAU OF ECONOMIC RESEARCH
Working Paper No. 3252
・イギリスでのデータ分析(1958年3月3日~9日に生まれた子供を、23年間に渡り追跡)の結果、
アメリカで提示された「Liquidity constraint hypothesis 流動性制約仮説」が、イギリスでも実証された。
・例えば、£5,000を受け取った若者は、2倍の確率で、自ら事業を起こす。
・先行研究で提示された下記仮説(例:Curran1986、Curran&Burrows1988)についても検証する。
下記の状況にある個人は、より、Self-employment自営業者になる:
1)過去に失業した 2)自営業の父がいる 3)子供の時にパートタイム労働をしていた 4)高い失業率の地域に住んでいる
・θは、Entrepreneurial ability 起業能力を指す
・分析の結果、下記が明らかになった。より自営業者になる可能性が高い個人は:
1)男性、子供がいる、妻が自営業者
2)父親が、25名未満の企業のマネジャーか、農家
3)学校に通いながら、仕事をしていた
4)労働組合に入ったことが無い
5)失業したことが無い
6)ギャンブルをしない
7)「高い給料」「外での仕事」「自分の手で働く」仕事を好む
8)子供時代(7歳の時の教師からの指摘)に「他者に敵対的」「受け入れられないことに対する不安が無い」
9)East Angliaの外に住んでいる
10)教育レベルが、OかAレベル
11)徒弟性に属していた
12)学校を出た後、複数の仕事についた
13)7年間は、引っ越してない
・低い失業率の地域に住んでいる個人ほど、自営業者になっている。
○「地域の失業率」が、自営業者になる可能性につながってるかも。比企郡やときがわ町の失業率はどのくらいかな。
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Laferrere,A.(1995)
Self-employment and Intergenerational Transfers of Physical and Human Capital: An Empirical Analysis of French Data
The Economic and Social Review, Vol. 27, No. 1, October, 1995, pp. 43-54
・1991年のフランス世帯調査のデータを使用
・5079世帯のうち、868名の男性が、自営業であり、Shopkeeper店主(230)Craftmen工芸士(528)小企業のオーナー、10名以上の企業のCEO(70)であった。
・Liberal professionals(医者や弁護士)は、自営業者から外した。
・失業の自営業者に対する影響を説明する理論:
1)Human Capital theoryでは、失業を否定的にとらえ、失業期間中は経験を得られないと考える。
2)Disadvantage theory(Evans & Leighton,1989)では、失業者は労働者として高い賃金を得られる職につける可能性が低いので、自営業を選ぶと考える。
・分析の結果、以下が明らかになった:
‐世代間で富の移行があった場合
‐親から住宅費の支援があった場合
‐父親が自営業者だった場合、義理の父が自営業者だった場合、
自営業になる可能性が高まった
‐高い教育を受けた場合
自営業になる可能性が低くなった
・家族の影響が大きかった
・自営業者は、失業者であることは少なかった
・人口2万人以下のRural area田舎地域で、自営業者が多かった。
○田舎での自営業者の多さに関する深堀は殆どなかった。この部分が知りたい。なぜ、田舎に自営業者が多いのか?農家は多そうだけど、今回の分析には含まれていないようだし。
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Frey,B.S. & Benz,M.(2003)
BEING INDEPENDENT IS A GREAT THING:SUBJECTIVE EVALUATIONS OF SELF-EMPLOYMENT AND HIERARCHY
CESIFO WORKING PAPER NO. 959 CATEGORY 4. LABOUR MARKETS
・自営業は、Procedural utility プロセス効用?を提供する。
・Outcome utility 結果効用?は、収入や労働時間である。
・人は、結果がどのように生み出されるのか、そのプロセスも重視する。
・西洋諸国では働く個人の約10%が、Self-employment自営業者である。
・ドイツのパネルデータ(1984~2000年)イギリスのパネルデータ(1991~1999年)スイスのデータ(1999)を使用。
・自営業者の職務満足度は高い。
・自営業になった人たち In-Moversの職務満足度が高い。
・自営業になることは、高い職務満足につながるというのは、Robust頑健なEvidence証拠であった。
・東ドイツでのベルリンの壁崩壊により、自営業者になる「自然実験」となった。
・それまでの東ドイツでは、自営業になるのは制限されており、1990年には、2.1%のみが自営業者であった。
その後、1993年には、7.3%にまで増えた。
・1990年以降に、自営業になった人の満足度はやはり高かった。
・自営業者は、独立を好み、Hierarchy階層を嫌うとしたら、それが職務満足に影響しているのではないか。
・階層のサイズが大きくなるほど、職務満足は下がっていた。ドイツでは、自営業の1/6に、イギリスとスイスでは半分に下がっていた。
・特に、企業のサイズが、200名~500名であると、職務満足が一番低かった。それより大きくなると給与が上がるためか、職務満足が少し上がった。
・Instrumental手段?的な側面:Job security職務の守られ度や労働時間
Non-instrumentalな側面:自身のイニシアチブの使用、仕事そのもの
・仕事のNon-instrumentalな側面が、職務満足に影響していた。
・自営業者は、やはりプロセス効用があるため、自営業でいることに満足していたという強い証拠と言える。
・本研究から、人々は独立そして階層が無いことを好むこと、そしてそれは、純粋に非手段的な理由からであったことが明らかになった。
・個人が何に価値を置いているかを理解する一助に本研究がなればと願う。
○この研究、すごいな~。さすが、Blanchflower(2004)で絶賛されていただけある。
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Benz,M.& Frey,B.S.(2004)
Being independent raises happiness at work
SWEDISH ECONOMIC POLICY REVIEW 11 (2004) 95-134
○Frey & Benz(2002) と、Benz & Frey(2003)の研究2つを併せ、経済学理論への貢献と経済政策への提言を述べている。
・Procedural utility プロセス効用
・人々は、どのようにOutcome結果が生み出されるのか、そのプロセスにも好みがある
・プロセス効用は、2つの源から生まれる:
1)Institution 機関:社会の中でどの意思決定が選ばれるのかを決めるルールや手続き(市場、民主主義、階層等)
2)Interaction between people人々の相互作用
・Self-employment自営業は、プロセス効用という概念の適用先として重要である。それは、2つの基本的意思決定プロセスを反映しているからだ。1つは、market 市場。もう一つは、hierarchy 階層。
・自営業者が、Autonomy自律を好むのは、そらが階層機関の対象になるより、良いことだからである。
・市場が、relative freedom 比較的自由を提供してくれているので、それがプロセス効用を産み出す源として、自営業者から、価値を見出されているのであr。
・「知識経済」においては、自営になるためのコストは下がっている。少ない資本でビジネスに参入できる。
・自営業の価値を、職務満足だけに置くのでは足りない。
・Life satisfaction人生の満足度に対する自営業の影響は、mixed複雑である。ポジティブもネガティブもある。
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Benz,M.(2008)
The value of doing what you like:Evidence from the self-employed in 23 countries
Journal of Economic Behavior & Organization 68 p445–455.
・なぜ、自営業者は職務満足が高いのかを検討する。
・「Self-determination自己決定」(Ryan and Deci 2000)へのニーズを人間は持っている。
・人々は、Outcome結果だけではなく、「Procedual utility 過程の有用性?」(Frey et al.2004; Benz 2008)も重視する。
・23か国すべてにおいて、従業員よりも自営業者のほうが、職務満足度が高かった。
・自営業者は、more interesting work より面白い仕事、higher autonomy 高い自律性があり、その2つが、職務満足度の高さの90%を説明している。
・日本では、より面白い仕事が、77%、自律性が、8.6%であった。
・「Doing what one likes 本人が好きなことをやる」それができるのが自営業者の職務満足度の高さに繋がっている。
・なぜ多くの人々が自営業者にならないのか?
・その理由として
1)参入障壁 2)初期投資費用 3)管理・規制 4)収入変動 5)仕事家庭葛藤 がある。
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○自営業者の「職務満足」は、ほぼ全世界的に(文化に関係なく)高いというのは、頑健な発見事実である。なぜ「職務満足」が高いのか、その理由は、結果効用(収入、労働時間)ではなく、「プロセス効用」であり、仕事を自分でコントロールできる「自律性」と、仕事そのものの「面白さ」である。これは、ミニ起業家を支援する立場として、勇気をくれる知見。その反面、職務満足の高さ故の「Work-family conflict 仕事と家庭の葛藤」が、自営業者の課題。これに関する論文も読んでいこう。
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