○高橋勅徳先生のブログ記事に紹介されていた「Journal of Business Venturing」の特集号とそこに引用されていた論文。(論文8本)
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Wilkund, Nikolaev, Shir, Foo, & Bradley(2019)
Entreprenuership and well-being: Past, present, and future.
・これまでの起業家研究では、企業レベルの成果(例:成長、業績)に焦点が当てられてきた。
・しかし、起業家は、深く、個人的で、信念ある理由をもって、企業活動を行っている。
・Well-being 幸せ・健康を、起業活動研究の成果変数として見るのはどうか。
・起業活動は、個人としてのfulfilment 達成感や満足の源となりうる。
・従業員や家族と言ったステークホルダーへのSpill over effect 効果もある。
・「Entrepreneurial well-being 起業家的健康」
・Happier peopleより幸せな人々は、仕事に満足し、心理的にも充足していて、健康で長生きする傾向がある。
・彼らは、創造的で生産的であり、社会的なつながりも維持している。
・こういった利点は、家族、職場、コミュニティーにも影響し、健康的な循環を作り出すことになるだろう(Helliwell et al.2013)
・新しい種類のLifestyle entrepreneurも出てきている。
○ここで紹介、引用されていた論文を読んでみよう!
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Abreu, Oner, Brouwer, and van Leeuwen(2019)
Well-being effects of self-employment: A spatial inquiry.
・Semi-urban locations 郊外地域に住んでいる方が、事業のしやすさと、生活の質の高さを得ている。
・健康は、Life cycle人生の周期によって違う。
・健康と年齢の関係は、50歳が最も低い点になるU字カーブを描いた(Stone et al.2010)
・発展途上国では、Urban area都会の方が、人生の満足度が高い。
・多くの高い収入の国々では、rural area田舎のほうが、健康度が高い。都会には、混雑、公害、犯罪、長い通勤時間等の弊害がある。
・Semi-urban areas (Suburbs 郊外、Rural fringes of large cities 大都市の田舎端、smaller cities 小規模都市、towns町)
・ロンドンの2つの地域における12名の自営業者へのインタビューを、2017年3月に実施。
・UKでの50,000名に対する7回の縦断的調査を、2009年から2017年にかけて実施。
各年において、13%が自営業者であった。毎年、8%強が、雇用者から自営業者に変わっている。
・rural 田舎を、住民1万人以下と定義。
・分析の結果、先行研究と同じように、自営業者の職務満足は高かった。
・住んでいる場所における通勤時間の短さ、在宅勤務、車での移動が、自営業者の健康に影響していた。
・Table5
・Table6
・Semi-urban トカイナカ(と訳してみる)で、隣近所が貧乏で無い場合、自営業者の幸せ・健康度が高かった。
・トカイナカは、事業がしやすい環境にあり、生活の質も良いと言える。
・自営業者の子供たち(10才~15才)は、人生の満足度が高かった。これは本研究で明らかになった重要な知見である。
・他の自営業者たちとの地域でのネットワークから、便益を得ている。
・比較的大きな市場へのアクセスの良さと、仕事環境の柔軟性が、トカイナカにはある。
〇この論文、いいね~。勇気づけられる!
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Bhuiyan and Ivlevs(2019)
Micro-entrepreneurship and subjective well-being: Evidence from rural Bangladesh
・マイクロクレジット発祥の地であるバングラデシュの貧しい3つの村で調査を実施。
・Fig2
・マイクロクレジット融資は、人生全体の満足度に対して、心配の増加を介しての間接的な負の効果があった。
・女性は、マイクロクレジット融資により、金銭的安心感と人生の達成感により、満足度が高まっていた。
・マイクロクレジットは、その理念である起業を通じた女性のエンパワーメントに貢献していると言える。
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Patel, Wolfe, and Williams(2019)
Self-employment and allostatic load.
・自営業者は、高いレベルのAL:allostatic loadを経験する。それは、Wear and Tear on the body 体の消耗につながる。
・Coping手法(問題焦点コーピング戦略)が、自営業とALの関係を減少させる手助けとなる。
・ALは、身体と精神の健康に影響を及ぼす。
・Allostasisは、Stability 安定を維持するために、ストレスに反応する身体の変化をさす。
・仮に、ストレスが解決されないと、心身が消耗する。
・研究1では、194名の自営業者と、1511名のWage earners賃金労働者のデータ(Nurse Health Assessment 2010-1012)を分析。
・自営業者は、賃金雇用者に比べ、ALが高かった。身体的健康をALが下げていたが、精神的健康には影響がなかった。
・研究2では、776名の自営業者と、8003名の賃金労働者のデータ(NHANESIII 1988-1994)を分析。
・Fig1
・自営業者は、高いALレベルであった。
・研究3では、35歳から86歳の間の174組の双子の縦断的(8年間をあけた)データ(MIDUS)を分析。
・Fig2
・自営業者で、Problem-focused coping 問題焦点型コーピング手法を使っている方が、ALを減少させていた。
○まとめると、自営業者は、ストレスは高まるけど、打ち手(問題に焦点をあてるコーピング手法)はあるってことかな。
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Kollmann,Stöckmann, and Kensbock(2019)
I can’t get no sleep—The differential impact of entrepreneurial stressors on work-home interference and insomnia among experienced versus novice entrepreneurs.
・起業家の仕事は、強い要求とストレスにさらされている。
・起業家になることは「最もストレスフルな仕事選択の一つ」(Cardon and Patel 2015)と言われている。
・Fig1
・起業家は、長時間労働、高い仕事負荷、役割不明確さに、直面している。
・5つの企業家的ストレスとして(例:Perry et al.2008) 金銭的リソースの欠如、ツールの不足、情報不足、他者からの支援の不足、時間のなさがある。
・122名の起業家に対して調査を実施。60名が経験ある起業家で、62名が初心者の起業家であった。
・Fig2
・経験ある起業家ほど、高いストレスに見舞われた時に、Insomnia不眠症になっていた。
・Fig3
・ストレスが高まると、初心者起業家のwork-home interference 仕事と家庭の干渉・妨害が高まっていた。
・それが、間接効果として、初心者起業家の不眠症につながっていた。
・今回の発見事実は、起業経験者の「Learning and coping学習による対応」説に反している。
・そこで、我々は、436名の自営業者のデータを用い、更なる分析を試みた。
・Theory of cognitive appraisal 認知的評価理論を参考にすると、起業経験者は、ストレスを「問題の警報サイン」と捉えるが、初心者起業家は、そのサインをとらえられないと考えられる。
・起業経験者のほうが、サインをより現実的な危険信号として捉えていた。
・起業家は、いったん仕事課題を脇に置くことが必要である。Mindfulness(その瞬間の経験に注意を向ける)はその一助になるだろう。
○俺だと、山歩きが、仕事のことを考えつつも、仕事から離れるリセット機会になっているのかも。
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Prottas and Thompson(2006)
Stress, Satisfaction, and the Work-Family Interface: A Comparison of Self-Employed Business Owners, Independents, and Organizational Employees.
・自営業者には、greater autonomy より幅広い自治もあるが、greater pressure より強いプレッシャーもかかる。
・USでは、80%、EUでは、84%が、組織従業員である。
・USでは、2005年に、10million がIndependent contractor 独立契約者であり、それは全勤労者の7.4%であった。
・自営業者の2種:
1)雇用している(Small business owners)
2)雇用してない(Independent contractors)
・Hackman & Oldhams(1976)のJob Charactersitics Model
・2002年に電話調査を実施。N=3,504
・従業員(2810名 80.2%)自営業オーナー(222名 6.3%)独立契約者(472名 13.5%)
・結果、独立契約者は、最も少ない時間働き、職務プレッシャーも最も少なく、職務自治レベルは中間であった。
・彼らは、自営業オーナーよりも、満足度が低かった。
・独立契約者は、1社のクライアントへの高い依存性を持つ場合があり、その際には柔軟性が制限される。
・自営業者の2種には違いがあった。
・自営業という選択は、Work-family conflictを減少させる効果的な手段とは言えないかもしれない。
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Veenhoven(1988)
The Utility of Happiness.
・19世紀、Utilitarian philosophers 哲学者は、幸福を、最高の善と考えた。
・幸福は、Quality of life 人生の質につながる。
・しかし、幸福が、人びとを、Contended cow 争う牛 にする可能性もある。
・幸福が、社会的つながりを弱め、自己中心的な個人主義を生み、孤立したエゴイストであふれる社会につながる恐れもある。
・Maslow(1968)は、幸福が、Self-actualizationに向けての成長を促すと考えた。
・幸福な人々は、不幸な人々より、よりエネルギッシュであった(Veenhoven 1984)
・Hettena(1979)は、よいムードにある個人は、より良い学習パフォーマンスを出していたことを明らかにした。
・幸福な人々は、コミュニティ組織により参加していた。幸福な人々は、友人や家族に満足していた(Veenhoven 1984)。
・アメリカでの縦断調査によると、幸福な人々は、結婚のチャンスに恵まれ、離婚する確率が低かった。
・不幸は、離婚を予測していた(Erbs and Hedderson 1984)
・社会は、より幸福な市民を、不幸な市民より増やすべきである。
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Nikolova(2016)
Happiness and Development
・GDPは、人間の発達を測るには不適切である。
・収入と富は、手段とみるべきである。
・GDPのような客観的なWell-beingの尺度だけではなく、人々がとのおうに状況を受け止めているのか、Subjective主観的な尺度も必要である。
・Subjective well-being(SWB)indicators 主観的な幸せ・健康尺度:感情、人生評価、人生の意味等。
・ラテンアメリカの例のように、急激な経済的成長は、人々の生活を不安定にし、不幸な人々を増やした。
・Paradox of unhappy growth
・Hedonic(Affective)well-beingは、特定のポイントで、実験法やサーベイ法で測定する。
・Cognitive(Evaluative)well-beingは、人生全般をふり返って、評価してもらう。
・Carol Graham(2009)の「Happy peasants and frustrated achiever 幸せな農民と欲求不満な成功者」パラドックス。
・収入は一定をこすと、幸福と関係しなくなる。
・SWBは、ただ一つの尺度ではないが、人間の人生の幸福やWell-beingを測定する方法の一つではあるだろう。
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