○立教大学院 中原ゼミで、Sさんが「資本主義」に結び付けた話をしていて興味があったので、読んだ本(一部は、日経新聞の書評を通じて出会った本)(ビジネス書 3冊)
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『資本主義の次に来る世界』 J.ヒッケル(2023)
More is Less 多い方が貧しい
・自然界の成長には限界がある。
・すべての原因は、高所得国の過剰な成長、とりわけ超富裕層による過剰な蓄財にある。これは不平等がもたらす危機なのだ。
・グリーン成長は存在しない。テクノロジーは、問題を解決しない。テクノロジーではなく、成長が問題。
・資本主義に代わる経済のビジョン。
・「脱成長 Degrowth」は、経済と生物界とのバランスを取り戻すために、安全、公正、公平な方法で、エネルギーと資源の過剰消費を計画的に削減する。
・現代は「人新世(アントロポセン)」ではなく、「資本新世(キャピタロセン)」と呼ぶべき。
・資本主義が誕生したのは、わずか500年前。
・資本主義の特徴は、市場の存在ではなく、永続的な成長を軸にしていること。
・1350年から1500年までの革命の時代、国民所得が、より均等に国民に分配されるにつれて、上流階級が封建制の下で享受していた富の蓄積は難しくなった。
・封建制が崩れた後に生まれた平等主義の社会は、上流階級による富の蓄積を阻んだ。
・囲い込み Enclosureによって、数千もの農村コミュニティーが破壊された。
・資本家は、生産手段をほぼ完全にコントロールし、小作農と労働者を、資本家に依存しなければ生きられないようにした。
・産業革命に向かう1500年から1800年代までは、世界史上際立って多くの血が流れた。
・1492年以来、上流階級は国内で囲い込みを始める一方、コロンブスのアメリカへの航海を皮切りに、強奪するための新たなフロンティアを海外で探し始めた。
・資本主義が台頭し始めた頃の数十年間、囲い込みと植民地化は、同じ戦略の一環として展開された。
・囲い込みは、国内の植民地化であり、植民地化は、国外での囲い込みだった。
○すげー、腑に落ちる。そういう背景があったんだ。世界史の断片的な知識がつながってくる。
資本主義が、資本蓄積のために成長を追求するなら、資源を強奪するための植民地が常に必要になる。
・ヨーロッパの資本家たちは、大量生産のシステムを構築したが、できあがった大量の製品を売る場所を必要とした。それが、植民地経済への介入で会った。
・希少性および飢餓の脅威は、資本主義を成長させる原動力になった。
・希少性は、上流階級が、富を蓄積するために(人為的に)作り出したものだった。
・富を生み出すには、人びとを貧しくする必要がある。
・民衆が頼みにしていた地域の支援システムを解体した。
・人間を自然界の支配者とみなす考え方を、最もはっきり示しているのは、創世記そのものだ。
・1500年代、ヨーロッパ社会では、教会と資本家が、アニミズム的思想の目覚ましい復活を憂い、その破壊に乗り出した。
・自然を機械とみなすF.ベーコン。
・デカルトは、他の生物をモノとみなし、生きた動物を解体した。
・デカルトは、精神を身体と分離させ、上下関係の確立にも成功した。
・喜び、遊び、自然な衝動など、身体的快楽を求めることは、全て不道徳とみなされた。
・仕事から、意味、喜び、才能、熟練が、次々に奪われていった。
○これを取り戻そうとしているのが、今なのかも。
・アニミズム的思想を捨て、二元論的に、自然をモノとみなすことを強制された。
・成長は、常に強奪のプロセスであった。
・経済は「使用価値(人間の必要を満たす有用性)」を中心に回っていた。
・資本主義で重要なのは「交換価値」だ。資本は更なる資本を生み出すために再投資されなければならない。ひたすら拡大し続ける。
・高所得国は、資源の大半を、グローバルサウスからの採取に頼っている。
・資本主義は、自然からの抽出に依存してきた。外から無料で価値を略奪し、お返しをしなかった。
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Less is More 少ない方が豊か
・人間の複利を向上させるための介入は、高レベルのGDPを必要としない。
・分配が肝心。最も重要なのは、万人向けの公共財への投資である。
・質の高い公的医療制度と、教育システムに投資。
・幸福度が最も高いのは、堅牢な福祉制度を持つ国だった。
・誰もが平等に社会財を利用できる、公平で思いやりのある社会で暮らす人々は、常に競い合うのではなく、社会的連帯を築くことができる。
○日本はどうか。
・最富裕層の所得を減らす政策は、すべて生態系にとってプラスになる。
・「脱成長」 所得と資源をより公平に分配し、公共財への投資を行う。
・そもそも成長を必要としない経済に移行。
○これを目指しているのが、地域での活動なのかも。
・大量消費を止める5つの非常ブレーキ
1)計画的陳腐化を終わらせる 2)広告を減らす 3)所有権から使用権へ移行する 4)食品廃棄を終わらせる 5)生態系を破壊する産業を縮小する
・2020年のコロナパンデミックで、誰もが必要不可欠(エッセンシャル)な産業と、不必要な産業の違いを知った。
・労働時間の短縮が、幸福感の向上、エネルギー消費量の減少につながる。
・労働生産性の向上がもたらした利益を、資本家が横取りした。
・不平等を減らすことは、生態系への負荷を減らす強力な手段になる。
・資本主義は、絶え間ない希少性の創出を軸として組み立てられたシステム。
・成長志向のシステムの目的は、人間のニーズを満たすことではなく、満たさないようにすること。
・最富裕層の経済力の強化は、そのまま彼らの政治力の強化につながった。
○Woke Capitalismにつながる。
・資本主義には、反民主主義的な傾向があり、民主主義には反資本主義的な傾向があるのだ。
・アニミズムは、徹底的にエコロジカルである。
・人は、木と共に過ごすことで、より人間らしくなる。
・樹木、菌類、人間、細菌の相互依存関係。
・資本主義は「与えるより多くとる」という包括的な原理をよりどころにしている。
・「リジェネラティブ農業」環境再生型農業
・高所得経済は、本当に永遠に成長し続けなくてはならないのか?
・疑問を持つことは、何より強力である。
○この本すごい。最後に目頭が熱くなってきた。
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●参考:『スモール イズ ビューティフル』 シューマッハー(1986)
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『強欲資本主義は死んだ ~個人主義からコミュニティの時代へ Greed is Dead』 P.コリア―、J.ケイ(2023)
・唯一の救済策は、大都市のエリートが権力とリソースを、地域社会に移譲すること。
・土地の周りにたまたま杭を打つという幸運に恵まれた祖先をもつ
・個人の権利を主張すれば、人びとの連帯は損なわれる。
・M.サンデルが言い続けてきたように、もはやお金で買えないものはない。
○サンデル教授の本、読んでみよう。
・社会運動の主張の中心には「権利の言葉」があった。それは連帯の精神を損なうことになった。
・目の不自由な人が電車に乗るのを助けるとき、私達がそうするのは、その人が権利を持っていて、それに対応する義務を私達が負っているからではなく、「まともな人がすべきことをしているだけ」だ。
・セレブたちが選ぶ大義は、若い観客から尊敬のまなざしを集めるものに向けられており、自分達の周りのコミュニティのニーズに向けられたものではない。
・パンは、独占的に供給されるべきではなく、地域のニーズをよく知る複数の生産者に意思決定を分散させるほうが、パンの安定供給のためには、最良の方法
・市場経済ではすぐにフィードバックがある。
・トップダウン型の管理は、分権化された意思決定よりも効率的であるというテクノクラートたちの幻想。
・M.ヤング(1958)の「メリトクラシー」は、社会風刺の作品。2033年に描かれたという設定で、社会的地位が生まれによってではなく、才能によって決まる社会を「ディストピア(暗黒の世界)」として描いたもの。
○これ読んでみよう!
・人間は、本質的に社会的な生き物である。社会に参加しない人は、獣か神かのどちらかである(アリストテレス「政治学」BC330)
・人間は利己的で賢いから成功するのではなく、社会的であるから成功する。
・人間はどこでも、特定のタイプの社会、つまり愛と友情と協力と学習に満ちた社会を作るように生まれついている。
・効果的な民主主義は、代議制である。
・知識経済においては、優れたビジネスとは、パーパス(目的)を持つコミュニティーのことであって、財産をもつコミュニティーのことではない。
・ホラクラシーは、流行したが、その影響は長続きしなかった。
・ビジネス組織では、多元性と規律の両方が必要なのである。
・参加型民主主義をビジネスの分野で主張する者は、過ちを犯している。その過ちは「強欲の勝利」「権利の文化」「アイデンティティの政治」の3つを融合させたもの。
・物理的な近さが、より質の高い人間の交流を可能にする。
・金融は、常に地域から始まっている。
・生産的であるための能力には、人びとが帰属する場所に生産的な仕事を持ってくることと、地域の人たちに仕事をこなすためのスキルを身につけさせることの両方が必要である。
・偉大な都市を作るためには、偉大な大学を作り、そして200年待つことだ。
・大学の存在は、地域文化の意識の高さに貢献しており、大学関係者でなくても才能ある人々を引き付ける。
・場所は重要。活気ある場は、それ自身、持続するものである。
・友好的で助け合う隣人関係は自然な姿である。
・高齢者の介護ほど、小規模で地域的な取り組みに適した活動はないだろう。
・経済学者は「モデルを知っている」と思い込み、人を操ることに熱心になった。
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『意識高い系資本主義が、民主主義を滅ぼす Woke Capitalism』C.ローズ(2023)
・日本にも浸透しつつある「ウォーク資本主義」。それは「意識高い系」に偽装された新自由主義。
・(高額の寄付をしている)三木谷氏は、2022年12月、高所得者への税負担増に対して反対を表明。
・「トップにいる人達-圧倒的に白人、男性、富裕層、高学歴者が占める‐は、何かをあきらめることを求められていない」
・ウォーク資本主義とは、現代の封建制度の延長にあり、法的権限だけではなく、道徳的、政治的権限をも、企業に譲り渡す制度である。それが、進んでいるのは、脱民主化の方向である。
・とりわけグローバル企業には、ウォークになろうという特に顕著な傾向がある。
・新型コロナ対策へのウォーク企業の寄付は、はした金に過ぎない。
・新型コロナは、億万長者の富裕層には、恩恵となった。
・Stay woke「目覚めたままでいよう」は、黒人が白人至上主義の仕組みについて意識し続けることを意味していた。
・それは、アフリカ系アメリカ人に対する人種差別と警察による暴力に限定されるのではなく、社会の不公正全般に対する意識という意味にまで及んだ。
・しかし2015年ごろから、Wokeという言葉は、政治的問題に対する自己中心的な立場を自慢する人々とを、特に白人を批判するためにも使われるようになっていた。
・ビジネスによるCSR社会的責任の導入は、はなから資本主義経済システムを強化するものであった。
・社会的責任を負えば「介入する理由を政府に与える」ことを未然に防ぐことになる。
・「不平等は、異なる二つの人類(超富裕層のエリート階級とそれ以外の人達)がいると考えることでしか正当化されないところまで来た」
・億万長者や大企業が世界の富を一層ため込むグローバル経済では、平等という民主主義の約束が犠牲になっている。
・企業が政府の機能を掌握すべき。そうしなければ、自身が利益を得ている不平等を可能にするシステム(=資本主義)が破壊される危険性がある。
○資本主義社会で、金持ちになれない(不平等さ)のは、個人の責任であると考えるのが、新自由主義。おそらく、ここに「能力主義 メリトクラシー」の考えた方も関わってくるはず。メリトクラシー本も読もう。
・トリクルダウン経済学はまやかしであり、所得は低所得者から高所得者へと移転するので、結果はまったく逆になる。
○賃金をおさえておくことで、低所得者(労働者)から、高所得者(経営者)へとお金が流れる。
・人目を引く慈善活動は、資本主義がもたらす構造的問題から注意をそらし、寄付をしたCEOや億万長者を、善人に仕立て上げるには、うってつけの方法である。
・アマゾンによる租税回避。GAFAMといった世界的大企業は、法人税のがれのならず者たち。
・アマゾンの職場は、刑務所のよう。
・アマゾンの事例は、ウォーク資本主義の明らかな矛盾の一例。
・彼らの活動によって、環境や社会的平等に害が及んでいることを認めずに、そもそも富を蓄えることができたのは、その活動のお陰だというのに、社会に何かを還元するというジェスチャーを行う。
・アマゾンのベゾスの寄付は、超富裕層の個人的な気まぐれや気質が、世界市民の未来を定める、新たな「私的国家」が発展する兆し。
・ウォーク資本主義は、金権政治 プルトクラシー、すなわち富裕層による政府の延長線上にある。
・CEOの政治的権威は、経済的力によってのみ正当化される。
・将来消費者の大半を占める若い世代に対し、好印象を与えられる。
・ウォーク資本主義は、企業の商業的利益や経営者個人の財政的利益を脅かさない政治問題にして関心を示さない。
・所得の不平等との対峙となると、道徳的な正義は、急にどこかへ行ってしまう。
・政治的な抗議運動や反対意見に商業的な価値がある。
・マクドナルドのような企業の見せかけの政治的アクティビズムは、ほとんど利己的なものである。
・資本主義は、奴隷制の上に成立した。
・資本主義の下で送る現代生活の中心的特徴である不平等。
・不平等は、階級主義と人種主義の結びつきに根差している場合が多い。
・「多くの黒人を貧困に陥れたシステムを、皆が一緒に変えていくこと」
・政治的空間では、全ての人に同じように発言の機会があり、フラットな権力構造で決定が行われるのに対し、経済的空間では、権力は資本の所有者によって握られ、決定は独裁的で、権力構造は階層的である。
○政治的空間の理想は、そういった民主主義だけど、今の日本の国政では期待できないかも。
・メロン、ロックフェラーら泥棒男爵が築いた巨万の富は、産業資本主義がもたらした不平等の時代の幕開けを告げていた。
・優れた人間が大衆に代わって意思決定を行う。
・金持ちには、公共の利益を決定する権利があるという考え方。
・1990年代以降、技術の進歩による労働生産性の向上が、労働者の賃金の上昇に結び付かなかった。
○これは、日本だけでなく、世界的な傾向だったんだ。特に、90年代以降は、小泉・竹中の新自由主義が広まってたし。
・慈善事業は、不平等につける膏薬のようなものであり、不平等を生み出したシステムを全く変わらないまま、存続させるための複雑な策略。
・一見慈善活動に見える彼らの事業が、従来の選挙過程を経る場合よりも、はるかにスムーズに政治権力や公共政策の実現へとつながる。
・企業は、経済的にラディカルな問題ではなく、社会的にラディカルな問題に取り組む。
・ウォーク資本主義に抵抗しよう、騙されないようにしよう。
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●参考:以前(2014年)読んだ「経済」本
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