○毎月第三金曜日の読書会議の課題本『ソクラテスの弁明』を読んだら面白かったので、読み進めたプラトンの本。(課題本を提示してくれた髭さんのお陰です。ありがとうございます!)(教養本7冊)
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『プロタゴラス ~あるソフィストとの対話』 プラトン・中澤務訳(2010)
●前書き
・ソクラテスは、36歳ごろ。対するプロタゴラスは、60歳近い。
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●本論
・知識を買う時のほうが、はるかに危険が大きい。
・スパルタ式の短い言葉づかいこそ、昔の人々が知恵を愛好するやり方であった。
・詩人たちが述べていることについて、彼らに質問することができない。
注
・ソフィストは、保守的な人々にとっては胡散臭い存在。
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●解説
・プラトンは、ソクラテスの刑死事件をきっかけに、ソクラテスを主人公とした対話篇形式の作品を書き始めた。
・ソクラテスが持っている知恵とは、知恵がないことの自覚だった。
・徳(アレテ―)とは、知識であるという結論にたどり着いた。
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『ゴルギアス』 プラトン・中澤務訳(2022)
●前書き
・弁論術教師 ゴルギアスによって、アテネにもたらされた。
・ソクラテスは、50歳くらい。ゴルギアスは、70歳に近い。
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●本論
・あなたのもとで学ぶと、わたしたちは、何を得るのですか。
・わたしは、論駁(ろんぱく)されるほうが良いことなのだと思っています。
・追従は、最もよいものを目指さずに、快いものを目指す。それは技術などではなく、熟練なのだ。
・不正をすることこそ、最大の悪。
・不正をして罰せられないことこそ、全ての悪の中で、最大にして一番の悪。
・ぼくと議論しているまさにその相手を証人にするのであって、その他おおぜいのことは放っておけばいい。
・もういい歳をした人間が、いまだに哲学を続けているなんて、滑稽なこと。
・幸福になろうとする者に、正義と節度の徳が生じることを目指すのだ。
・これまでに、市民たちの誰かをすぐれた者にしたことはありますか。カリクレスさんのお陰で、立派でよい人間になった人はいますか。
・説得や強制によって、市民たちをよりよくしてくれるもののほうへと、欲望を導かなければならない。
○ソクラテスさんが、近くにいたら、周りの人は、やっぱり大変だったろうな~。そんなに白黒はっきりつけられるものなのか。
注
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●解説
・プラトンは、40歳に近づくころに、「哲人王」の思想を抱くようになった。
・ソクラテスの哲学こそが、理想的政治に近づくための道であることに気づいた。
・徳こそが、究極の善。善とは、魂の調和。
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『メノン ~徳(アレテ―)について』 プラトン・渡辺邦夫訳(2012)
●前書き
・ソクラテスは、徳を職業的に教えるという発想には反対の立場にいる。
・ソクラテスは、66~67歳。メノンは、20歳くらい。アニュトスは二世政治家で、ソクラテス裁判の原告の一人。
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●本論
・徳(アレテ―)は、教えられるものでしょうか?
・魂が、以前にもう知っていたこと。
・探求することと学習することは、結局全体として、想起することに他ならない。
・徳は教えられないものなのではないだろうか。
注
・ゴルギアスの弁論術(レートリケー)では、他人の意見を受け売りで言ってよい。ソクラテスの対話(ディアレクティケー)では、相手が本心から信じる意見を語ることに始まり、その信じている意見について、ソクラテスが相手に質問していく。
・知識と訳したのは「エピスメーテー」。学問というニュアンスもある。
・知と訳したのは「フロネーシス」。思慮深さというニュアンスを含む。
・不思議さ、驚きの感慨は、メノンがこの対話で獲得した財産の一つ。
○確かに、この新鮮な驚き、不思議さを得られたら、ソクラテスさんとの対話が楽しくなるだろうな~。
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●解説
・『プロタゴラス』と『ゴルギアス』は、『メノン』を理解するための第一級の補助資料。
・適切な定義において「循環してはならない」という基本ルールを、メノンに分からせようとしている。
・メノンにとって「知る」とは、だれか「知者」がいて、その人から、教わって知るようになるという「伝わってゆく」というイメージでとらえられている。
○これが、まさに「導管モデル」なんだろう。
・パラドクスが出されても、若い人が精勤をやめずおじけづかないようにする必要が、ソクラテスにはあった。
○こういう気持ちと行動こそが、教育的配慮なんだろうな~。
・ソクラテス的な徹底的論駁、反駁を食らった若い人が抱く自然な「フラストレーション」を、逆にどう昇華させて、探求への積極的意欲が前面に出てくるように局面を一気に打開するかという問題が存在したと思う。
○確かにそうだよな~。
・ソクラテスは「知らない」と明確に言って、権威であることを最終的に放棄。
・徳は知識である。しかし「教えられるような知識」とは限らないとすることが可能。
・想起説は、対象を全く知らなくても、それでも探求できるのだと心理的に説き伏せる役割は果たしてくれる。
○訳者の心意気を感じる。
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『テアイテトス』 プラトン・渡辺邦夫訳(2019)
●前書き
・プラトンは、80歳で亡くなるまで執筆し続け、教育研究活動を行った。
・『テアイテトス』は、60歳くらいの作品。
・たえず考えて、必要に応じて、学習の方法と内容を改善してゆくことが、人間の宿命の重要な一部。
・ソクラテスは、69歳か70歳で、裁判にかかる寸前。
・テアイテトスは、天才的な才能を持つ数学者。10代半ば。
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●本論
・助産師ソクラテス。産婆ファイナレテの息子。
・自分では知恵を生むことができない。神が私に助産を命じて、自分で生むことをしないようにした。
・不思議に思うこと(タウマゼイン)は、知恵を愛する者に固有の経験。
・この世からあの世へ逃げること。それは、できる限り神に似ること。
・知識は、知覚でもないし、真の考えでもないし、真の考えに説明規定が付加されているものでもない。
注
・運動変化の分類 1)変化(性質変化)2)移動(場所移動)3)量的増減
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●解説
・ギリシャ人は、教育と学習の方法について、様々な工夫を重ねた人々であった。
・テアイテトスを、適切な形で「浄めて」、対話当事者として、本格的哲学探究をなんとか自力で遂行できるところまで、その実力を引き上げておかなければならない。
○厳しいけど、愛を感じる。哲学者は、知を愛する人だけど、それだけでなく、対話ができる相手を愛する人でもあったのかも。
・プラトンは、「知識は人に宿る」と考えていた。現代のわれわれは、知識が自分とは異なる知識システムの中のもので、自分はそれに時たまかかわっている(アクセスできる)だけだと考える傾向がある。
・ギリシャにおける若者の鍛え方は、「理解」に重きを置いたもの。
・プラトンのアカデメイアでは、幾何学などの厳しい練習のほか、特に哲学的問答の訓練を行った。
○プラトンが「形式陶冶の父」と呼ばれる所以。
参考:「研修転移のルーツ」より
マン(1979)は、西洋の教育は、ギリシャから始まると述べ、哲学者プラトン(BC427-BC347)を形式陶冶説の父であるとしています。形式陶冶を、mind 精神、知性の教育とし、プラトンの考えや弟子への指導は、まさにそれであったと考えたのです。しかし、彼の弟子であったアリストテレス(BC384-BC322)は、practical skills実用的なスキルの訓練を強調しました。実質陶冶につながる考え方です。遠くギリシャの時代から、形式陶冶と実質陶冶の論争は始まり、現代にも続いているのです。
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『ソクラテスの弁明』 プラトン・納富信留訳(2012)
○読書会議の課題本。髭さんお薦め。
●前書き
・ソクラテスは、人々と街角で「徳」をめぐって対話を交わす人生を送っていた。
・70歳になっていた前399年春に、不敬神の罪で告発され、死刑の判決を受ける。
・ソクラテスの語りに耳を傾けている自分の姿を想像。その場で票を投じなければならない。あなたは、どんな目にあい、何を考え、どう行動するのでしょうか。
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●本論
・その人が自分では知恵があると思っているが実際はそうでない、ということを当人に示そうと努めました。
・誰が、彼ら(若者)をより善くするのだろうか?
・死というものを、誰一人知らない。
・あの恥ずべき無知、つまり知らないものを知っていると思っている状態。
・私が憎まれているというまさにそのことが、私が真実を語っていることの証拠。
・(ソクラテスのような)こんな者は、もうあなた方の前には簡単には現れないことでしょう。
○ほんとそうだったんだろうな。だから、プラトンは、ソクラテスの姿を残そうとしたんだろう。
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●解説
・哲学者(知を愛し求める者)として生きる生き方と、弁論家、ソフィストとして生きるし方との区別が、問題の焦点。
・なんとなく「分かっているよ」と片づける人は、本当にはわかっておらず、自己認識がないままに、曖昧なまま進歩もなく、思い込み(ドクサ)の中で人生を送っていく。
○これ耳が痛い。
・無知(アマティアー)つまり「知らないこと(不知、アグノイア)」を自覚してない状態こそが、最悪の恥ずべきありかた。
・実際には、若者の魂や徳を少しも配慮してないのに、自分がその庇護者であるかのような知ったか振った態度をとる彼ら告発者の「無知」こそもっとも醜い恥ずべき生き方である。
○うわ、これもきつい。自分も気を付けないと。
・だれであれ他者に問いかけることで、その人と自己の考え、そして生き方を吟味することであった。
○自分なら、ソクラテスに、どんな問いかけをされるだろう。
・プラトンは、前386年ごろに、学園アカデメイアを創立。後529年に閉鎖されるまで、900年にわたって存続することになる。
・現代の「大学」につながるその学問機関では、言論の自由が保証され、特定の政治信条に縛られることなく、客観的に問題を吟味検討することができた。
○プラトンの本を読んでみよう! まずは、『ソクラテスの弁明』の続き(クリトン、パイドン)を読む!
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『ソークラテスの弁明・クリトーン・パイドーン』 プラトン・田中美知太郎、池田美恵訳(1968)
『クリトーン』
・クリトーンは、ソクラテスと同い年の竹馬の友。
・大衆のすることは、何にしてもその場限りのこと。
・多数の者どもが、僕たちのことをどう言うだろうかというようなことは、そう気にする必要は全くない。
・いやしくも国法を破壊するような者なら、若い者や考えのない者を破滅に導くに決まっている。
○ソクラテス、すげー! 恥じる気持ち。自分の死より、大事なものを持っている。
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『パイドーン』
・哲学者は、平気で死んでゆこうとするもの。
・真に哲学にたずさわる人々は、ただひたすら死ぬこと、死をまっとうすることを目指している。
・哲学者などというものは、死人も同然。
○執行先生の言う武士道や、花の慶次の「しびと」にも通じるかも。
・生きている時に、できるだけ死に近くあるようにとつとめてきた者が、いざその死が訪れたときに嘆いたりしては、滑稽ではないか。
・学ぶということは、もともと自分のものであった知識を再把握することではないか。これを、想起とよんで正しいのではないか。
○ソクラテスの「聞き切る力」は、ほんと凄い。
・死が魂に近づくとき、魂は滅びることは不可能であると。
・不正確な言葉を使うことは、魂の中に一種の禍の種をまくものなのだ。
○だからこそ、言葉にこだわったってことなのかな。
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●解説
・「わが身一つを守りえずして何の哲学ぞや」というカリクレースの嘲笑に対して、ソクラーテスの与えた解答は「この世にいのち以上に大切なものがある」ということであった。
○これ凄いよな~。自分の死に方でそれを示せるか・・・。
・魂の世話こそ人生の最大の関心事なること、別の言い方をすれば、自分自身を大切にすること。
・『パイドーン』の中心問題は、魂の不滅性の証明。
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『饗宴』 プラトン・久保勉訳(1952)
●序説
・シュンポシオン sumposionは「共に飲む」の意。
・寛いで気持ちよく飲む。飲み食いは、肉体の栄養だけでなく、精神の糧。
・食卓における条理ある談話を愛好
・饗宴が催されたのは、紀元前416年。
・プラトンは、師のソクラテスの全貌を描出。
・1)5人のエロス賛美演説 2)ソクラテス―ディオティマの愛の説 3)アルキビヤデスのソクラテス賛辞
・エロスは、教育の原動力。
・ソクラテスこそは、教育の理論を実行に移した絶好の活例。ソクラテスは、プラトンにとっては、エロスの別名。
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●本論
・医術とは、充足と排泄とに関して体内に起こる愛的現象の知識
・人間の性には3種あった。当時「男女(おめ)」と言って、男女の両性を結合した一つの性があった。
・ゼウスが、男女の真っ二つに切断。
○アンドロギュノス(両性具有)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%A1%E6%80%A7%E5%85%B7%E6%9C%89
・エロスは、滅ぶべき者と滅びざる者との中間に在る者。
・愛とは、善きものの永久の所有へ向けられたもの
・「酒は正直 oinos kai aletheia」 酒は本音を吐かす
・誰も、ソクラテスの酔ったのを見たものがない。ソクラテスは、二人を寝付かせてから起きて立ち去った。
○すげー、ソクラテス。
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○なぜ、こんなに面白いのか?
教育に悩んでいる姿。自分がどう生きるかを真剣に考えている姿。今の自分と同じと感じることができるからかな。
○自分なら、どんな問いかけを、ソクラテスにされたら、きついのか?
○自分達がやっていることで、2000年後の人達が語ってくれたら嬉しいことは?
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