【木曜日24-23】人的資本(1)

木曜日

【木曜日24-23】人的資本(1)

○「人的資本」に関する本(2冊)

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『人的資本の論理 人間行動の経済学的アプローチ』 小野浩(2024)

○日経の記事がきっかけで読んだ。読んでよかった良著。

・人的資本経営の正しい導入には、人的資本の正しい理解が欠かせない。
・人的資本理論は、18世紀までさかのぼる時空を超えた深みのある理論であり、今後も生き続けることは間違いない。

第I部 理論・基礎編

・人的資本とは、人間のもつ能力、才能、知識、体力を指す。
・人的資本理論は、人は「合理的に」物事を判断して行動するとみなす。

・人的資本の発展には、ベッカーの理論、ミンサーの実証という役割分担が大きく貢献している。

・Y(成果)=a(才能)+β(能力:向上できる技能やスキル)X(努力)+ε(運)

・大学教育の収益率は、平均値で見るとプラスになり、良い投資であることが実証されている。

・人的資本が、物的資本と異なる点は「企業は人的資本に対して、所有権を持てない」ということである。

・内部労働市場型(日本)では、主に「企業特殊的」人的資本が形成される。

・Thurow(1975)は、労働者が企業に勤め始めてから生産性を発揮するまでは、必ず企業内訓練が必要であるとした。企業は、必ずしも労働者の技能を求めるのではなく、労働者が効率よく訓練内容を自分のものにする能力(Trainability)を求めると説いた。

・ミンサー賃金関数は、教育年数と経験年数を関数にいれるだけで、賃金分散の50%近くが説明できてしまうという驚異的な結果を示した。

ln w(賃金)=a(才能)+θs(教育年数)+β₁X(経験年数)+β₂X(経験年数)²+ε(運)

・人的資本の陳腐化(Human Capital Depreciation)は多くの場合、知らない内に起きている。
・人的資本の経年劣化を防ぐためには、継続的な投資とメンテナンスが必要。

・Ben-Porathモデル

・風呂桶モデル

・Schultz(1975)は、教育がもたらす最大の恩恵は「変化に対応するちから」と論じている(松塚2022)

・Katz(1974)は、組織の中で求められるスキルは大きく3つあると論じた。

・コンセプチュアルスキルは、「変化に対応するちから」に近い。

・1970年代に、人的資本の「ライバル」として登場したSpence(1973:1974)の「シグナリング理論」

・労働時間の長さと昇進する確率には正の相関があることを実証(Kato et al.2013)
・「頑張る」は日本人を象徴する行動原理。日本の働き方は、インプット重視。

・「居眠り」は頑張りすぎて疲れた証として受け止められる。「甘えの構造」

・経済学が、人的資本という理論を生んだ傍ら、社会学は、社会関係資本(Social Capital)という理論を生んだ。

・何かで成功するためには、人的資本と社会関係資本の2つが必要であり、二つの資本には相互補完効果がある。

・両資本とも、投資することにより、収益を得ることができる。

・ブローカー役になるメンバーこそ、グラノベッターがいう「弱い絆の強み」を持った人である。

・なぜシリコンバレーは、テクノロジークラスターとして成長したのに、東海岸の128号線地域は衰退したのか?

○比企ら辺も「学習する個人が集まる地域(=学習する地域)」として、(b)のクラスターを目指したいな~。

・理論の優位性は、その説明力で決まる。

第II部 理論から応用へ

・人的資本の生産関数(成果=才能+能力×努力+運)は、成功の方程式と呼ぶことができる。
・(ただ)これは、ある特定の分野の成果に限定した話。

・目標を徐々にダウングレードするメカニズムを、Cooling outと称した。
・あきらめる最適のタイミングを見出すのが勝利の鍵。最適な辞め方(Optimal Quitting)

・女性の賃金が低いことは、万国共通である。

・幸せな人のほうが、生産性が高い。
・幸福度の高い従業員は、同時に生産性も高い。

○ミニ起業家の場合は、(自分がやりたい、好きな仕事をすることでの)幸福度が高いから、労働時間が長くなって、生産性も上がり(売上増)それが幸福度を上げるってのもあるかも。その反面、家族との時間が減るだろうから、そこの葛藤が出てくるだろうな~。

・外資系企業の方が、賃金の絶対水準が高い。
・外資系企業に就職する確率が高い人材とは、海外の大学を卒業した者、英語能力が高い者といったいわゆるグローバル人材と、高学歴、高スキルの女性である。
・外資系企業では、教育訓練を、選抜された人のみに与えるリワードとしている所も多い。

・(日本の)現行の賃金制度では、定年は絶対条件である。

・(シグナリングモデルも含まれる)教育のソーティングモデルは、人的資本モデルの延長(Extension)として捉えられるという考えが主流になりつつある。

・「どこで」学んだかよりも「何を」「いつ」学んだかが問われる。

第III部 ミクロからマクロへ

・世界各国の出生率は、例外なく低下している。
・女性の人的資本投資が増えた結果、女性の機会費用が高まったのと同時に、子供の「価格」が上昇した為、子供の「需要」が低下したから。

・日本の子育て制度も、北欧をモデルにしている。

・父親であるから与えられる「父親プレミアム」と、母親だから科される「母親ペナルティ」
・世間が称賛する男性像は、父親であるが、仕事を優先する男性。

・子供に遺産を残すのは、老後の世話を引き出す為。
・利他性。子供が幸せになれば、親も幸せになれる。
○あとは、自分が親にしてもらったことを、子供に返すっていうのもあるよな~。

・有効求人倍率と完全失業率の推移

・日本の人材投資額は、1998年をピークに減少。

・リカレント教育を伴う労働移動が進めば、生産性の向上につながると考えられる。

・最適流動性モデル Optimal Turnover Model 仮説

・流動性の低い労働市場を堅持し続ける限り、高い労働生産性は期待できないだろう。

・人的資本投資と、一人当たりGDP成長率には、正の相関がある。

・人的資本投資は、必ず物的資本投資の収益率を上回る。
・人的資本の減耗率は、年間38%までとも推計される。

・人的資本は、「変化に対応するちから」としても優れている。不均衡で、変化が起きていることを察知する能力。

・自己啓発活動について
○ミニ起業家にも聞いてみたい。

・従来の企業内OJTによる訓練の効果は限定的(宮川・滝澤2022)

・研修は、選抜された有望な人材のリテンション(引き留め策)とリワードとして扱うのが得策だと考えられる。
○人材の底上げが中心だった日本の企業研修で、上記期待に応えられる研修には、どんなものがありそうか。

・因果関係は、人的資本投資→生産性向上→賃上げであり、賃上げ(=人材投資)→生産性向上ではない。
・賃上げが生産性向上に結び付くという効果は限定的。

・ベッカー教授は「常に人的資本に投資せよ Keep investing in your human capital」と学生に伝えた。
○ミニ起業家にとっては、「人的資本への投資(=学習の継続)」と「社会関係資本への投資(=つながりの獲得と維持)」の両方が、必要になるだろうな~。

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『企業価値創造を実現する人的資本経営』 吉田寿・岩本隆(2022)

・資源は、消費されて無くなってしまうのに対し、
 資産は、投資をして資産化し、それらの資産を活用してビジネスにつなげる。

・持続的な賃上げのためには、労働生産性の伸びが不可欠。

・就業時間の10%程度は、OJTにあてている。この時間に対して支払われる賃金を、研修費相当として換算すれば、日本の人材育成投資は、先進諸国間でも決して見劣りはしないという見解もある。

・今のように「学び直し」が求められる時代には、OJTのみでは限界がある。

・人材マネジメントの変遷

・人事のパーソナライゼーションとは、「企業中心社会」から「個人中心社会」へのパラダイムシフト。

・資本主義とは、生産手段の「私的」所有と利用のための運用を基本とする経済システムのこと。

・人的資本情報開示に関する政府指針

・ISO 30414の基本は、11の人的資本領域のどの領域に、どのように投資をすることで、ROI:Return On Investment投資利益率を最大化できるかを考えることにある。

・人材版伊藤レポート

https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220513001/20220513001.html

・58メトリックの内、23メトリックを外部開示

・KGIとKPIの関係

・SAPでは、KGIとして「利益性」を置き、KGIに直接影響を与えるKPITとして「成長」を置き~

・人的資本ROI=売上高‐人件費を除く経費/従業員数×従業員1人当たり人件費 ‐1

・エンゲージメントスコアと、売上高営業利益率や労働生産性とが、統計的に正の相関があることが示された(リンモチのEXツール)

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投稿者:関根雅泰

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