○増田先生のセミナー「企業内での若者育成について考える」に関連して読んでいる本(2冊)
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『新しい働き方の経済学 アダム・スミス「国富論」を読み直す』 井上義郎(2017)
○本屋ときがわ町で、風間さんの蔵書から購入。
・生産性の上昇は、労働時間の短縮をもたらさない。
・生産性を、生産量の増加に使ってくるかもしれない。
・K.マルクスの「資本論」は、今こそ読み返されるべき古典中の古典と言っていい。
・近代社会科学そのものが、A.スミスの「国富論」から始まったといっても過言ではない。
・スミスの思想のカギを握るのは「分業」である。
・人々が自分なりの仕方で、社会に参加する機会を持てるということ。
・これが、人をそして社会を、貧困から遠ざける鍵になると考える。
・「人は何を失ったら貧困になるのか」を語ろうとした書物。
・富の本質を、必需品と便益品に求めた。
・必需品すら持てない存在として、人並みに思われないことを恐れる、精神面を含めた貧困。
・その人の持ち味において、社会を支えることができる。
・こうした参加の仕方を阻む制度が、徒弟制度。
・スミスは、徒弟制度を批判して、職業選択の自由を主張した。
・一番はじめに資本が投下されるべきは、農業である。
・農業、工業、商業(という順序)
・利益の追求を許しながら、それを公益につなげられるような「仕組み」が必要になる。その仕組みこそ、市場メカニズムに他ならない。
・「見えざる手」という言葉が「国富論」に現れるのは1回だけ。
・重商主義的な規制を排して、経済を「見えざる手」に委ねれば、人びとは余計なリスクを避けようとして、結果的に資本投下の自然な順序を回復させる。
・そうなれば、あとは人々が自分の得意に応じて、自分の職業を自由に選択していけばよい。それが、スミスのかんがえる分業社会、市場社会の姿である。
○「見えざる手」って、そういう意味で使われてたんだ~。好き勝手やっていても、神の「見えざる手」によって、秩序が保たれるぐらいの意味でとらえてた。
・資本主義経済とは、市場競争を原動力とする果てしない経済成長(資本蓄積)の過程である。
・競争を、自己の内面を深める契機として捉えようとするのが、Competition。収穫逓減が前提。
・競争を、自己を強化する手段として捉えようとするのが、Emulation。収穫逓増。独占を許す競争。
・規模の経済性は、「国富論」の時代に終焉をもたらすのである。
・エミュレーションの支配する時代が現れる。
○まさに、今のGAFAMの世界かもな~。
・社会的分業に加わることのできる企業は、それだけの規模に耐えられるごく一部の企業に、ますます限定されるようになる。
・企業が家族的な規律慣習の下にあったからこそ、資本主義が成立した、そう考えるべきかもしれない。
・株式会社のことの起こりが、そもそも株式所有を通じた労働者による経済参加の機会拡張にあった。
・寡占市場に属する企業のどれかで働くことが、人びとの職業選択における一般的な選択肢になっている。
・企業で働く以外の社会参加の仕方が、事実上きわめて限られている。
・ヨーロッパの社会的企業は、社会的排除が多くの場合、企業の労働現場、すなわち職場において起こることに、非常に敏感である。
・そもそも公共政策というのは、個々のニーズに合わせた個別サービスの供給には向いてない。
・アメリカとヨーロッパの混淆がなされているのが、日本の社会的企業の姿であり、それだけ、日本には社会的企業を実践しやすい下地があるといっていいように思う。
・匿名組合出資 事業の意思決定は、あくまで事業者、営業者だけで行うことができる。
・福祉、教育、環境といった分野に比重をかけ直した経済は、実は高成長化しやすい経済になるはずなのである。
・福祉、教育、環境といった分野に人とお金を回していくと、経済の体質はむしろ強くなるはずなのである。
・「国富論」が描く市場経済を支える企業は、基本的に小さな企業である。
・19世紀の工場は、多くが実は、独立した企業が、移動や交渉の費用を削減するために「一つ屋根」の下に集まって連携作業を行っているものだった。
○そうだったんだ~。今のコワーキングスペースにもつながるかも。
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『正規の世界・非正規の世界 現代日本労働経済学の基本問題』 神林龍(2017)
・私たちは、労働市場の全体像について「実は意外に知らない」と自覚することは重要。
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第I部
・現代に、私達を取り巻く公的制度の多くは、その出自を、直接戦前期に求めることができる。
・公共職業紹介事業が、思うように展開しなかった。
・情報生産という点で、営利紹介と落差があった。
・戦後改革を経て、日本的雇用慣行が形成されていったのが高度成長期で、明確に制度されたのが、安定成長期である。
・アベグレンの「三種の神器(終身雇用、年功賃金、企業別組合)」
・原著の中で最も強調されているのは、Lifetime commitmentであり、「終身保証」などと訳す方が適切
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第Ⅱ部
・日本の平均勤続年数は、最も高い部類に属する。
・11.8~11.9年と安定している。
・離職確率で見ても、解雇確率で見ても、長期勤続層での長期雇用慣行が衰退しているとは明確に判断できない。
・日本的雇用慣行は、全面的に崩れ去ったわけではなく、正社員の世界は意外なほど、堅固に残存しているとまとめられる。
・国際的には、期限を定めて労働契約を結ぶ被用者を「非正規雇用」とみなし、期限の定めのない労働契約を結ぶ「正規雇用」と対比することで、概ね一致している。
・週35時間未満という区切りでの非正規雇用
・労基法の改正により、週労働時間の上限は、48時間から、40時間に削減。
・職場のコアと密接に関連するのは呼称上の正規、非正規の区別であって、労働契約上の有期、無期の区別ではない。
・日本において「正規の世界」と「非正規の世界」を分かつ分水嶺は、職場で「正社員」と呼ばれるかどうかなのである。
・非正規の世界は拡大したが、正規の世界は、縮小しなかった。
・正社員比率が、四半世紀にわたって殆ど変化していない。
・非正規社員の増加は、インフォーマルセクター(自営業等)の減少で、帳尻を合わせた。
・インフォーマルセクターの就業者は、正社員と非正社員のちょうど中間的な位置になるかもしれない。
・インフォーマルセクターの就業者が、ワークライフバランスという意味では、比較的良好な就業機会を得ていると考えても大過ないだろう。
・1980年代以降の日本の労働市場は「被用者の世界」そのものがひたすら拡大し続け、インフォーマルセクターが担当していた領域を浸食していった。
・(裁判により)解雇をいったん無効とすることで、労使コミュニケーションを仕切り直させ、すみやかに秩序を回復するように主導。
・解雇権濫用法理は、労使コミュニケーションの正常化を促してきた。
・法規範の社会的安定性を判断する プリースト・クラインの50%ルール。
・解雇事件の勝訴率は、50%前後を推移しており、かなり安定している。
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第Ⅲ部
・日本にはもともと男女間には厳然たる賃金格差がある。
・正社員65%程度、非正社員制度35%程度という比率は、殆ど変わらない。
・大企業と中小企業とでは、賃金格差がある。
・賃金格差は、全体として、男性で拡大傾向、女性で縮小傾向にある。
・なぜ、自分の会社に比べて、隣の会社の賃金があがるのかを、一般従業員が理解するのは、それほど簡単ではない。
○ランチェスター的に言うと、「社長の実力」によるからだろうな~。
・欧米の労働現場では、職種Occupation、仕事Job、タスクTask、技能Skillが、厳密に区別される傾向にあるが、日本の人事労務管理では、これらの語は必ずしも厳密に区別されていない。
・最も多くの自営業が失われていたのは、最も低賃金の仕事であった。
・1980年代以降、継続して、仕事の二極化が進展したことは間違いない。
・総じて、シェアを伸ばしたのは、3つの非定型タスクで、シェアを減少させたのは、2つの定型タスクである。
・日本の特徴は、身体的非定型タスクの増加にある。
・FA化は、日本の場合は、むしろ定型タスクを削減し、非定型タスクへ労働力を振り向ける役割を果たしてきたことが示唆された。
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●自営業はなぜ衰退したのか
・近年の日本の労働市場の特徴である「正規の世界と非正規の世界の不釣り合いな連関」は、自営業セクターの衰退があって初めて成立してきた。
・ひたすら自営業比率を落としているのは、日本だけ。
・1981年時点では、27.5%。
・1985年時点では、25%。4人に一人が自営業セクターに属していた。
・自営業 Self-employed、Self-employment
・プッシュ仮説 失業者や低所得者が自営開業もしくは自営就業する
・プル仮説 好景気が、人びとを自営開業に惹きつける
・どちらが現実に妥当するかは定まっていない。国による。
・日本の自営就業は、景気動向との関係が弱い。
・景気循環とは別に、自営業比率は継続的に減少してきた。
・起業家としての自営業主の役割。
・Koellinger and Thurik(2012)は、OECD加盟22か国のパネルデータを用いて、自営業主比率が、GDPおn成長をもたらすことを、厳密なグレンジャーの意味で示している。
・開業時の資金(信用)制約が存在するか否か。
・人的資産の世代間継承の影響のほうが重要。(Dunn and Holtz-Eakin 2000)
・世帯の立地場所と自営就業との間に相関がある。(Genda and Kambayashi 2002)
・自営就業とは、自己の勘定(on their own account)で就業する人々をさし、必ずしも会社形態をとるわけではない。
・Masuda(2006)で議論されたように、地方自治体によって整備されている開業促進政策は、概して有効に機能していない。
・一般に自営就業者の平均所得は、被用者と比較すると低い。
・自営業者の満足度は、平均的に高い。
・「自分が自分のボスである」ことには、非金銭的報酬があることと矛盾しないという結論が、経済学的実証研究の趨勢である。
・発展途上国における自営業主は、より失業状態に近い状態。
・自営就業のデメリットの一つは、就業者の健康を害する可能性。
・自営業主は、おしなべて被用者よりも、メンタルヘルスを毀損している傾向。
・身体的健康に優れた人ほど、自営業を選択しやすい。
○心身の健康維持は、自営業主ほど気をつけるべき。
・自分で起業したほうが、親から譲り受けた場合よりも、主観的満足度が高い。
・自営業主の父を持った子は、長じたのち、自営業主を選択しやすい(Diamond and Schaede 2013)
・日本における自営業の衰退は、自営業主としての非金銭的な魅力が急速に衰えていることに一因があると推測できるかもしれない。
・正社員から自営業に転換することによって、健康状態は改善される傾向がある。
・自営就業は、正社員就業と比較して、抑うつ傾向が弱い。
・非正社員就業時の満足度が、正社員、自営と比較すると、低い。
・非正社員就業は、やはり自営就業より、劣位に置かれる可能性。
・身体的精神的健康状態は、やはり仕事からの主観的満足度と密接に関わっている様がわかる
・自営業就業は、正社員就業に比較して、高い満足度を得ている個人が多い。
・正社員から非正社員に転換することで、少なくとも普段の健康状態は改善される。
・自営就業の非金銭的報酬として、近年注目されつつあるのは、就業と家庭生活のバランスを取りやすいという側面である。(Lombard 2001,Hundry 2001)
・自営業世帯は、被用者世帯と比較すると多くの子供を育てている。(Allen and Curington 2014,Okamuro and Ikeuchi 2012)
・家庭生活を重視する個人が、自営就業を選択した結果、自営業世帯の子供が多くなるのであって、その逆ではないという解釈も、それなりの理屈には聞こえる。
○どっちにしても、自営業者は、子供が多いというのは、嬉しい知見。うちも、子ども4人。
・自営就業を、労働市場の中に位置づけることが、現時点では困難。
・自営業の生起継承衰退のメカニズムは闇に閉ざされている。
○このメカニズムの一部(地域でのミニ起業)を、比企起業大学の活動を通じて、明らかにしていきたいな~。
●参考:
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・「世界の掟」を形成してきた労使自治原則のゆらぎ
・使用者でも被用者でもない第三者(最低賃金制度、派遣法)が外から労働関係に介入する場面が増えてきた。
・派遣労働者は多い時でも、150万人には届かず、労働市場では、少数派の域を出ていない。パート、アルバイト、1159万人の1割強。
・100万人単位にとどまり、6000万人を数える労働市場の多数を形成しているわけではない。
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・自営業の衰退には、底がある。
・自営業セクター縮小の主要因は、業種の高齢化に伴う引退行動と考えられる。
・人手不足という現象そのものは、今に始まったことではない。
・パパママストアが競争相手だった時代は終わり、ある程度規模の経済などを享受している相手に競争を仕掛けることになる。
・トーゴーサンやクロヨンという言葉は、自営業世帯の所得捕捉が難しいことを指し、担税という意味で、自営業世帯は、社会的に不公平を生むと理解されてきた。
https://kotobank.jp/word/%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%A8%E3%83%B3-159686
・裏から見ると、自営業世帯には財政的にも余裕があり、ブラックボックスとしての能力は、人的にも金銭的にも小さくなかったことを示している。
・自営業セクターの枯渇は、清濁併せ呑む社会の緩衝材の役割を、どう評価するかという議論の必要を示唆している。
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