「企業内人材育成入門~人を育てる心理・教育学の基本理論を学ぶ」
中原淳編著 荒木淳子+北村士朗+長岡健+橋本諭 著
2006年冬にこの本を買って読んだとき、怖くなった。
いかに自分が不勉強だったか。
研修会社で仕事をさせて頂いた当時から、
いかにものを知らずに、教育研修について語っていたか。
恥ずかしくなった。
読み進めるのが怖くなる半面、新しい知識が得られる喜びや
「あ、これって、あのことだったんだ!」と、
断片的な知識がつなぎあわされていく喜びに、ページをどんどんめくっていった。
アカデミックな人たちに対する漠然とした憧れを感じたと同時に、
「もっと勉強しなくちゃ!」という焦りにかられた本。
参考書籍として提示されていた本は、できるだけ買った。
(この本を読んで刺激を受けたあとの講演
「なぜ新入社員研修は現場に反映されないのか?」
https://www.learn-well.com/blog/2007/01/post_34.html )
思えばこの本が、大学院で学ぼうと思った「きっかけ」かもしれない。
今回、改めてこの本を熟読した。これから先も数回読むことになるだろう。
自分の知識の度合いを測るための有効な指標となりそうだ。
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私が興味を持っている「職場でのOJT」に関連して、印象に残った部分です。
(・引用 ○関根の独り言)
●物語
・ナラティブモードの教材
現場の実務経験を積む前に、そこで起こる事柄をシミュレーションしておく
ことは有益だ。
・よい物語は、よい学習につながる可能性が高い。
○新人が職場に配属される前に、その職場で起こりがちなことを「物語」として
疑似体験させる。
●熟達研究
・熟達研究が明らかにしたもうひとつの知見としては「初学者は熟達者の仕事を
観察しているだけでは一人前になれない」なぜなら初学者は、熟達者の仕事の
「どこに注目すればよいか」が分からないからである。
○仕事を「やって見せる」際に、どこを見ればよいかポイントを伝えるのは、
やはり重要。
・初学者から熟達するのに、多くの人の支援を必要としてきた。
しかし、人はいったんある領域に熟達すると「自分一人で育った」と思いがち。
○「人脈マップ」の重要性が伝わらなかった研修参加者には、この気持があるのかも。
●現場の巻き込み
・応用力を修得する唯一の方法が“現場での経験”しか存在しない。
つまり、その大半をOJTに頼らざるを得ない一方で、そのための具体的方法論が
欠如している。
・OJTの成果をあげるためには、関係者全員(新人、上司、教育担当)が
協調的にコミットしていく状況を作り出す必要がある。
○少なくとも教育担当者から配属前にどんな教育がなされたのかの説明は必要。
それがなされていない企業が多い。
・「アクターネットワーク理論」現場の上司も研修の企画運営に巻き込む。
(傍観者や反発者とならせないために。)
・個人の学習成果が組織のパフォーマンス向上に結びつかない原因を、もっぱら
個人にあるとみなしてきた。
保守的な組織文化、硬直的な組織編成、偏った上司の評価、同僚の非協力的態度、
といった組織のパフォーマンス向上を阻害する問題については、人的資源開発の
範囲外とみなし・・・
○研修で学んだことが現場で実践されないのは、職場に要因がある。
参加者が研修で学んだことを「忘れてしまう」ことも大きいが。
●新人
・デシによれば「内在化」には「取り入れ introjection」と「統合 integration」
という2つの過程がある。
「取り入れ」とは、規範や価値をそのまま鵜呑みにして受け入れている状態。
規範や価値を自分なりに噛み砕いて消化している状態が「統合」
○新人が職場で学んでいく過程(自律型人材として)も「内在化」として
とらえることができるかも。
・セリグマンらは、これを「学習性無力感」とよんだ。
自らの力でコントロールできない状況に長く置かれると、
受動的で無気力となり、やる気を失ってしまうのである。
○入社直後の新人が「受動的」に見られるのは、
自らの力でコントロールできない状況(学校の教室や企業の研修室)
に長く置かれてきたから・・・
●学習環境デザインと正統的周辺化論
・OJT(仕事を通じた訓練)のような職場の学習環境をデザインしていこう
とする考え方や手法を「学習環境デザイン」とよぶ。
・インストラクショナルデザインでは「スキルや能力の向上」を学習ととらえる。
学習環境デザインでは、現場での活動に「参加すること」を学習ととらえる。
・学習を共同体での活動への「参加」と捉える点が、「正統的周辺参加論」
が、従来の学習論と異なる点。
○「正統的周辺参加」「学習環境デザイン」が、現場で新人を育てるOJT
のキーワードになるかも。
・「職場全体に若手を育てようという雰囲気があった」
人材育成には、企業文化が深くかかわってくる。
・「若手を育てようという雰囲気や企業文化」が失われつつあるのは、
職場における実践共同体(学習者のコミュニティー)の衰退を意味しているのかも。
・「若手を育てる企業文化」とは、職場の中にもう一度実践共同体をつくることから
始まるのかも。
○なぜ「職場における実践共同体」が衰退したのか?
・上司と部下の人間関係に着目する理論と手法が「メンタリング」である。
・メンタリングより幅広い人的ネットワークが(個人のキャリア開発にとって)
重要であると指摘するのが「発達的ネットワーク developmental network」という考え方。
○1対1のメンタリングは、教育者から見た視点。
一対多の発達的ネットワークは、学習者から見た視点と捉えることもできるかも。
・学習という活動のネガティブな側面。
共同体に「同化」していく。共同体から評価を得る。
・組織や部門にとって“正しい”行為や考え方を個人が身につけたときにのみ、
「学習」したとみなされる。
学習の評価において重要なのは、何が“正統性をもつ(legitimate)行為”
とみなされるかである。
「正統的周辺参加」という概念は、あくまでも共同体にとって好ましい
行為のあり方が学習を成立させており、絶対的に正しい学習は存在しない
という相対的な学習観を導き出した。
○新人が組織に「染まっていく」ことが、学習。
ここに新人は反発を感じ、次第に諦め、染まっていくのかも。
それでも、自分が新人のときに感じた疑念や怒りを持ち続け
実績を重ねて発言力が出てきたときに、それが組織を変える力となるのかも。
・「学習環境デザイン」や「正統的周辺参加」がビジネス現場に広まっていくと、
現場における学びは、素朴な現場主義「仕事は現場で学ぶもの」から脱却した
洗練された姿となる。
・人材育成担当者にとって、研修の企画運営という業務の重要性が低下し、
現場での学びを支援する業務の重要性が高まってくる。
○ここにLWが企業教育を支援できる可能性があるのかも。
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