○2冊とも「もっと早く読んでおくべきだった~」という本です。
『人事評価の総合科学』(高橋 2010)
○著者一人とは思えないほどのボリュームと、実証研究の多さ。実務家向けに、研究知見とその適用を分かりやすく示してくれている良著。
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第1部 人事評価の考え方
・評価の仕組みをみれば、組織の価値観が見えてくる。
・欧米の人事研究であれば「人事評価はもっとも研究実績が積みあがっている領域」である。その一方で、わが国における人事評価研究は、著しく少ない。
・人事評価=performance appraisal
・アメリカで生まれた最新の人材評価法に対して「人事考課」という古風な名称が与えられ、1930年代に広められた。
・「あるべき基準 ultimate or conceptual criterion」と、それを実際に評価、観察、測定していく際に使われる「実際の基準 actual criterion」
・重複部分を多くして、基準適切性を高める。基準の「不足部分」と「混入部分」を少なくしていくように、評価要素を工夫していくことが大切。
・BSCには、あるべき基準と実際の基準との関連性が、はっきりと映し出されれている。
・BSCの4つの視点の内で、もっとも数値化、指標化するのが難しいのが、学習と成長の視点。BSCを総合的に実践するときには、人材の評価が成功の要諦となる。
(参考:「BSC」関連本)
・日本の人事考課制度は、成績、情意(態度)、能力考課の3種類から構成。1969年に、日本経済団体連盟が提唱した「能力主義管理」がその大元である。
・Task performanceタスク業績と、Context performanceコンテクスト業績。公社は、役割外行動(例:OCB等)と関連。
(参考:「OCB」関連論文)
・絶対評価法と、相対評価法(employee comparisons)。相対評価法は、対象者の業績、能力全般という1次元に限ってみれば評価が安定し、絶対評価法より、信頼性が高い。相対評価法の一つ「強制分布法」は、評価の信頼性が高いことが報告されている。
・人事考課表を作成して評価を行っている組織では、ほとんどの場合、1920年代に開発された「図式評定尺度法」が用いられている。絶対評価の普遍形といえるもの。ただ、心理統計的な観点からは問題が少なくないので、過信すべきではない。
・はじめに人事考課表ありきではなく、職務行動を正しく観察し評価するためにフォーマットを構築していくという本来の目的に立ちかえるべき。
・成果主義多浸透してきた1996年以降に、MBOを導入している企業が多い。成果主義を実践する施策として、MBOが位置付けられてきた。
・MBOの中核をなす理論が「目標設定理論」。目標に関わって4つの要素が重要:1)目標の困難度 2)目標の具体性 3)目標の受容 4)フィードバック
・多面評価法(360度フィードバック)は、行動変容をもたらす効果の大きい人材育成施策である。
・顧客ベースのデータを含みいれることによってはじめ、360度フィードバックと呼べるのであって、上司、同僚、部下等の組織内部構成員で完結させる場合には、せいぜい「270度フィードバック」と呼ばざるを得ない。
・データをフィードバックした後のカウンセリングや、上司の精神的支えが非常に重要。評価プロセスよりも、フィードバックプロセスのほうが大切。多面評価法は、フィードバックセッションを実施することによってはじめて完結する。多面評価法では、フィードバックが命である。
・多面評価法の長所7つと、短所5つ(p111~117)
・心理測定論の観点でいえば「安定性」「評価者間信頼性」「内的一貫性信頼性」の3つの信頼性のいずれかが確保されていれば、人事評価の結果も、データとして信頼性に足るという判断を下すことができる。
・評価者訓練には「評価誤差訓練」と「評価枠組み訓練」がある。これらにより、評価バイアスの低減と、評価の正確性を向上させていく。
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第2部 人的資源の評価要素
・職務遂行能力(職能)を正確に評価、測定する努力を、企業側が怠り、同一職務への滞留年数の長さを職能向上の代理指標としてため、能力主義の年功的運用という変異的制度に陥ってしまった。能力が、年功にすり替わってしまったのだ。
・コンピテンシーは、高業績と関連し、行動として顕在化する。職務遂行能力にかかわる新しい概念。
・パーソナリティーの類型理論として最も有名なのが、クレッチマー(1955)による「気質類型」である。
・パーソナリティーのBig5(5大因子)理論。Extraversion外向性、Neuroticism神経症傾向、Agreeableness調和性、Conscientiousness誠実性、Openness to experience開放性。我々のパーソナリティー特性が、この5つの特性によってほぼ十分に把握される。人事評価でも、調和性と誠実性(責任感)という性格特性は、評価要素としてもしばしば盛り込まれている。
・血液型性格診断は、科学的には全く根拠がないことが明らかになっている。
・アセスメントセンターでの評価方法では、演習課題の実施と、専門の評価者による行動評価がその基礎となる。
・評価基準を決めるうえで大切なのが、なにをもって公平と考えるかである。4つの原則 1)平等(Equlity) 2)必要性 3)衡平(Equity) 4)努力 の原則に則って、公平な処遇が行われるべき。
・我が国では、能力や頭の良さよりも、努力が尊ばれる土壌がある。その我が国で、努力の評価測定の試みを怠ってきたことは大きな問題である。努力を評価する手法を持たなければ、努力が報われる社会の入り口にも立てないのだ。
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第3部 人事評価の実証研究
・評価者は、人材の欠点を指摘しがちであり、減点評価が無意識に行われている。
・アリストテレスの「知・情・意」(論理性・協調性・活力)は、評価者の認識枠組みに自然に合致するものであった。
・情報公開によって評価の納得性は大きく向上する。
・処遇のための評価ありきではなく、評価結果をフィードバックして、部下の業績向上を目指すパフォーマンスマネジメントが、今後の主流となってくる。
・MBOは、知的水準の高い人にはとりわけ有効な施策であることが明らかになった。
・多面評価法(360度フィードバック)では、自己評価が正確であるほと能力開発に密接に結びつき、その後の成果や業績が高くなる。他者同士(上司と同僚)の間には、評価に高い一致が見られるが、自己評価は、甘くなりがち。
・対象者は、過大評価、適正評価、過小評価に、分類できる。
・過大評価者が、自己認識を下方修正し、行動面で業績を向上させること、また過小評価者が、自己認識を上方修正することは「自己一貫性理論」によって説明できる。他者と自己評価の結果が大きく食い違うことは、認知的不協和状態を引き起こすため、対象者は、他者評価の結果に一貫するよう自己評価を調整していくのだ。
・多面評価法に関しては、高い信頼性が確保されているといえる。
・フィードバックとコーチングの組み合わせは「パフォーマンスマネジメントのための成功の方程式」であり「黄金のコンビ」である。
・上司が効果的なコーチングを実施するにあたっては、360度フィードバックによるデータを活用し、本人に対する自分の印象や評価が、他者の目から見ても正しいことを確認しながら、コーチングを行っていくのが良い。
・能力向上のために、職場仲間の評価を用いたデータのフィードバックは極めて有効であることが明らかになった。
・オリンピック フィギュアスケート競技の評価者は、きわめて高い評価者間信頼性と、極めて高い収束的妥当性を示すことができることが明らかになった。
・成果面での評価を代表するのが、MBO(目標管理制度)であり、能力面での評価を担っているのが、多面評価法(360度フィードバック)であるといえる。
・人を評価するにあたっては、知性、意欲、情緒の3側面から見ていくというのは、わが国においては自然なものの見方だろうし、それが人事評価のデータからも経験的に示されたことは、大きな意義がある。
・人事評価の将来性は2つ。「努力主義人事制度」と「パフォーマンスマネジメント」
・わが社では、どのような人材が大切にされ、どのような行動を良しとするのか。それを最も分かりやすい形で示しているのが、人事評価。評価は、組織の鏡である。
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『組織現象の理論と測定』(野中・加護野 他 初版1978)
○組織論のレビュー。尺度もあるので、研究者には役立ちそう。
・組織論のパラダイムは、14に整理できる。
・組織現象の統合的コンティンジェンシーモデル
・組織現象測定の方法論の多くは、仮説検証型の定量的方法が多いが、仮説づくり型の研究では、定性的方法の採用が不可欠である。
・組織構造研究の最も重要な源泉は、Weberの官僚制論であろう。Weberの議論には、近代社会におけるあらゆるタイプの組織にとって、官僚制が最も合理的かつ効果的な管理機構であるという検証可能な経験的仮説が含意されている。
・McGregor(1960)、Argyris(1964)、Likert(1967)は、官僚制的構造の逆機能を重視し、官僚制的構造の有効性を全面的に否定することによって、参加的、有機的組織構造の普遍的な有効性を主張した。
・「車輪の再発見」と呼ぶ危険性。旧い構成概念に新しい名称を付けたに過ぎない可能性もある。(例:組織風土と、職務満足の関係)
・先行研究では、コンフリクト解消における問題直視の有効性を支持。
・多くのリーダー行動の実証研究は、タスクと人間関係の2次元か、専制的・民主的の単一次元を、リーダーシップの共通次元として示唆してきた。
・低配慮と、高構造は、高い苦情ならびに退職と関係していた。
・LPC(Least Preferred coworker)が高いということは、一番好まない同僚をもより好意的に近くすることを意味する。
・PMサーベイの質問項目 遂行 performance 維持 maintenance p248
・Maslowが提唱した欲求次元の階層性の仮説は、支持されてはいない。組織研究者によって取り上げられ、ミクロレベルの組織現象の説明のためのいわば公理として使用されてきたが、その実証に成功した研究はほとんど存在しない。
・組織機能を整理する際には、Parsons(1960)のAGIL図式が代表的である。
・インディケーター間に、階層性または因果関係性も存在している。例えば、Likert(1967)の仮説では、モラールという組織成果は、生産性という組織成果の因果的規定因と考えられている。
・ソシオメトリックスターとして、外部情報源、内部コミュニケーションネットワークの連結機能を果たす少数の「ゲートキーパー」がいることが判明。
・職務満足は、離職率、欠勤率、事故率と負の関係にあるが、生産性との間には、単純な関係はないと結論付けられた。
・Herzberg et al.(1959)の2要因理論をきっかけにした実証研究の結果、満足-不満足は、一本の軸であること、満足の決定因と満足の関係は、種々のコンティンジェンシー変数(モデレーター変数)に条件づけられることが明らかになっている。
・組織論において、初めて体系的に「同一化」を論じたのは、March & Simon(1958)である。彼らは、同一化を組織成員の態度変容のメカニズムないし、プロセスとして取り上げている。
・同一化概念と、ほとんど同じ意味をもつ概念として「コミットメント」がある。
・科学者を調査した結果、組織同一化と組織成果に負の関係があった。これを、Rotondi, Jr.(1975 )は、「組織同一化の逆機能」と呼んだ。
・Greiner(1972)の組織変動の5段階モデル。
・多角化戦略→事業部制 「組織は戦略にしたがう」という命題を導出(Chandler 1962)
・「介入(もしくは変革)」は3つの目的をもつ。1)態度変容 2)行動変革 3)その両方
・介入概念に対する理論的アプローチは極めて少ない。Lewin(1947)と、Schein(1969)のモデルを検討。
・Lewinは「場の力(Field force)のモデル」と「変革のプロセスの3段階」を主唱。「溶解化 unfreezing-変革化 changing-再凍結 refreezing」
・Schein(1969)は、この3段階の変革モデルを更に精緻化し、そのメカニズムを以下のように述べている。
・介入戦略の分類(Hornstein et al. 1971)
1)データベース戦略 2)個人変革戦略 3)技術、構造変革戦略 4)OD(組織開発)戦略
参考:野中先生の「私の履歴書(16)共同研究 「マネジメントは科学」」
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